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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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22/210

25年目-2 さらば、カーン

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ヴァール(???)

シェン・ラウエン(26)

 シェンの里創設から20年が経過した頃。一族には大きな喪失の悲しみが到来していた。

 星界拳創始者にして里長、シェン一族の始祖ともいうべき偉大なるシェン・カーンが病に倒れ、そのまま還らぬ人となったのだ。享年49歳。突然と言ってもいい出来事だった。

 

 この頃にはすでに、次代の星界拳継承者たるラウエンが里長を継ぎ後進の育成から里の運営までを取り仕切っていたゆえ、政治的な面での影響はなかったものの……

 精神的な大きな支柱だった彼が未だ、大きな影響力を持っていたのは事実だ。26歳と若くして後を継いだラウエンの今後の苦労はまた別の機会に語るとしても、シェン一族がしばらくの間、失意に暮れることとなるのは疑いようもなかった。

 

 そして、カーンに里の創設を促し星界拳の次代への継承、世代単位での鍛錬を導いた張本人。

 ソフィア・チェーホワの裏人格でもあるヴァールにも、カーン逝去の報せは届いていた──

 

 

 

「カーン……まさか、彼が死んだのか。未だ50歳にも届かないというのに」

「はい。そのことでソフィア様には急ぎ、お知らせをと思い馳せ参じました」

 

 スイスはジュネーヴ、WSO本部施設内統括理事室にて。

 数年ぶりに訪ねてきた仲間、シェン・ラウエンから聞かされた報せに、ヴァール──対外的にはソフィアと呼ばれているが中身は彼女だ──はいつもの無表情に微かな驚きを乗せ、目を軽く見開きつぶやいた。


 ラウエン付きのシェンの若者が二人、敬愛する始祖の死にも反応の薄い彼女に顔をしかめるがラウエンには分かっていた──相当に驚いている。

 第二次モンスターハザードの際、彼女やエリスとともに戦地を潜り抜けてきた者ならではの理解だ。そう、ヴァールはたしかにカーンの死に衝撃を受けていた。

 矢継ぎ早に続ける。

 

「つきましては引き続き星界拳継承者および、シェンの里長を私シェン・ラウエンが務めます。始祖とソフィア様との間に交わされました約束……いつしか"完成されしシェン"を輩出し、貴方様の持つ"救世技法"を引き継ぐという理念と目標を継ぎ、一族はさらなる鍛錬を重ねる所存です。何卒その旨、よろしくお願いします」

「……分かった。君達の始祖たるカーン氏は偉大な方だった。彼ほど星界拳を愛し、一族を愛し、そして自らを高めることを愛した求道者はいなかったよ。そしてラウエン、君がカーン氏にも負けることのない強い信念を持つことも理解している」

「ソフィア様……」

「氏、亡き後も君が導くならばシェンは安泰だ。ワタシはそう確信しつつしかし、やはり偉大なるシェン・カーンの早逝を悼ませていただこう」

 

 もはやこの世にいないカーンと、彼の後を継いだラウエンと、彼らが導いてきたシェン一族とに対し、祈るように瞳を閉じて悼むヴァール。

 それを受け、ラウエンもシェンの若者達も静かに追悼する。やがて互いに目を開け、新たなるシェンの指導者は立ち上がった。

 

「本日は大変な御多忙の中、お時間いただきありがとうございましたソフィア様。きっと先代も今のお言葉を聞いて、喜んでくれています」

「だと良いがな……ああ、そうだ弔問などさせていただければと思うのだが」

「あ、いえ。それには及びません」


 せめてカーンの遺体に別れを告げるくらいはさせてもらおうか。そう言おうとしたヴァールだったがラウエンの断りの言葉にまた、少しばかり驚くこととなった。

 これについては取り巻きの若者達も同様だ。何故!? と問いたげな視線をラウエンに向けている。


 そうした視線を受け、しかし堂々たる態度を一切崩さぬままにラウエンは語る。

 はっきり言えばヴァールは今、それどころではないはずなのだ……新たなる事件の兆しは、すでに人里離れたところに住む己の耳にも入っているのだから。


「聞いていますよ。ただでさえ忙しいところに、またあの忌々しいモンスターハザードの気配がしてきている、と」

「……耳聡いな。誰から聞いた? 言ってはなんだがシェンの里では早々情報も入るまい」

「妹尾先生からの手紙です。第二次の頃の仲間達とはあなたと同様、今でも……彼女を除いてですが、取っていますので」

「妹尾か……たしかに彼ならば分かるか。地元での話だからな」

 

 かつて第二次モンスターハザードをともに戦い抜いた仲間の名を挙げられ納得するヴァール。

 そう──この時、またしてもモンスターハザードの匂いが漂ってきていた。今度は極東日本においてである。

 

 日本出身の探査者であり、この時にはすでに大学にてモンスター学の教授として教鞭を執っていた妹尾であれば、そうした動きも敏感に察知し、ラウエンはじめ仲間達に連絡をするくらいはできるだろう。

 どうあれ第二次よりわずか数年の時を置いて、再び事件が起きようとしているのはたしかだ。ラウエンはそのことを指してヴァールへと告げる。

 

「世界の秩序、安寧を護るあなたに対して事件を放置し、我ら一族の身内ごとに付き合ってくれと頼むなど言語道断。それこそ先代に顔向けができません」

「いや、しかしな」

「何より先代は生前より、自らの老いを、そして死を外部に晒すのを厭うておられました。シェンの始祖ですからね……目立ちたがりのくせに、見栄えがいいまま記憶に残りたいのですよ」

 

 懐かしむように笑うラウエンに二の句が継げない。

 ヴァールはそうか、とだけつぶやいてまた、静かにカーンを想うのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに病魔に侵された死に顔だろうから、その顔が最後に見た顔として記憶に残るよりは、元気なときの顔を最後の記憶として残してもらいたいですよね
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