39年目 マリアベール、初の来日
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マリアベール・フランソワ(21)
御堂将太(42)
御堂光江(42)
マリアベール・フランソワについて語る際、日本という国に対しての愛着ぶりを外すことはできないだろう。
彼女の探査者としての戦闘スタイルも、前半生においては日本刀を用いての《剣術》であったり、後半生においては居合刀を用いての《居合術》であったりと、とかく日本に纏わる要素が多い。
現代、80歳を超える今でも毎年来日しては旅行しているほどのフリークである彼女の日本好きの起源は、やはり若き日の人間関係に依るものだろう。
御堂将太、光江夫人。英国にてしばらく活動していた日本人探査者とその妻なのだが、マリアベールがその二人と親しい間柄だったことは探査者マニアの間では有名な話だ。
余談ながらこの夫妻の曾孫にあたる親族には現代日本における11人目の日本人S級探査者、御堂香苗がいる。
マリアベールもその縁から香苗とは面識があり、またひいては"例の探査者"とも関わりを持っているのだが……それについてはまたの機会に語るべきだろう。
ともあれそのような人脈もあり、マリアベールは第四次モンスターハザード鎮圧後には初めての来日を果たしていた。
────年も暮れ、もうあと半月ほどで新たな年を迎える頃合い。
新築の御堂家の屋敷内にて、マリアベールは当主たる御堂将太、その妻、光江と食卓を囲みつつも少しばかり、気まずげに口を開いていた。
「はー、日本で年を越すことになるなんて、ちょっと前には考えもしてませんでしたよ。それも将太先輩や光江さんの実家に厄介になるなんて! ……ありがたい話でなんですが、邪魔じゃないですかね、私?」
「邪魔? まさか! せっかくイギリスから素敵な後輩が来日してくれたんだ、もてなさないと御堂の名が泣く。才蔵もなんだかんだ喜んでるしね」
「あの子、照れ屋だから。口では素っ気ないけど、本当はマリーちゃんと遊べるのが楽しくて仕方ないのよ。それこそ彼女さんがヤキモチ妬いちゃうくらいに」
「いやそれは知りませんよ。変な修羅場にゃ巻き込まんでほしいですねえ」
苦笑いして将太と光江の息子、才蔵について語る。別段互いに男女として思うところはないのだが、彼のガールフレンドは仲の良さにヤキモキしてしまっているらしい。
さすがに刃傷沙汰はなかろうが、やるなら自分のいないところで才蔵だけ狙ってやってくれと嘯く。
そんな彼女に揃って笑うのは、甚平に身を包んだ御堂将太。そしてその隣に座る光江夫人だ。
ともに四十を超える年頃ながら、外見は揃って恐ろしく若々しい。探査者として身体能力が鍛え上げられている将太はともかく、非能力者である光江までその調子だということに、マリアベールは改めて妖怪を見る思いで夫婦を見ていた。
『あれだね、マリーはもうちょい世界を巡ってきたほうが良いかもねー。見聞を広めればいろんなものの見方ができるようになるかもだ、ハッハッハー』
──などと、先だってのモンスターハザードの際に知り合った先輩、エリスからそうアドバイスされてもう数ヶ月が経つ。
今ではそのエリス当人はまたも行方をくらまし、マリアベールも探査者としての日々に戻っていったわけなのだが、どうにもそのアドバイスが気にかかっていたのだ。
世界を見て、見聞を広める。そうしたらもっといろんなものの見方、視野が広がるかも知れない。
唯我独尊を地で行くマリアベールだが、ソフィアやヴァール、エリスといった頭が上がらない先達と出会ったことで確実に影響を受けていた。
これから先、探査者として以前に人間としてどう生きていくかを考えるようになり、自然と件のアドバイスを受け入れて実践してみる気になったのだ。
すなわち世界旅行。ある意味では外遊とさえ言えるかも知れない。
各地を見て回り、探査業で路銀を稼ぎつつ元地の探査者と縁を結び多くのことを学ぶのだ。
そういった目的から現在、マリアベールは日本へとやって来ていた。
旧知の仲である御堂夫妻の伝を頼って、初の来日を果たしたのである。
「マリーちゃんがまさか、日本に来たいと言い出すなんてねえ。それも聞けば、物見遊山じゃなくて見聞を広めるための外遊目的だなんて、正直意外だったよ」
「スコットランドでのモンスターハザードからずいぶん、感じが変わったと言うか……物腰が柔らかくなって噛みつく頻度も減ったって英国の全探組でも噂になってたけど、そのへんが関係してるのかしら」
「いや、別にぃ……私だっていろいろ考えますし。つーか物腰とかについては、ソフィアさん達にものの見事に締められたボンクラどもが反省したからでしょうが。してねーやつらもいますけどね、ハハハ」
ニコニコ笑顔、呑気な空気の夫婦にあてられつつも唇尖らせて反論するマリアベール。
来日の経緯は前述の通りなのだが、素直に"尊敬できる先輩の助言を受けて決意しました"などと言うにはまだまだ照れや幼さゆえの反発が勝り、拗ねたようになってしまっていた。
ちなみに件のモンスターハザードの際、ソフィアとエリスの両名により、普段から先輩風を吹かせて横暴を働いていた探査者達にある種の制裁が下ったのは事実だ。
といっても公的なものでなく、女と見るや見境なく絡んでいった不届者達を片っ端から懲らしめていっただけであるが。
しかしてそれにより、イギリスにおいて探査者の質の向上が大きく見込めるようになったのもまた事実である。
そうした点にマリアベールもやはり、態度には出さないものの両名に対して偽らざる尊敬の念を抱いていたりもするのだった。
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