56年目-6 早瀬会の大親分
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
早瀬光太郎(45)
ヴァール(???)
第三次モンスターハザード解決の立役者、早瀬光太郎。
極東日本は中部地方の若き探査者だった彼は、それからの日々を大きな躍進とともに過ごした。
WSO統括理事やモンスター学の教授、アジア最強クラスとの呼び声も高い拳法家と共闘したこと。
そして戦いの中で独自行動を取りがちだった現地探査者達を見事に纏めてみせたことから事件後、周囲に請われるがままに複数の探査者パーティで構成される一団、俗に言うクランを結成したのだ。
そのクランの名は分かりやすくも"早瀬会"。
弱冠15歳にして30近いパーティの総リーダーとなった彼はその後も、活動の幅を中部地方の片田舎から徐々に広げていき──
結成30周年を迎える第五次モンスターハザードの頃には、中部全域のほとんどの探査者を擁する一大クランの大親分と成り上がっていた。
そんな彼にとってWSO統括理事ソフィア・チェーホワこそは若き日の大恩人にして、今なお世界を牽引し続ける雲の上の人。また時折来日した際には、会も総出でもてなすVIP中のVIPである。
そんな存在からの要請に、応じない選択などあるはずもないのだった。
「第五次モンスターハザード! なんてことだ、30年前のようなことをまたしでかすやつらが現れたんですか、ヴァールさん!!」
『うむ。しかも残念なことに首謀たる組織は第一次、第四次の二回に亘り同様の事件を引き起こしてきた連中だ』
「なんですと! ってことは今回で三度目!? っはあー……懲りないワルもいるもんですな、世の中!」
久しぶりの尊敬する先達からの電話に、応じたと思えばとんでもない話を聞かされた。早瀬光太郎は驚きの叫びをあげるとともに、騒動の匂いがしてきたことに胸を高鳴らせた。
第三次の頃は15歳と若々しい少年だった彼も今や45歳。短髪には白髪が混じり顔にも皺ができ、老成した雰囲気を醸し出す古強者といった風情だ。
息子娘も成人し、妻と悠々自適に過ごしつつも時折自身の運営するクラン"早瀬会"の若手達に指南がてらダンジョンに潜る日々。
このまま平穏無事に人生を送っていくのかと、満足しつつも少しばかり物足りないものも感じていた中、今回の話がもたらされた。
自宅の電話の受話器を壊しそうなくらい強く握りしめて、彼は鼻息を荒くする自分を認識していた。
聞けば30年前の騒動と同じことが世界中で起きているのだと言う。
モンスターハザード……スタンピードを人為的に引き起こすならず者どもによる大犯罪。かつて早瀬も味わった死闘が今度は、世界を舞台に繰り広げられるというのだ。
『ついては早瀬。お前とお前の率いるクラン、早瀬会の人員も借りたい』
「そいつは……それはもちろん! 参加させてくださいソフィアさん! 他にどんなクランが来るかは知りませんが、うちの会が一番の働きをしてみせますよ!!」
『頼もしいことだな。他にはダンジョン聖教の聖騎士団とスイス、イギリス、フィンランドにフランスやアフリカ方面からもクランやパーティをいくつか呼び寄せている。無論能力者犯罪捜査官チームも呼び寄せ済みだ。とにかく戦力を一度集結させて、総力を挙げやつらを叩き潰す』
「おお、おお……っ!」
ヴァールが呼び寄せるという、信じがたいほどの大所帯。複数国によるクラン同士の一大連合ともなれば、それだけ規模の大きく派手な戦になるのは間違いない。
不謹慎なのは承知の上でそれでもなお、彼は滾る血と鼓動の高鳴りを自覚して凄絶に笑う。
燃える。血が燃える。
あの頃、30年前に感じたきりのあの感覚──一つの大義の下に集まり、みんなで力を合わせて難敵を倒し難局を乗り越える高揚感をまた味わえる。
良くも悪くもずっとダンジョン探査だった今の日常と、決定的に異なる戦いに参加できるのだ!
普段は穏やかで大らかな光太郎だが、自身の人生の契機ともなったあの戦いがもう一度できるかもしれないという想いから、すでに気迫は臨戦態勢だ。
その熱量、熱意が電話越しにも伝わったのか、ヴァールは微かに笑い声を漏らした。
かつての少年が、歳を取ってもなお変わらぬ気炎を吐いたことがどこか、感慨深かったのである。
『フッ……良い意気だ。よろしく頼むぞ、早瀬会の大親分』
「お任せください! 世界に向けて、早瀬会は見事に日本の探査者の心意気を示してみせますよ!!」
『ああ、期待している。それからもう一点。我々WSOに協力してくれると言うならば日本支部のスタッフ引率の下、スイスにまで来てほしいのだが……その際に同行させてやりたい探査者が一人いる』
かつての仲間である光太郎に大きな期待を寄せて後、ヴァールは関連して次の話題を持ちかけた。
光太郎に電話をかける直前まで話をしていた、これまた古馴染みの戦友エリス・モリガナについてである。
エリス、光太郎両名の助力を取り付けることに成功したため、大手を振って彼ら彼女らにはスイスに来てもらうことになる……そのための段取りを今から説明するのだ。
『名をエリス・モリガナという。青い髪の西洋人で、ナリは18歳少女だが実際はお前よりもいくらか歳上の……ワタシと同じ、不老体質の人間だよ』
「! ……エリス・モリガナ」
『そのうちハッハッハーなどと珍妙な笑い声をあげながらお前のところを訪ねに来るはずだ。よろしくしてやってくれ、ワタシやソフィアにとってはおそらく、一番の戦友なのだからな』
「あなたがそこまで言うとは……分かりました! モリガナさんの来訪時には早瀬会、総出で歓迎いたします!!」
不老の存在など、ソフィアとヴァールくらいのものだと思っていたがまさか他にもいたとは! そして何より、この人をして一番の戦友と呼ばしめるエリス・モリガナ!
──歳を重ねても短絡的な思考回路の光太郎はすでにこの時点でエリスに対する尊敬心が芽生えていた。恩人の戦友たるその方を、なんとしてでも歓待しなくては! と。
結果として実際にエリスが早瀬の元を訪れた際、過剰なまでのもてなしを受けて困惑しつつもハッハッハーと笑う少女の姿が確認されるのであるが……
それはまた、別の話である。
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