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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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65/210

57年目-2 エリスと光太郎

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


エリス・モリガナ(52)

早瀬光太郎(46)

 マリアベールがダンジョン聖教と久方ぶりの再会をしているのと同じ頃。初代聖女エリス・モリガナと大親分早瀬光太郎率いる早瀬会の面々もまた、スイスはジュネーヴに到着していた。

 一年前に関西北部の温泉宿にて湯治していたエリスがヴァールの連絡を受けて早瀬会に合流。それから数ヶ月滞在してからの出立であった。

 

 この頃にはエリスも光太郎や早瀬会とも交流し、彼らのことを優しい友人として認識していた。

 また光太郎のほうもエリスを、見た目は可憐ながら中身はソフィアやヴァールに次ぐ偉大な戦士と認め、また第三次モンスターハザードの折には近隣でスタンピードを抑えていてくれていたという事実も含め、もはや下にも置かない扱いとなっていた。

 

 こうした縁が後々、光太郎の死後に孫娘の葵がエリスに師事するに至る導線であったのは言うまでもないことだろう。

 現代においては能力者犯罪捜査官チームとして活躍するエリスとその相棒、早瀬葵。

 その源流はまさにここ、第五次モンスターハザードにあったのである──

 

 

 

 スイス行きの飛行機の中、エリスは半年以上も世話になった日本の大探査者、早瀬光太郎やその家族と語らっていた。

 ヴァールの指示に従い彼らを訪ねた当初こそ行きずり程度のやり取りしかしていなかったのだが、光太郎やその妻、そして早瀬会の者達の温かいもてなしの態度に触れ、あっという間に打ち解けていったのである。

 

「いやー本当に光太郎くんや華さん、早瀬会のみんなには世話になってしまって! お陰様ですっかり日本贔屓になったよ、ハッハッハー」

「ハハハハ、それは何より! 俺としてもやっぱ、せっかく来てくれたんなら日本を好きになってほしいですからね、なあ華!」

「そうね、あなた。といいますかこちらこそエリスさんには、諸々探査者としてのご指導ご鞭撻をいただきまして、感謝に絶えません」

 

 元々、日本のことはマンガやアニメなど独自の娯楽が多いこともあり好感を抱いていたエリスだが、その上で現地の者にこうまで優しくされてはさらに好きにならざるを得ない。

 不老体質の関係上、第五次モンスターハザードが終わればまた放浪の旅。早瀬会を訪ねることも今後四半世紀はないものと定めているのだが、それも惜しくなるほどに今回の滞在は素晴らしいものだった。

 

 かくいう光太郎夫妻もまた、エリスには大変な感謝と尊敬の念を抱いていた。

 何よりもまず実力がすさまじい。早瀬会の大親分、中部地方最強のA級探査者として君臨していたこの時の早瀬でさえ、エリスにはおそらく指一本とて触れることができぬまま敗れるだろう。そう思わせるだけの技術力と経験、そして単純な強さを彼女は宿していたのだ。

 

 しかも滞在中の礼と言ってそれらの技術を惜しみなく、自分や早瀬会の探査者達に教授してくれる。

 残念ながら高度すぎるため、その技の3割程度しか会得できなかったものの……それだけでも早瀬会全体の実力が大きく向上したことは、ここ最近の会のクラン実績が飛躍的に伸びたことからも伺えた。

 

 旅の食客にして恩人。早瀬会そのものの師匠。

 わずか半年で若い者達からもそう見られ、美貌から若い衆から淡い想いさえいくつも向けられているエリス・モリガナ。

 光太郎は心からの敬意とともに、彼女にもう一度だけ、かつても投げかけては断られた提案を差し向けた。

 

「エリスさん。最後にもう一回だけ……このまま早瀬会にいてくれませんか、モンスターハザードが終わっても」

「…………光太郎くん」

「不老だからなんだってんです、そんなら前例なんて一人いるじゃないですか。あの人みたいに白々しい笑顔で永遠の18歳ですとでも言っときゃ、少なくともうちの会の連中は単純なんだからそれでどうとでもなる」

「それソフィアさんが聞いたら怒るよ? ハッハッハー……いやあ、ごめんね」

 

 さすがに15歳の頃より格段に円熟し、ソフィアに対しても敬意を抱きつつも言いたいことは言う光太郎。そんな彼に面白そうに笑い声をあげながらもしかし、エリスはやはり固辞した。


 光太郎や華はエリスの不老体質を知っているが他の者はそうではない。

 今は優しくとも、今は温かくとも……不老、歳を取らない存在が近くにいることは、間違いなく周囲にとって良くない影響をもたらすだろう。

 かつての仲間、今はもう死んでしまったと風の噂で耳にしたシモーネ・エミールのことを思い返しつつも、彼女は努めて明るく笑う。

 

「ま、みんなが忘れた頃にまたひょっこり顔を見せるよ。そしたら誰? って首を傾げながら、また酒の一つでも飲み交わしてくれると嬉しいね、ハッハッハー」

「エリスさん……」

「……ありがとう。永遠かもしれない放浪の旅路の中で、早瀬会のみんなと過ごしたこの一時はとても、得難いものだったよ」

 

 淡く微笑む。はるかな時の流れの中で34年もの間、老いることなく孤独を重ねてきたその顔の、透明さと綺麗さたるや!

 ……けれどそこに、どうしようもできない哀しみもたしかに感じて。早瀬光太郎とその妻、華は沈痛にうつむくしかできなかった。

 スイスは、もうすぐそこだ。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 光太郎の孫にしてエリスの弟子、葵が頑張る「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にエリスさんは個人的に創作界を見ても『最推し』の1人です。
[一言] エリスさんにとっては、まさに一期一会なんですね
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