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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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32/210

35年目-1 期待の新人

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ソフィア・チェーホワ(???)

ヴァール(???)

 大ダンジョン時代到来から34年が経過した。この頃にもなるとWSOは創設25周年を過ぎ、組織としてもその役割の実現にしても、概ね軌道に乗って安定している段階にあった。

 突如として現れたダンジョンやモンスター、そしてそれらに対抗するかのような各種ステータス……そのすべてを踏まえた上で新たな秩序と世界を構築。世にいう"大ダンジョン時代"の社会を創り上げたのである。

 

 こうした時代の裏に、多くの先人の苦労があったことは言うまでもないことだが、特にその功績と背負った責任、使命が大きかった者がいる。

 WSO統括理事ソフィア・チェーホワ。そして彼女の影に潜む第2人格──厳密には違うのだが、ここではわかり易さを重視する──ヴァールである。

 

 この頃にはすでに統括理事として辣腕を振るい、新たな姿に変貌した世界の秩序を保つべく東奔西走していた彼女達に、ある時一つの出会いが訪れていた。

 それは過去3度起きたモンスターテロの気配が、再度漂う頃合い。かけがえのない後輩とも言える少女の協力を、彼女は要請しようとしていたのだ。

 

 

 

 第四次モンスターハザードの気配あり。

 能力者による犯罪を取り締まる能力者犯罪捜査官。彼らを束ねる国際探査裁判所の所長から入れられた一報は、最近平和が続いていたことでどこか穏やかな気持でいたソフィアの気分を一気にシリアスに、かつ緊迫したものに引き戻していた。

 

「……10年ほどぶり、かしらね。それもおそらくは私達が最初に相手したのと同じ、委員会の仕業」

 

 スイスはジュネーブ、国連本部の近くにあるWSO本部施設にて。統括理事室のデスクに座り資料を読むソフィアは、難しい顔をしてつぶやいた。

 大ダンジョン時代到来から34年が経過してなお、少しも変わることのない美貌と若さ。外見年齢18歳ながら実年齢は完全に不詳である永遠の探査者少女は、しかし見た目にそぐわぬ威厳を放っている。

 

 この頃にはすっかり統括理事としてのカリスマを備え、元からの美貌と何より実力──これは概ねヴァールによるものだが──をもって、単なるお飾りなどでは断じてない、彼女こそがWSOそのものなのだと周囲に確信せしめるまでに至っていた。

 そんな彼女をして複雑な顔をさせる、それだけの脅威が今しがた届いた資料には記されていた。

 

「場所はイギリス、スコットランド。ここ半年の間にスタンピードが13回も起き、その都度現地に被害が出ている、と。さらにはその前後に、怪しい風体の団体が近場をうろうろしていた……いかにも怪しいわねえ」

 

 過去、三回も起きた人為的なスタンピード発生事件、通称モンスターハザードについて思い巡らす。

 90年前の第一次は中国にて。78年前の第二次はフィンランドにて。そして75年前の第三次は、日本にて。

 それぞれ地域も違えば時期も微妙にずれるそんな騒動の四回目が、今度は英国にて起きようとしているのだ。現時点では可能性の話に過ぎないが、怪しい団体が近くにいたというのがなんとも怪しい。

 

 第二次と第三次も組織立っての犯行だったが、事件を起こすに際しては周到に身を隠し、基本的に自分達の拠点からなかなか出てこようとはしなかった。それゆえ捜査の手も遅れ、手こずらされたことを思い出す。

 反面、最初に起きた第一次モンスターハザードは今回の例に近い……あの時も発生地域の周辺を、怪しい風体の団体が徘徊していたのだ。


 あまりにも類似性が高い。

 個人的な敵意からもあってソフィアはまず、今回の事件が本当にモンスターハザードの再来である場合、それは委員会の手によるものであるかもしれないと即座に候補を立てていた。

 

「となればこれは私が、ヴァールが出張るべき局面。あの謎の組織を、誰かに丸投げしてしまうわけにもいかないものね」

 

 つぶやき、すぐさまペンを手に取り懐から取り出したノートに書き記す。

 ヴァールとの連絡用ノート……一つの身体に2つの人格があるコインの表裏のような関係ゆえ、互いに面と向かってのコミュニケーションが図れないために使っているものだ。

 

 能力者犯罪捜査官からの報告、それを受けてのソフィアの見解と、ヴァールに対応を委ねる旨をさらさらと記し。

 ソフィアはそして、静かに瞳を閉じた。最高の相棒、今やもう一人の自分とも言える彼女と人格を入れ替えるのだ。

 

「頼みます、ヴァール──────む、う。切り替わったか、ソフィア」

 

 祈るようなつぶやきと一瞬、後に彼女は劇的なまでに変化した。

 穏やかな微笑みが消え、冷徹かつ冷淡な無表情。同じ顔のはずなのに、まるで別人のようになったのだ。


 否、実際に別人だ。

 彼女の身体に潜む別人格、ヴァールが表出したのである。

 

 すぐさま目の前のノートを読み込む。次いで報告書に目を通せば、ヴァールにも大体の経緯が把握できた。

 はあ、と大きくため息を吐く。

 

「世に悪の種は尽きまじ、か。それにしても24年も前の馬鹿者共がまた、今になって動き出すとはな。一体何のつもりなのか」

 

 ソフィアに代わり、これまでに起きた数々のモンスターハザードやその他荒事に対応してきた彼女は、それゆえに余計、気疲れするものを覚えたようだった。

 とある使命、とある盟約を遂行するために大ダンジョン時代到来後、ひたすらに邁進してきた34年。それでもまだまだ課題は多いのだと、改めて道のりの長さに思いを馳せる。


 ふと、ヴァールはそう言えばと独り言ちた。

 

「イギリスはスコットランドか……たしか《ディヴァイン・ディサイシヴ》の保持者がロンドン周りにいるのだったか。一度確認しておくのも良いかもしれんな」

 

 数年前、御堂将太に続いてついに見つけた"二人目"。

 彼女の使命、"計画"に必要不可欠な4つのスキルのうち一つを持つ探査者が現れたことはすでにヴァールもソフィアも把握済みだ。

 

 マリアベール・フランソワ。イギリス生まれはロンドン育ちの、新進気鋭の若手探査者。

 その名を静かにつぶやいて、WSO統括理事は窓から外を眺めるのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 ソフィアとヴァールの使命が果たされる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえばソフィアさんとヴァールはメモでやり取りしていますが、ビデオレターは使わないんですか?
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