56年目-4 二代目と三代目
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マルティナ・アーデルハイド(31)
ラウラ・ホルン(48)
理由ある苦手意識を抱くソフィアと、理由なき恐怖の対象であるヴァール。二重の意味で関わり合いになりたくないのが本音の三代目聖女マルティナ・アーデルハイドであったが、今回ばかりは事情が事情だった。
第五次モンスターハザードが起きていることが確実視されたとなればもはや私事は介さず、ダンジョン聖教の絶対的存在たる聖女としての使命を果たす必要があったのだ。
すなわちスタンピードの鎮圧と、それを手引しているらしい委員会なる存在の追跡と撲滅。
ヴァールからの電話を受けてマルティナは即座にダンジョン聖騎士団と聖女直属の謀略部隊に指示を出した──WSOとの連携はもちろん図るがそれはそれとして、ダンジョン聖教は独自での調査を開始したのである。
それと同時に彼女自身は一路、イギリスはウェールズ地方カーディフを訪れていた。
隠居した先代聖女、ラウラ・ホルンを訪ねに行ったのである──
久しぶりの弟子の姿は、いつも通り明るく元気ながらどこか深刻な気配を纏わせていて。
二代目聖女ラウラ・ホルンはああこれは、彼女も報せを受けたのだなと確信しながらもマルティナを自室に招き入れた。
カーディフに移り住んでほぼ10年。探査者としては肉体的に限界を迎えたことから、ラウラの生活は極めて穏やかに安定したものへとシフトしていた。
ダンジョンに潜りモンスターを倒してコアを回収する、いわゆる外勤のほうは引退し……もっぱら全探組などで事務仕事を行う内勤の専従となったのだ。
加えて先代聖女として、ダンジョン聖教においては幹部格にあたる司教の位にもついており、現地の騎士団員の教育にも力を入れている。
プライベートについても、8年前には15歳も歳下の全探組職員の男と結婚し、子供も2人儲けて幸せな家庭を築いているほどだ。
今年でもう48歳にもなる偉大な先達。彼女に対してはマルティナも頭が上がらず、最大限の敬意をもって接してきていた。
「ラウラ様、ご無沙汰しております。申しわけありません、平穏なところにまで突然押しかけまして……」
「気にしないで、マルティナ。ヴァールさんからの電話を受けて来たのでしょう? 第五次モンスターハザードだなんて、何十年経っても似たようなことは起こるものなのね」
「……あのバケモノ。よりによってラウラさんにまで連絡を。引退して久しい方の力まで借りようなんて、なんて図々しい……!」
すでにラウラにも電話をしていた、ヴァールの動きの早さは感嘆すべきかもしれないが。
それよりももう戦えない身体の彼女にまで話を通したことが許せず、マルティナはここにいない統括理事に悪態をついた。
ヴァールの、使えるものは何でも使う手段の選ばなさは本来であれば自分にも通じる考え方だ。
どちらかと言えば統括理事の表の顔とも言うべきソフィア・チェーホワの融和的発想のほうが気に食わないはずなのだが……どうしてもやはり、裏人格のほうに嫌悪と恐怖を抱いてしまう。
これはもはや本能的なものだろう。それにそんな手段の選ばなさが共通しているとは言っても、すでに引退済みの、身体的理由から戦いから身を引いたラウラを利用するなど到底受け入れがたいものだ。
それゆえ憤るマルティナを見て、当の二代目聖女本人が苦笑いを浮かべつつ軽くたしなめた。
「ヴァールさんに対して失礼よ、マルティナ。あの方は私にとって大恩ある方。嫌うこと自体をとやかく言わないけど、せめて私の前で彼女をどうこう言うのは遠慮してもらえると助かるわ」
「う……失礼しました。ですが、いくら統括理事でも今のラウラ様にまで声をかけるなんてことは許されるはずもありません」
「それも誤解。あの方が私に電話してきたのは、第五次に関する注意喚起ともう一つ……エリスお姉様の所在を確認するためよ。私にはむしろ、くれぐれも無茶しないようにとずいぶん釘を差されたわ。マリアベールさんがどうも無茶なことを言い出したみたいなの」
誤解を指摘しつつもなお、苦笑いする。ヴァールからの話を思い返してのものだ。
ラウラに電話をかける前に話をつけたマリアベールが、なんと数年ぶりに探査者として復帰すると宣言したらしいのだ。
彼女の娘であるエレオノールをずいぶん可愛がっていたヴァールが、珍しく困ったように愚痴ってきていたのが印象深かった。
エリスの所在を確認しつつも、ラウラに対しては絶対に戦線に出たりするなと強く釘を差してきたのだ。
さすがのマリアベール・フランソワ。破天荒ぶりにかけてはうちの三代目さえ凌駕するわね……と、友人と後輩を密かに比べつつもそのような経緯を説明すれば、マルティナは納得して言った。
「フランソワさんはともかく、なるほど初代様の居所ですか……ちなみに二代目様、あの方が今どこにいるのかご存知なんですか?」
「ええ、もちろん。今は極東アジアは日本にいるわね、この間も電話でやり取りしたもの。なんでもシルクロードを経由しながら各地のスタンピードを鎮圧していたら、気づけば海を渡っていたみたいよ」
「無茶苦茶ですね相変わらず、あの方……一人でスタンピード鎮圧するのもそうですけど、何をどうしたらいつの間にやら海を渡るなんてことになるんでしょうか」
「お姉様は昔から……出会った頃からそうなのよ。フラフラどこかに行ったかと思えば、信じられないようなことをやってのけているの。ホント、当時の仲間達も呆れていたわねえ」
呆れ返る三代目聖女に、微笑む二代目。
初代……エリス・モリガナとはマルティナも一度だけ出会ったことがある。
ソフィアやヴァールと同じ不老存在でありながら不気味なものは一切なく、むしろ気兼ねなく気楽な調子で話ができたものだから、ずいぶん好印象を持ったものだ。
しかしてそんな彼女だが、実力のほうは間違いなく世界最強クラスだろう。ヴァール相手に感じた絶対的なまでの力の差を、彼女にも感じたのだから。
実際、今もシルクロードを通ってはるばる日本までスタンピード鎮圧の旅路を続けていたなどと聞かされては認めるしかない……普通そんな旅など考えつかないし、考えついたとて実行しない。
「ホント、とんでもない初代様ですよ……っていうか、そのへんの話をしたからには今頃、ヴァールさんはあの方に電話を?」
「入れてるでしょうねえ……各地のスタンピードを鎮圧して回っているのですから、お姉様もすでにそれが人為的なものだと分かっているでしょう。第五次モンスターハザードに、あの方はすでに大きく参戦されているのです」
「究極の現場主義。風来坊だからこその身軽さとアンテナの高さってわけですか」
WSOも、ダンジョン聖教も、各国も誰もかも。ようやく委員会の存在を突き止めてさあ今から対処するぞと息巻き始めた今この時。すでにエリスだけは事態を把握して動いていた可能性さえあるのだ。
ラウラは当然、マルティナもエリスに敬意を抱くほかない。初代聖女は今もなお、気高い誇りと正義感、信念でもって戦い続けていた。
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