26年目-1 快男児、早瀬光太郎!
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
早瀬光太郎(15)
ヴァール(???)
妹尾万三郎(41)
極東アジア、日本。
この地は能力者大戦後には文化的、経済的に大きな発展を遂げた国の一つであり、世界的にも特に際立った先進国の一つとも言える。
しかし反面、探査者界隈的にはあまり目立った特色がないと言われがちなのも事実だった。
細かく見ていけばこの時期にも御堂将太や妹尾万三郎など、後世にも伝わる探査者はいるが……どうしてもこの時期、第二次モンスターハザードが発生し、かつWSO本部があることからスイス周辺のヨーロッパ、特に北欧から中央にかけてが探査業界のトレンドなのだ。
また、アジアに限ってもやはりというべきか、シェン一族より出た探査者の活躍はすさまじく。
里長シェン・ラウエンや彼に先んじて世界に躍り出たシェン・ムーチェンが東洋出身の探査者の中では際立ってその名を轟かせており、結果としてそれ以外の者達が翳りがちになるという時代でもあった。
そんな、ある意味で流行地から遠く離れた島国にて。
大ダンジョン時代到来から25年が経過するこの時分、新たなるモンスターハザードが引き起こされようとしていた。
日本、中部地方南部は山奥にある村の近く、雑木林にて。
若き探査者である早瀬光太郎は照りつける太陽が木漏れ日となって降り注ぐ下、汗を拭いながらふうと息を吐いていた。
短髪に精悍な顔立ちの、日焼けした肌がスポーツマンめいた印象の好青年だ。年の頃は15歳なのだが、がっしりした体格に180cm近い体格もあり見ようによっては成人したてにさえ見える。
白と黄色のストライプシャツにジーンズにスニーカー、そして探査者用の胸当てに肘や膝のサポーターと爽やかな印象を与える、とにかく快男児といった少年なのであるが……その周囲には倒れ伏したモンスター達が光の粒子となり、中空に溶けて消えていっていた。
戦っていたのだ。今の今まで。
地面に突き刺した大槍に軽くよりかかり、彼はともに戦う仲間達に声をかけた。
「ヴァールさん、妹尾教授! 僕のほうは片付きました、そちらはいかがですか!?」
「ワタシは問題ない。妹尾は?」
「万事抜かりなく。良い観察になりましたよ」
応える二人、WSO統括理事の影の人格ヴァールとモンスター学の教授、妹尾万三郎。
それぞれ最近この地域を訪れ光太郎と知り合い、そしてすぐさま共闘関係を築いた歴戦の探査者だ。
今しがたも、第二次モンスターハザード当時さながらの連携を見せての大立ち回り。難なくモンスターの群れを撃破してみせた。
ともに若き探査者に向け、労いの言葉をかける。
「そちらも問題なさそうだな。これほどの群れが襲ってくるのを一人で捌こうなどと無茶が過ぎるぞ、早瀬」
「他の探査者達も相変わらずそれぞれ別の地域で単独行動。そもそもこのあたりの全探組が人員不足なのもあるが、にしてももう少し連携しても良さそうなものだがね、光太郎くん」
「いやー仰る通りですね! とはいえ仕方ありません、みんな揃って自分の思い通りにやりたいんですよ。我が強い連中ばかり探査者になりましてね!」
豪快に叫ぶような声量で喋る光太郎。
彼としてもこの異常事態に際し、なお揃って独自行動をとる地元の探査者達には苦笑いするしかないものの……彼自身、人のことを言えない程度には独断専行を得意とするのだ。開き直るしかない。
モンスターがダンジョンの外へ大量に出没し、近隣の人々を襲ういわゆるスタンピード現象がここ一月ほど、この地方では異様なまでに頻発していた。
2日に一回ものペースで、同時多発的にあちこちの集落や里、町や村めがけてモンスターの群れが押し寄せていたのだ。
日本政府および全探組、WSOはすぐさまこれを人為的スタンピードの誘発、すなわちモンスターハザードの可能性があると断定。
地域住民を避難させ、現地探査者に加え能力者犯罪捜査官チームやモンスターハザード対策チームを投入。
加えて統括理事たるソフィア・チェーホワと裏人格たるヴァールもまた、事態を把握すべく来日したというわけだった。
「まったく驚かされる話だ。よもや元地の探査者達がろくな連携もせず、思い思いの動きでスタンピードの相手をするなど。命が惜しくはないのか?」
とはいえそんなヴァールをして、無茶苦茶だと思わせるほどにこの日本という国、この地域の探査者達は無謀な戦いに身を投じていた。
頻発するスタンピードに対してなんら集団的な対応をすることなく、まるで腕試しの時が来たとでも言わんばかりに我先にと突っ込んでいって遮二無二戦うのだ。心底からの笑顔で。
光太郎に会うまでに何人かこの地で活動する探査者達を見つけフォローしてきたが、みなありがたいと口では言いつつも顔が若干鬱陶しげだったことを思い返してヴァールが呆れを口にする。
それにもやはり豪放磊落に笑い、爽やかな少年探査者は言ってのけるのだった。
「そりゃもちろん怖いですとも! でもまあ、それ以上に自分の好きなように動きたいんですね、みんな!」
「これまで会ってきたここの探査者達はみんな声を揃えてそれを言う。なんというか地域柄というやつかね? 九州男児とか京女とか東男とかそういう」
「そんな感じです、まあ男も女もありはしませんが! 大らかなんですがその分、好きにさせてくれって気風なのかもしれませんね! まあさすがにWSOの偉い人とか大学の先生さん相手には従いますけども!」
あっけらかんと語る彼、早瀬光太郎。
第三次モンスターハザードと後に呼ばれるこの時の連続スタンピード事件は、主に彼を中心にして事態が展開されるのであった。
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