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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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45/210

45年目 ラウラとエリス

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


エリス・モリガナ(40)

ラウラ・ホルン(37)

 人から人へ、継承できる特性を持つ極めて特殊な称号《聖女》。

 初代たるエリスからそれを受け継いだラウラがダンジョン聖教を興したのであるが、彼女は同時にエリスの捜索にも全精力を注ぎ込んでいた。

 

 何しろ第二次モンスターハザードの最終局面において、いきなりラウラに聖女の座を明け渡して自らはひっそりと姿を消した姉貴分なのだ。

 後にヴァールからエリスの顛末──スキル《不老》を得たことにより歳を取らない体質になってしまった──を聞かされたのも余計に後押しして、すっかりエリスを見つけ出して保護するべきとダンジョン聖教の総力を挙げての捜索劇となってしまったのである。

 

 そうして裏社会に身を晦ませた初代聖女を探すこと、足掛け15年ほど。

 ソフィアやマリアベールの助言、証言なども参考にし、途中何度かすれ違いつつも追い続けた偉大なる先代の影。

 その果てに、ついにラウラは至ろうとしていた──再会の時、来たれり。

 

 

 

「────お姉様! エリスお姉様ァッ!!」

「んー、んんん?! なんかすっごく懐かしい声と呼ばれ方!?」

 

 不意に己が名を叫ばれ、エリスは驚きとともに振り向いた。

 東南アジアのとある繁華街、裏社会の勢力が治めるマーケット内を人目を避けるように移動していた時のことである。

 

 すわ敵か、いや敵とかそんなのいる覚えないけども! と思ったのも一瞬のこと。すぐさまその声に遠い昔、親しかった少女の記憶を想起させられた彼女はまさかの思いで声の主を見る。

 人混みの中、まっすぐにこちらを見つめる女が1人。白いシャツ、青いスカート。ブラウンの髪を肩口で切りそろえた30代半ば頃の女だ。

 

 見覚えは……微妙にだがある。古い知り合いに、よく似た面影を感じる。

 あの子が大人になったらこんなくらいになるのだろう。自然とそんなことを考えて、エリスは愕然とした。

 つまりは、いや。そんなことが、まさか。

 

「き、君は。あなたは、まさか……」

「…………お姉様。やはりお姉様なのですね。ああ、なんてこと。まさか本当に、あの頃から少しもお年を召された様子でないなんて。チェーホワ統括理事から聞かされていたことを、私は、信じきれないでいました」

「その、声。その顔、その仕草。ほ、本物なのです、ね」

 

 あまりの衝撃と古い記憶が奔流となって蘇り、エリスの口調が昔のものに戻っていた。すなわち22年前の、初代聖女と呼ばれていた頃のものである。

 ゆっくりと近づいてくるその女。口にする旧知の仲である統括理事の名に、ああこれは本人だと否が応でも思い知らされる。


 あの時、逃げ出した自分がすべてを押し付けた子だ、と。あんなに慕ってくれていたのに、面倒ごとを託してしまったあの子だ、と。

 確信してしまえばもう、逃げることなどできなかった。たしかに聞いていた、彼女はずっと、自分を探していると。変わらない、変われない自分を見られたくなくて、それから逃げていたのに。

 

 諦めと、決して否定できない懐かしさや愛しさともに。

 エリスは彼女の名を、ゆっくりとつぶやいた。

 

「……ラウラ。ラウラ・ホルン。ついに見つかっちゃいました、ね」

「はい、エリスお姉様。あなたの、跡を継いで頑張りました。二代目聖女、ラウラです……っ!!」

 

 もはや嗚咽混じりに名乗る彼女、ラウラがエリスに抱きつく。数十年探し続けた尊敬する姉貴分との、もはや終生叶わないかも知れないと思っていた再会。

 それが叶った今、ラウラには泣かない理由などどこにもありはしなかった。

 

「お会いしたかった……! ずっと探していました、お姉様……ッ!! ようやく会えました、もう、もう二度と会えないのではないか、とさえ……!!」

「ラウラ……ごめんなさい。あなたのことを想わない日はありませんでした、そのことに嘘偽りはありません。ですが、私は」

「承知しております……あのモンスターハザードの最終局面において、お姉様の身に何が起きたのか……どれほどの想いで、私達の元から去られたのか。どんなにかお辛かったでしょう、どんなにか寂しかったでしょう……!!」

「…………大きく、なりましたね。それに立派になりました」

 

 場所は野外のストリート真ん中、ゆえに人目は嫌でも引くものの、そんなことはもはや関係なしに2人は抱き合った。


 エリスにも事情はあった。スキル《不老》を獲得して老いない体質のなった以上、彼女は一つ所に留まることができない身の上なのだ。

 それゆえにラウラに称号《聖女》を託し自らは去った……人でなくなった己を、奇異の目で見られたくなかったという逃避さえ、たしかにあったのも事実である。

 

 だがラウラにとっては、それでもなおエリスには傍にいてほしかった。傍にいて、ずっと、ずっと自分を見守ってほしかった。

 近くにいてくれないエリスを求めながらも、二代目聖女として、探査者として人間として立派になった姿を褒められて……嬉しさと感激に震え咽び泣く。

 

「お姉様……! どうか、もう消えないでください。私は、もうあなたを探す旅なんて嫌です……!」

「……はい。当時は正直発作的な逃亡でもありましたから、あなたに便りの一つも差し上げなかったのは後悔していました。もう逃げませんよ。叶う限りあなたに寄り添いましょう、ラウラ」

 

 根負けしたように笑うエリス。

 かくして初代聖女は、二代目聖女との再会を果たしたのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


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― 新着の感想 ―
[一言] お姉様ー!と駆け寄ってエリスの頬に拳を叩き込む流れかと思ったけど、流石にそんなことにはならないの巻
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