57年目-3 マリアベールとダンジョン聖教
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マリアベール・フランソワ(39)
マルティナ・アーデルハイド(32)
神谷美穂(27)
フローラ・ヴィルタネン(16)
第五次モンスターハザードに際して、いくつもの勢力が一旦、WSO本部のあるスイスはジュネーヴへと結集していた。大ダンジョン時代が到来してから実に56年目のことである。
個人、パーティ、クラン、あるいは組織そのもの……半世紀もの間にソフィアとヴァールが培ってきた人脈をほぼフル動員しての大集合なのであったが、とりわけ目立つ個人や組織というものは当然ある。
世界初のS級探査者マリアベール・フランソワや、三代目聖女マルティナ・アーデルハイド率いるダンジョン聖騎士団などがその最たる例と言えた。
片やマリアベールは復帰直後、いくらかダンジョン探査、および地元のスタンピードを鎮圧したことから少なからず勘を取り戻しており。
片や聖騎士団のほうも、フィンランドの聖地からスイスに出立するまでの期間にて、独自の行動を取っておりその中でスタンピードの鎮圧や委員会の調査なども行っている。
他にもエリス・モリガナや早瀬光太郎率いる早瀬会。スイスには来ていないがシェン・ラウエン率いるシェン一族の協力もあるし、期待の新星アラン・エルミードの確保と編入もソフィアの手によって成されたという知らせもあった。
国や地域、老若男女の枠組みさえも超えた一大同盟がここに、形成されつつあったのである。
ダンジョン聖騎士団長、兼、三代目聖女。
歴代聖女の中でも飛び抜けて武闘派とも言われているマルティナ・アーデルハイドはWSO本部内の大講堂にやってきた際、いるとは分かっていたもののできれば一生再会したくなかった先達に目をつけられ、思わず渋面を浮かべていた。
率直に言ってあまり好きになれない相手が、大手を振って歩いてきたのだ。
「おう、アーデルハイド! 久しぶりだねえ元気してたかいこーの不良聖女っ!! ははは!」
「お、お久しぶりです……フランソワ先輩」
「マリアベールかマリーでいいよ! フランソワじゃイマイチ通りが悪いんだ、名前で読んでくれよなー」
長身のマルティナよりも若干高いスラリとした背丈。金髪を背中にかかる程度に伸ばしている、40歳前後の女性だ。
クリーム色のシャツに青色のスカート、ブーツを履いていかにも清楚にしているが、しきりに腰に提げた刀を揺らして不敵に笑うその姿はどちらかと言えば強気な印象を与えるものだ。
S級探査者マリアベール・フランソワ。
破天荒と揶揄されがちなマルティナをして、彼女こそ本物の破天荒だと言わしめる世界最強クラスの探査者の一人がそこにいた。
二代目聖女ラウラ・ホルンを通じて多少面識のあったマリアベールとマルティナだったが、気性は意外に沿わない……というよりマルティナが一方的にマリアベールを苦手に思っているのが実際のところである。
ソフィアやヴァールに匹敵する苦手な相手に、あろうことかこんなところで目をつけられた! ──引きつりそうな顔を笑顔で誤魔化し、彼女はマリアベールに向け、にこやかに挨拶したのだった。
「い、いるとは伺っていたんですよ、先輩も。あの、復帰されたんですねえ」
「まーね。第五次スタンピード、しかも今度もまた委員会がやらかしてると聞いたからには、私だけ呑気にエレオノールの世話ぁ焼いてる場合じゃないさ。復帰に際して鈍りを取るのにちょうど良くもあったしね、ハハハ!」
「そ、そうなんですかー。さ、さっすがー」
(復帰するトレーニングにちょうどいいから、なんて相も変わらずどうかしてますよ、この人! ……私も大概武闘派な自覚はありますけどこの人はもうなんか底なしですもの、付き合ってられません!)
引きつり声でマリアベールを称えつつ、内心ではドン引きの様相。つまるところマルティナはマリアベールの、あまりに好戦的かつ粗野で粗暴なところが恐ろしく思えていた。
マルティナもマルティナでそれなりに荒事を好ましく思うしそう思われるように動くが、あくまでそれは計算や演出を兼ねてのものでもある。
理屈や損得によらず、その時の感情次第で誰彼構わず噛みつく──今でこそ大分マシになっているものの、かつてのマリアベールがどれだけ恐ろしかったのかを知っている分、余計に今回、彼女が復帰したことは三代目聖女にとってゾッとしない話であった。
「神谷! あんたも来てたかい、久しぶり! そっちの嬢ちゃんはなんだ、娘さんかい?」
「ご無沙汰しております、マリーさん。この子は四代目聖女候補のフローラ・ヴィルタネンです……あの、一体いくつに見えてるんですかねこの子と私。精々が歳の離れた姉妹くらいのものと思うのですが」
「ふ、フローラです! よろしくお願いします……」
「へー、もうマルティナも引退ってかい? まーいいやよろしくねフローラ、私はマリアベール・フランソワってんだ! こないだ4年だか5年だかぶりに復帰したもんで足ぃ引っ張るかもしれんが、そん時ゃフォロー頼むよ! ハハハ!!」
そんな個人の感情をよそに、マリアベールは神谷やフローラといったダンジョン聖教内の古馴染みと話し込んでいる。
こういう、変に顔が利くところも厄介なのですよね! ……とは面と向かっても言えず、やはり内心でぼやきにぼやく三代目聖女であった。
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