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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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49/210

46年目-4 三代目聖女

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


エリス・モリガナ(41)

ラウラ・ホルン(38)

ソフィア・チェーホワ(???)

マルティナ・アーデルハイド(21)

 二代目聖女ラウラ・ホルン、引退。

 ダンジョン聖教を組織し、わずか17年で世界的な大きな宗教にまで育て上げた辣腕の突然の表明に世界は少なからず衝撃に揺れていた。


 永年に亘り献身的にダンジョン聖教の象徴的存在、ならびに探査者としての活動を続けた結果……彼女の身体はもはや戦うことが困難になったのだ。

 すべては最愛の姉貴分である初代聖女エリス・モリガナを求める一心だったのだが、それゆえに無理をしすぎた。


 日常生活には支障はきたさないものの、今後もモンスターとの戦いを続けていけばそれも危ういという医師の診断も受け、彼女は引退を決意したのであった。

 幸いにしてエリスは引退ギリギリのところで発見でき、彼女との連絡ルートも構築できた。不老存在である関係上ラウラとともに過ごすことは叶わないにせよ、折りに触れ会いには来てくれるという約束は交わせたのだ。

 悲願を果たせた今、今の地位や今後の活動に執着する理由もなかった。

 

 さてそうなると次に世間が気にしたのは彼女の後継、すなわち三代目聖女についてである。

 目下のところ、候補は二人いた。揃ってラウラに見出され弟子のような形で修行していた、マルティナ・アーデルハイドというドイツ出身の女性探査者と、神谷美穂という日本出身の女性探査者である。


 どちらも互いに仲が良く、マルティナのほうが5歳年長であったが同世代もかくやと言わんばかりに気のおけない仲でもあった。

 また実力のほうも申し分なく、どちらが三代目となるにせよダンジョン聖教は安泰と言われるほどに盤石の体制であった。

 

 結論から言えば、ラウラの後を継いでの三代目聖女には、マルティナが据えられることとなる。

 ラウラ38歳、マルティナ21歳のことであった──

 

 

 

 称号《聖女》の効果が発動する。ラウラ本人さえも知らない、一生に一度きりしか発動できない効果だ。

 その仔細は"任意の対象にこの称号を譲渡する"こと。すなわちラウラは今この時、己の持つ《聖女》の称号とそれに付随する様々な権威権力権勢を、目の前の弟子に引き渡そうとしていたのだ。

 

「これが……《聖女》の光。初めて見ました」

「え……二代目様の時は違ったんですか? この光とは」


 感慨深さにつぶやく二代目聖女ラウラ・ホルンに、今まさに三代目聖女となるマルティナ・アーデルハイドはキョトンと声をあげた。

 ダンジョン聖教は聖地に聳える大聖堂内。彼女達と一部の関係者しかいない中で行われた聖女継承の儀にあって、彼女はなんの気後れも緊張もない自然体のままだった。


 腰元まで伸ばした灰色の髪を、先端部分で束ねている端正な顔立ちの美女。その性格は天真爛漫で笑みを絶やさず、しかして戦いともなれば鮮やかな手際でモンスターを始末していく……

 聖女候補の時分からその強さはヨーロッパ圏で知られていた天衣無縫の女傑である。そんな彼女へ、ラウラは困ったように笑いながらも答えた。


「私の時はそもそも、寝ている間にお姉様……初代様が勝手に継承していたもの。第二次モンスターハザードが終結したその次の日の朝、気付けば私の称号は《聖女》になっていて、初代様は何処かへと姿を消していたの」

「それはひどい」

「は……ハッハッハー。その節はほんとうにごめんね? ラウラ」

 

 ラウラの場合、すべての継承が事後、目を覚ました時には行われていた。不老を苦にして失踪したエリスが、どうしたことか最後に遺した形見のような称号……それが彼女にとっての《聖女》だ。

 もしもあの時、継承が行わなければ間違いなくダンジョン聖教はなかっただろう。それほどの重大事が、まさか当人の預かり知らぬ間に行われていたとは知らずに率直に感想を述べるマルティナに、その場にいたエリス当人が気まずげに笑い声を上げた。

 

 この場において、当事者であるラウラとマルティナ以外にはエリスともう一人、WSO統括理事ソフィア・チェーホワがいた。

 儀式を行うにあたり先代、あるいは先々代となる初代聖女は立会人としていてほしいとラウラが願ったからでもあり、またソフィアはエリスが何かの拍子に逃げ出したりしないようにという目付けの役割も兼ねている。

 

 このあたり、エリスに対する信用は皆無に等しいのだ……23年もの間逃げ回ってきたこれもツケだと、彼女自身受け入れて苦笑いするばかりだ。

 ともあれ、初代もまた当時を振り返って話す。

 

「そのー、正直もうどこにも帰れないって想いしかなかったからね当時は。それでもせめてラウラにだけは何かを遺したいと思ってたし、あと家族に対しての証明書みたいなノリで《聖女》を渡したんだよ。それがまさかこんな、宗教興しちゃうだなんてねえ」

「さすがにこれは私もヴァールも予想できなかったわねえ……それはそれとしてエリスちゃんは後でお説教だけど。23年間もみんなを心配させて、まったくもう!」

「い、いやあハッハッハー。お手柔らかにー!」

 

 微笑みながらも目が笑っていないソフィア。普段から素の言動は実のところヴァールより恐ろしいと評判の彼女の本気を受け、冷や汗をかくエリス。

 そんな姿さえも23年ぶりのことで、儀式の途中にも関わらず涙ぐむラウラと、三者三様の古馴染みについていけず愛想笑いを浮かべるばかりのマルティナ。


 とりあえず目の前にある《聖女》の光を手に取れば良いのかと思案しつつも……

 三代目聖女継承はかくして、このように行われたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普段穏やかな人の怒りがヤバいのはよくあることなのだ! それが23年分キャリーオーバーしているから、マジでヤバイ
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