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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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28/210

29年目 二代目聖女

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ラウラ・ホルン(21)

 大ダンジョン時代開始から28年が過ぎた頃。この年、後の世にも大きな影響を与える一つの宗教組織が結成された。

 ダンジョン聖教。ダンジョンを神からの恵みとし、しかしてそこに巣食う悪魔の手先たるモンスターを駆逐することこそが探査者の使命であるという教義の、宗教団体である。

 

 称号《聖女》を持つ者を代々の指導者とするその組織の発端は言わずもがな初代聖女エリス・モリガナ──から、聖女の称号を継承した二代目聖女ラウラ・ホルン。

 教義とは別口に初代聖女でもある姉貴分を慕い、憧れ、そして敬っていたかつての少女は。大人になるとともに、生涯の目的ともなるエリスの捜索のためだけに。

 

 大ダンジョン時代が始まって100年になる頃にはもはや、世界的宗教とまで言われる大組織を創り上げたのであった。

 

 

 

「ラウラちゃん、本当に行くの?」

「はい、お母様。お姉様をなんとしてでも探し出さねばなりませんから」

 

 フィンランドの田舎村、モリガナ家にて。二代目聖女たるラウラは旅支度を終え、家の前にて家族と最後の挨拶を交わしていた。

 旅に出るのだ……エリス・モリガナを探し出し、連れ戻すための捜索の旅を。


 WSO統括理事ソフィア・チェーホワから、姉とさえ慕う存在の生存と現在、そしてかつて何がその身に起きたのかの一部始終を聞かされて概ね半年。

 それからずっと考え、悩み、そして結局実行に移したことだった。どうしても彼女に会いたい。会って話をし、説得し、家族の元に連れ帰りたい。

 そんな、痛切なまでの想いからくる行動だった。

 

「ラウラ、何もお前がそこまですることないんだ。エリスのことは悲しいけれど、それでも仕方のないことなのだと納得はできる」

「姉ちゃんには会いたいけど……それでラウラ姉までいなくなるなんてやだよ」

「そうよ! エリス姉はきっとそのうち自分で戻ってくるから、ね? みんなで一緒に、幸せに暮らそうよ!」

「アーロくん、アイナちゃん……そしてお父様、お母様」

 

 血の繋がりのないラウラを6年前に温かく迎え入れ、以後本当の家族も同然にともに過ごしてくれた家族総出での引き止め。

 彼らにとってラウラはすでに大切な家族だ。それこそエリスにだって、比べるべきでないのは承知ながら引けを取らない。

 

 愛娘が消息を絶った代わりにやってきたこの愛らしく活発な娘を、家族みんなが愛していたのだ。

 その温もりが消えるくらいなら、言い方は悪いが……エリスは自立したのだと考え、ラウラをも行かせるようなことをしたくないという本音は、彼らの中にたしかにあった。

 

 ラウラもまた、後ろ髪を惹かれる想いはある。

 身寄りのない自分を、こうまで愛してくれた家族。離れたいはずもない。

 だがだからこそ、この人達の元にエリスを帰し、本来あるべきモリガナ家を取り戻したいと考えるのだ。

 

 これはエリスだけでなく、モリガナ家そのものへの恩返し。

 そう心に決めているラウラは、微笑みの中に強い信念を湛えて言うのだった。

 

「ありがとうございます……けれど私は行きます。お姉様こそが今、いいえずっと前から孤独の哀しみ、不老の絶望に陥り苦しんでおられるのです。それを救うのは、あの方を姉と呼び慕った私の責務であり使命、何よりやりたいことなのです」

「ラウラ……」

「それに大丈夫です。この村にはきっと、頻繁に戻ってくることになりますから……信者達を大勢連れてね」

「そう!? それならよかっ────信者?」

 

 すぐまた戻ると明言するラウラに、ホッとした様子で喜ぶ家族だったがすぐに首を傾げ、怪訝な顔を浮かべることとなった。

 信者……あまりにも話の流れにそぐわないワードが出てきて、呆気に取られたのだ。

 

 どういう意味だか視線で尋ねれば、ラウラはニッコリと笑い、少女時代と変わらぬ天真爛漫な声色で告げた。

 

「はい! 世界のどこにいるのかも分からないお姉様を探すため、まずは宗教団体を創ろうかと思いまして!」

「え……」

「何しろ《聖女》なんてそれらしい名称の称号があるのですから、利用しない手はありません! 聖女を祭り上げ、象徴的存在として権威や権力を持たせた宗教を立ち上げそれを世界中に広めれば……それすなわち世界中に私の目、私の耳を設置したも同然! でしょう?」

「えぇ……?」

 

 唖然とする一同。ラウラはつまり、エリスを探すという目的のため、宗教団体を創り上げてそれを世界的に広めると言ったのだ。

 まさかの発想である。後ほどこのことを知ったソフィアやヴァール、第二次モンスターハザードにおいて共闘した仲間達は笑うなり頭を抱えるなりとそれぞれ、複雑な反応を見せるのだがそれはまた別の話。

 

 人一人捜索するのに、嘘か真か大組織の創設まで企画している義娘、あるいは義姉。

 普通ならばジョークだと判断するところを、ラウラの目があまりにも本気なため、真剣にことに及ぼうと言うのではないかという疑念が拭えない。

 

「そうですねえ、名前は適当にダンジョン聖教とかにして……神は別途用意しますが象徴的存在はもちろん《聖女》の称号を持つ者とします。聖地は初代聖女たるお姉様誕生の地であるこの村とし、以後聖なる都、すなわち聖都としましょう」

「そ、そっか……ま、まあ頑張れ?」

「た、たまには戻ってくるのよ?」

「が、頑張れ姉ちゃんー……」

「ファイトー……」

 

 どこまで正気かも分からない展望を語る。

 この時の言葉がわずか数年後には軒並み現実のものとなることは、ラウラ以外の誰にも予想などできないものであった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 ラウラよりも苛烈な狂信者が出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 行動力の化身(笑)
[一言] 当時の家族の心境「(ごめんやっぱ早く帰ってきてーーー‼️)」
[一言] お涙頂戴の旅立ち・別れが、お姉様捜索組織構想のせいで、妙な雰囲気に……
感想一覧
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