54年目-2 いずれ怪人と呼ばれる男
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
グェン・サン・スーン(23)
国際探査者連携機構、通称WSO。
100年前の大ダンジョン時代到来から現在に至るまで、常に世界と時勢を牽引してきた国際組織であることに異論を持つ者はいないだろう。
永遠の探査者少女ソフィア・チェーホワを頂点とするかの組織は、常に盤石の体制をもって探査者に纏わるあらゆる事態、問題に取り組み解決を試みてきたが、かと言って一枚岩かと言われると疑問に残るところもある。
ソフィアが組織の絶対的中枢であることは間違いないのだが、その下、理事クラスの役員以下ともなるとそれぞれに派閥が分かたれているのだ……国連そのものにも匹敵する権威を持つ世界的組織であるならば仕方ない話ではあった。
さらに言えばそうした区分があるならば、各派閥同士による権力争いも少なからず起きることもまた、人の世の常として仕様がないことであり。
現代でも統括理事たるソフィアの意志は確実にあらゆる派閥が絶対遵守するものの、それ以外のところでは散発的に小競り合いめいた争いを繰り返しているのがWSOという組織の実情とも言えるだろう。
同組織はそれゆえ性質上、権力を持つ理事や役員が時勢や状況によって頻繁に交代するという側面を持つ。
しかし……その中にあってなお、30年近くに渡り事務総長というポジションに君臨し続ける存在がいた。
その名をグェン・サン・スーン。
若くは"怪人"、老いては"怪翁"とも呼ばれし大ダンジョン時代の大御所政治家である。
サン・スーンはこの頃から遡ること10年前、探査者としてのキャリアを開始して以来ひたすらにダンジョン探査を行ってきた。
故郷ベトナムから隣国タイ、ラオス、カンボジアまでをも巡り、日夜発生するダンジョンを踏破し続けて人々の生活と安寧を護り続けてきたのである。
東南アジア方面においては現代の英雄とも持て囃され、下手なムービースターよりもなお人気を誇った地域の雄。そんな彼がしかし、ある日突然こう宣言したのだ──
『俺は今からWSOの本部役員を目指す。そしてあのソフィア・チェーホワの後を継いでみせる。そうすることでより高い視座、広い視野から大ダンジョン時代と呼ばれるこの時代を観察し、真に世界にとって正しい選択を模索していきたい』
──と。これを聞いた現地の住民達は当然、彼をからかうように笑った。
WSOは大ダンジョン時代を牽引する、探査者の中でもエリート中のエリートの集結する組織。英雄ではあってもインテリではまったくないサン・スーンでは無理だ、と。
ましてソフィア・チェーホワの後を継ぐなどと! ……大ダンジョン時代が半世紀を経過したこの頃、すでに彼女の名は世界中どこにあっても一切揺るぐことのないビッグネームとなっていた。
永遠の探査者少女。大ダンジョン時代の実質的な支配者にして、慈愛と正義、信念を併せ持つ英雄の中の英雄とさえ囃し立てる声も少なくないのだ。そんな彼女の後継になど、いかな東南アジアの英雄であっても無理だと誰もが彼を笑っていた。
だが、しかし。
その発表から2年後にあたる今般。見事にWSOの職員試験に合格し、新調のスーツを着こなしベトナムのWSO支部のスタッフとなったサン・スーンの姿が新聞にて大々的に取り沙汰され、現地住民達はひどく動揺するのだった。
「ホハハハ! いやーやってみるもんだな、まさかこの俺がWSOの職員になれるとは!!」
ベトナムにおいて一番とも言える大手新聞の一面、大きく掲載されたスーツ姿の己を見てサン・スーンは豪快に笑った。
彼の自宅、タイのバンコクにて構えたプールに庭付きの豪邸で、優雅なティータイムを過ごしながらの一時だ。
黒髪を長く伸ばして後ろに束ね結んだ、筋骨隆々の青年である。
10年も探査者として活動してきたことからそこいらの大富豪など目ではないほどの資産を獲得した彼は、多くの愛人達に甲斐甲斐しい世話を受けつつもしかしてなお、野心と情熱を燃やし続けていた。
すなわち、東南アジア内で終わってたまるかという野心。
大成する機会を得た人生ならば、目指すは当然頂上。ソフィア・チェーホワの座すWSO統括理事の席であろう、と。
当然ながら持ち合わせている探査者としての正義感や信念、使命感とは別口に、彼はそうした個人的野望や野心を若くから一切、隠そうとはしていなかったのである。
「今はまだアジアの数国に名を刻む俺だが、いずれは世界にその名を轟かせてやろうともさ! あー、もちろん、悪名はなしでな? 俺は偉大な正義として後世に名を遺したいんだ、チンケな悪党なんぞとして語られるなんざジョーダンじゃない。分かるよなお前ら? 分かってくれよお前ら?」
「さてどうでしょう……グェン様ってば露悪的なところありますしねー」
「変なところで照れ屋でぶっきらぼうで、だから皮肉に走って嫌われがちなとこありますものね」
愛人が淹れてくれた茶を飲みながら、自信たっぷりに語るサン・スーン。大言壮語も甚だしいのだが、彼にはそれが許されるだけの実力と実績がある。
それは彼を愛する美女達ももちろん承知のことだ。しかし……それを分かった上でなお、若く見目麗しき彼女らはあえて愛するサン・スーンをからかう言葉を口にした。
それを彼本人が望んでいることだと、しっかり理解していたからである。
「むぐっ! ……いいんだよ、どうせ好きも嫌いも他人のそれは俺にはどうにもできんのだし。俺は俺の好きなように振る舞うだけだっての!」
敵わないとばかりに頭を掻くサン・スーン。
お調子者で女に弱く、それでいて正義感に溢れた義侠の徒──しかして腹の中には壮大極まる野心を抱え込んだ、大ダンジョン時代における奸雄。
WSOの職員となって以降、富にその野心を前面に押し出すようになってからは"怪人"とも呼ばれるようになる彼もまた、新たな世代を代表する探査者の一人であることには違いなかった。
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年老いたサン・スーンも登場する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
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