40年目 御堂とフランソワ・2
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
御堂将太(43)
マリアベール・フランソワの日本贔屓は、御堂将太による影響が大きかったのは言うまでもないだろう。
若き日の彼女を先輩として導き、また来日の際には屋敷を宿として貸し、盛大にもてなした。
その関係は将太のみならず息子の才蔵、孫の博。
果ては曾孫にあたる御堂香苗、光姉弟に至るまで続いているのだから、まさしく一族ぐるみの付き合いと言えよう。
ただ、実のところもう一点、将太とマリアベールには共通点があった──揃って詳細不明、封印中のファースト・スキルを授かっていること。
マリアベールの《ディヴァイン・ディサイシヴ》と将太の《究極結界封印術》。他の誰も持っていない、それぞれ彼女と彼だけの謎のスキルだ。
こうした共通点について知っているのは将太のみ。マリアベールには己のスキルについて知らせていない彼は、それゆえに一人で思い巡らすことも多くなった。
四十路を迎えたベテラン探査者もまた、生涯かけてこの謎の解明に取り組んでいたのである。
秋の夜長。御堂邸の縁側に一人座り、将太はもう毎日にもなる物思いに耽っていた。
近くの自室では妻の光江がよく寝ている。去年に引き続きこの時期には日本を訪れ、当家に滞在しているマリアベールの晩酌に付き合い酒を飲んだ結果だった。
「いくらなんでも終いには肝臓を壊すよ、あの子……」
苦笑いせざるを得ない。なんなら今でも居間で息子や息子の許嫁を交えて呑んでいるだろう大酒飲みの姿を夢想して、親心でないにせよ不安に思わざるを得ない。
まだ20歳そこそことうら若き乙女が、ああまで酒豪と成り果てて良いものだろうか? そうでなくとも普段の言動や素行は英国貴族のお嬢様などとても信じられないものを、挙げ句に酒までついてきては天を仰いでしまいそうになる。
誰か好い人でも作って、その方に嗜められでもして少しは収まれば良いのにと率直なことを考えながら、将太はさてと最近の日課を始めた。
瞑想にも似た思索……己とマリアベールの間にある、とある共通点についての考察である。
将太は、自らのステータスを確認した。
「《ステータス》」
名前 御堂将太 レベル418
称号 魔法使い
スキル
名称 究極結界封印術
名称 杖術
名称 土魔法
スキル
名称 究極結界封印術
効果 救世技法/現在封印中
己にしか見えない、己のスキルや称号、レベル。
だがその中にあってなお一際、異彩を放つのは言うまでもなくこのスキルだろう──《究極結界封印術》。
世界に二つと例のない名称、そして救世技法なる謎の単語。何よりも現在封印中という文言と、それが示す通りに今まで発動できたためしのない、極めて意味不明なスキルだ。
将太は16歳で探査者となった際、このスキルを最初に獲得した。いわゆるファースト・スキルであり、それゆえにひどく苦労した記憶がある。
何しろ使えもしないスキルを渡されたのだ。他の、戦闘において役に立つ様々なスキルを得た探査者達に比べてもこれは大きなハンディキャップであり、実際探査者となって一年ほどはどん底だったことを未だに思い出す。
「そのへん、マリーも大概苦労したろうね……まあ、あの子は実家が太いから支援とかも手厚かったろうから、まだマシだろうけど。僕みたいな思いは、なるべくしないに越したことはない」
独り言つ。そうした来歴ゆえ、彼はマリアベールにひどくシンパシーを抱いていた。
概ね先に述べたファースト・スキルが原因だ。彼女もまた、名称こそ違えどまるで同じスキルを獲得したのだから。
名称 ディヴァイン・ディサイシヴ
効果 救世技法/現在封印中
同じだ。名称以外何もかも、効果の文言さえも一言一句違わず同じ。
この奇妙極まりないスキルの同類が、まさかこの世にいたということからして驚きだし、そしてこうなるといろいろ、考える余地が出てくるというものだ。
静かに、ポツリと。将太はつぶやいた。
「…………ナニモノか。スキルやステータスを用意したモノがいるとするならば、これらのスキルには、必ず何か特別な意味がある。きっとこの世の奥深いところ、とても大切なところにさえ関わる、そんな特別な意味が」
それは、あるいは確信に近い仮説だった。そもそも彼は以前より、各種ステータスやダンジョン、モンスターの存在についてひどく作為的なものを感じているのだ。
これらの要素が、何もかも自然の摂理によってもたらされたはずがない。必ず裏でこれらを仕込んだ、何かのために動くナニモノかがいるはずだ。
そう、狂信に近い勢いで思い込んでいる。
「正直ソフィアさんが相当、怪しいんだけどね……さすがにあの人を前に面と向かって言うわけにもいかない。やれやれ、手詰まりか」
はあ、とため息を吐く。最近の考察は、いつもソフィアで行き詰まる。
将太にとっても大恩あるWSO統括理事だが、その統括理事という立場ゆえに誰よりもことの真相に近いのではないかと疑ってしまえる。それが彼女の立ち位置だった。
そもそも年齢不詳の不老存在という時点であまりにも怪しい話だ。何度か探りを入れたこともあったが、のらりくらりあらあらうふふと躱されてしまい結局、歯牙にもかけられなかった。
役者が違う。時折彼女から放たれる謎の圧倒的な雰囲気からも、将太は自分ではおそらく真実には到達できないだろうと悟っていた。
「僕が生きている間に、このスキルの真実が明らかになることは……ないだろうね、たぶん。残念だ」
やれやれ、と肩をすくめつつ力なく笑う。
どうあれ今は幸せなのだが、それでも生涯かけての謎がおそらく解き明かされることのないままでこの人生は終わるだろうと直感的に思ってしまうと、どうにも気が滅入る。
丸い月を見上げ、将太はそうして夜更けを静かに過ごすのだった。
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