55年目-1 三大聖女の邂逅
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マルティナ・アーデルハイド(30)
フローラ・ヴィルタネン(14)
神谷美穂(25)
二代目聖女ラウラ・ホルンが聖女の称号を次代に託し、イギリスにて半ば隠居を決め込むようになってから10年近くが経過する頃。
ダンジョン聖教内では彼女の後を継いだ三代目聖女、マルティナ・アーデルハイドによる改革が断行され、さらなる飛躍を遂げていた。
具体的には信者の探査者によるダンジョン探査集団、ダンジョン聖騎士団を結成。自身がその初代騎士団長になり、組織ぐるみでの大規模なダンジョン探査を行うようになった。
また、それに伴い信者の家から探査者が発生した場合、その探査者を聖騎士団の寮施設に預かり新たなる騎士としての教育や訓練を施す制度をも制定。
これによりダンジョン聖教はいわゆる探査者クランとしての側面をも持つこととなる。
上記のことからもうかがえる通り、マルティナは聖女ながら本格的な武闘派として名を馳せる聖女であった。
性格的にも先の初代エリスや二代目ラウラと比較して明らかに粗雑であり、聖女就任後間もなくの頃に偶然遭遇したWSO統括理事ソフィア・チェーホワがその後、ダンジョン聖教としばらくの間距離を置くようになっていたことからもその過激さは分かるというものだろう。
とはいえ、決して悪人の類ではない。
マルティナはマルティナで自身の信念の元、善なる物事のために邁進する一人の信者であったこともまた、事実なのだ。
そしてそんな彼女は意外な計算高さをもってこの頃、一人の有望な少女を己の後継者候補として迎え入れていた──
ダンジョン聖教司祭、神谷美穂は三代目聖女マルティナが連れてきた少女を、目を丸くして眺めていた。
青みがかった金髪をショートヘアにまとめた、白いローブの女の子だ。歳の頃は14だそうだが、小柄ゆえかそれよりも幼く見える。
フィンランドはダンジョン聖教の聖地、今では公的なものではないにせよモリガニアと称される都市。その総本山たるダンジョン聖教大聖堂の談話室にて。
突然話があるから来てくれと呼ばれてきてみれば、いきなり見ず知らずの子を見せつけられ……率直に意味不明だと首を傾げた神谷に、マルティナは爆笑して言った。金色に揺れる三つ編みの髪を首元から垂らした妙齢の女性の、全力の笑い声が部屋中に響く。
「あはははははは! 美穂ってば案の定な反応しますね! さすがはクソ真面目!!」
「マルティナ様、そのような言葉遣いは聖女には似つかわしくありませんよ? 前から言っておりますがもっと、礼節に則った言動をですね」
「はいはいはいはーい! そんなことどーでもいーですから! この子! この子のことですよ今話すべきは!!」
ラウラから《聖女》の称号を受け継いだ者として、恥じることない姿を見せるべきだ、と。
何かにつけそんなことを主張しては説教してくる、5歳年下のこの友人をマルティナは存外に好いていた。自身に課された役職の、あまりにも重すぎる責任や使命を……神谷は真剣にサポートしてくれているのだと分かっているからだ。
元よりマルティナと神谷はほぼ同時期に先代のラウラに見出された聖女候補生。その誼もあり、二人は立場の上下を越えた友情で結びついていた。
無二の親友へ、連れてきた幼子を紹介する。
「フローラ・ヴィルタネン。今年で14歳でしたかね?」
「はい、聖女様……あの、こちらの方は?」
「私の親友です! 神谷美穂っていってね、普段は静かなんですけどひとたび怒ると私より強くて怖いんですよー?」
「ぴぃ!?」
「聖女様ッ!!」
満面の笑みで平然と風評を垂れ流すマルティナに、神谷は顔を真赤にして激高した。
常はまさしく聖女然とした貞淑な女性である──実際この後、とある事情から五代目聖女を継承する──彼女だが、実のところ非常に短気かつ、怒ると顔を見るからに真っ赤にしてしまうという癖があった。
その様は彼女が駆け出しの頃に姉貴分であった先輩マリアベール・フランソワをして、
『お前さん、私が言うのもなんだが喧嘩っ早すぎんだろ。下手すっと私より手ぇ早いんじゃないのか?』
とまで言わしめる有り様だったのだ。
そのため過激派ながら計算ずくで動くマルティナのほうがより聖女たり得るとの判断をラウラは下し、三代目聖女の継承先が決定されたという経緯がある。
"顔も赤けりゃ拳も赤い、血塗れ司祭の神谷美穂"とは彼女に喧嘩を売った末に殴り倒された、男達の断末魔にも似た揶揄である。
今もまさしくその不名誉な噂の通りに顔を真っ赤にしてしまったことにより、少女ことフローラが身をすくませて微かな悲鳴をあげてしまい……そこでようやく神谷はハッと我に返り、常の優しい微笑みをもって少女に語りかけたのである。
「ご、ごめんなさいヴィルタネンさん。私は神谷美穂。そこの口が悪い聖女様の補佐を務める、ダンジョン聖教の司祭です。よろしくお願いしますね?」
「は、はい……! よろしくお願いします、神谷様!」
戦慄の形相を垣間見つつも、けれど優しく微笑まれたことにホッとしたのかフローラは素直に頭を下げた。
どうやら大人しくて優しい子らしいと、マルティナが連れてきたからにはただならぬ問題児なのではないかと危惧していた分ひどく安堵する神谷。
だが……次いで聞こえてきたその聖女からの言葉に、またしても顔を真っ赤にして激怒することになるのだった。
「その子、私の次の聖女……四代目にしますから」
「……は?」
「つきましては美穂、あなたがその子を教育してあげてください。私が見込んだ以上、きっととんでもない天才なのは間違いありませんからね! そこんとこよろしく!」
あっけらかんと、とんでもないことを告げるマルティナ。
次代の聖女? この少女が? 何故? そもそもいきなり何を?
────次々に湧いては積み重なる疑問。
それらは収まりかけていた神谷の怒りをこれ以上ないほどに刺激し、容易くその怒りを即座に頂点へと導いた!
「…………マルティナ・アーデルハイドッ!! そこに直りなさい、この愚か者ォッ!!」
「ぴぃっ!?」
「あはははははは! 美穂ちゃんたらコワーイ! 逃げろ逃げろ、フローラちゃんも逃げましょーう、食べられちゃいますよー!」
「食べますかっ!! 下らぬ口を叩かず良いから正座ァッ!!」
完全に頭に血が上り、怒号とも表現できるほどの叫びをあげる司祭、神谷。
それに一切動じず、むしろさらに面白がってフローラさえからかうマルティナ。
後の世、現代においてこの日の出来事は、ダンジョン聖教の信者達から半ば神話めいた逸話として語られることとなる。
"三大聖女の邂逅"。すべてを見通すが如き偉大な三聖女による伝説的な会合とされているのだがその真実はこの通り、破天荒な三代目によってただただ振り回される次代聖女達という構図でしかなかった。
間違えてスキルがポエミーのほうに投稿しちゃってました!失礼しましたー
ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー
ダンジョン聖教の話も出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://ncode.syosetu.com/n8971hh/
書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー




