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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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38年目-2 マリアベールと酒・1

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


マリアベール・フランソワ(20)

 探査者マリアベール・フランソワを語る際に決して切り離せない要素といえば、やはり酒についてのエピソードだろう。

 探査者一の酒豪ともかつては噂されたほどの酒好きだった彼女の酒関連の逸話は、語るにあたって枚挙に暇がないほどに長い年月に亘っていくつもある。

 

 味そのものを気に入ったのか、酩酊の感覚を好んだのかあるいは両方か。

 ともかく彼女は飲酒可能な年齢になった途端すぐに酒を覚え、以後暇さえあれば呑むようなとてつもない酒好きに変貌してしまったのだ。

 

 なまじ探査者としてレベルを持ち、かつ彼女自身が極めて頻度高く探査を繰り返していたのも影響した。

 モンスターを倒せば倒すほどに上がるレベルが身体能力を、その内臓機能さえも強化していき……すなわち肝臓機能さえ常人の何倍もの強さにした結果、彼女の"酒ありきの人生"が成立したのである。

 

 結局、肝機能が限界を迎えてドクターストップを受けるのが63歳のこととなるのだが。

 それまでの約40年間は、彼女の肉体にはほとんどの期間、酒が注ぎ込まれることとなっていったのである。

 

 

 

「仕事終わりだ、飲むよあんたら付き合いなぁッ!!」

「フランソワッ!? いかん、みんな逃げろぉっ!!」

 

 平和な探査者専門バーに怪獣が現れた。マリアベール・フランソワという災害じみた化物だ。

 夜を迎え、仕事終わりの探査者達がみな、一日の疲れを酒で癒やすそんな頃合い。飲酒解禁の歳になり酒の味を覚えた結果、見事にドはまりしてしまったマリアベールもまた連日連夜ここを訪れては呑み倒すようになっていたのである。


 その時バーにいるのは当然ながら年上の探査者達。つまりはマリアベールが当時嫌いに嫌っていた先輩達ばかりで、ステータスを獲得した年齢の関係上、後輩だが彼女よりも年上となる者が幾人か混じっているばかりだ。

 なんならその日の昼には懲りずに新人探査者にハラスメント行為をしかけようとして、その場にいた彼女によって鉄拳制裁を受けた者さえいる。


 だが夜を迎えて酒を飲むともなればそのようなことも関係なく、マリアベールは陽気な調子で普段、殴りつけたり蹴り倒したりしている先輩達にも容赦なく話しかけていった。

 

「おうテメーラやってるかい!? 昼間あんだけやらかしてぶん殴られたってのに元気な奴らだよ、ハハハ!」

「お、おめーがやったんだろォ……?」

「やられるほうが悪い!! 大人しいからって新米にちょっかいかけやがって、ガキ相手に舐めた真似してんじゃねぇぞコラァッ!!」

「ひいい!」

 

 いつの間に注文していたのか、すでにマリアベールの手にはビール瓶がある。もちろん開封済みで、なんなら空だ。

 つまりはやってきて数分で酒瓶一つ空にして、昼間無体を働いたならず者めいた先輩相手に今一度絡んで叫び倒しているのだ。

 これにはそのならず者も、周囲の者達も堪らず身を強張らせた。

 

 見てくれは絶品の美女だが、もはやちょっかいをかける気にもならない。実力も振る舞いも化物の災害……怪獣だ。

 もちろんやったこと、やろうとしたことを考えればならず者達にこそ非があり、場合によってはそのまま警察に突き出されても文句の言い辛い状況だったのはたしかだが、にしてもこれは酷い。

 

 そそくさと何人か、関わり合いのない探査者の男達が静かに席を立つ。

 ここにいたらどんな目に遭うか分からない。いつものマリアベールならば多少は穏やかで楽しく飲み合えたりもするのだが、今日に限っては昼間の一件もあってかにこやかながらもすこぶる機嫌が悪いらしい。

 矛先が向いてくる前に退散しなくては。そう考えて実行に移した何人かだったが。

 

「……おい、なーにコソコソしてんだいあんたらァ」


 そんな姿もバッチリとマリアベールには見えており、逆に悪目立ちして声をかけられる羽目になったのだった。

 動揺も露に、慌てて取り繕う男達。


「!? え、いやもう、帰ろうかと」

「はぁーん? 何言ってんだいまだ陽も落ちきってねえうちから。いつもなら日が変わっても呑んでるだろうがお前さんらよう」

「ちょ、ちょっと具合が悪いんだ! 昨日飲みすぎたかな、あはは……」


 誤魔化し笑いに浮かぶ大量の汗。見るからに嘘っぽいのだ が、そこはさすがのマリアベールも気にしないことにした。

 もし本当に体調不良であるなら大事である。いけ好かない連中といえど無理矢理酒を飲ます気もないのだから、用事があるなりなんなりで帰りたいなら好きにすればいいことかと思い直したのだ。


 酒の席とは言えあまり乱暴に振る舞うと自分まで、後輩達からこの馬鹿どもと同じ扱いを受けかねない。それも勘弁だ。

 そうしたいくつかの理由から彼女は、素直に彼らの物言いを受け取ることとした。


「ほーん……ならしゃーなしか。おう気ぃつけて帰んなよ、お疲れさん」

「お、おう。お疲れ様……ホッ」

「フランソワちゃん、こっち来て飲みなよ! そこのアホどもなんか放っといてさあ!」

 

 あからさまに安堵の吐息を漏らして店を出る連中。それを見送ると同時に別のほう、店の端からマリアベールに声がかけられた。

 先輩の中でも比較的まともな探査者パーティの面々だ……この頃は基本ソロで探査していたマリアベールが、時々にでも臨時メンバーとして参加していた稀有な集団である。

 

 男が2人、女が3人。いずれもマリアベールから見てもそれなりに立派な探査者で、先輩と呼び敬語まで使う、数少ない者達の集まりだ。

 そんな人達から呼ばれ、彼女は豪快な笑みを浮かべて答えるのだった。

 

「良いですね、行きますよ先輩方! ……おうテメェら、酒の飲み過ぎで今日のこと忘れちまって、またユリアンやら後輩に迷惑かけたりはしないようにな!!」

「そ、そりゃあもちろん。へへ、へへへ」

 

 最後に釘を差し、卑屈な笑みを浮かべる昼間のならず者を睨みつけて去っていくマリアベール。

 残された男達はこちらもまた、ホッとしつつも改めて酒を飲み直すのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 いろいろあって酒が飲めなくなったマリアベールが出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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