現代 俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
山形公平(15)
大ダンジョン時代──そう呼ばれる時代が到来して100年になる。
突然世界各地に多数出現したダンジョン、そしてその内部に潜むモンスター。それと同時に人類に発現したスキルや称号などの特別な能力。つまりは総称、ステータス。
ステータスを持ち、ダンジョンに入ることができる者。すなわち探査者がダンジョンに潜りモンスターと戦い、そして最奥にあるダンジョンコアを取り出すことでダンジョンを消し去る。
日々無数に生まれ続けるダンジョンを、日々無数に探査し踏破し続ける時代。
いつしか人々はソレを、大ダンジョン時代と呼ぶようになっていた。
絢爛たる能力者達による戦乱と平和を希求せしこの時代に起きた、数多くの歴史的な出来事。およびその中で活躍した英雄達。
その果てに今、ついに時代は現在へと至る。
101年目、春。
極東アジアは日本国、関西、滋賀県南部のとある町で。
ついにその時が訪れたのだ。
────何の変哲もない少年だ。
黒髪黒目、中肉中背。ただし童顔で背は少し低めで、そこが彼の個人的なコンプレックスだったりする。
歳の頃15歳。今年の秋には16歳を迎える高校一年生、になる直前の春休み。
受験をどうにか潜り抜け、やっと訪れた平穏をぐーたらと自室に篭もりネットにゲーム、アニメに漫画で堪能していた彼は、紛うことなく一般人だった。
山形公平。特に人から嫌われる要素はないものの、妙に孤独になりがちなのが最近気になってきた思春期の少年。
特に高校入学を目前にした今、せめて友達の一人でもできてくれないかと願い、そのために何かできることはないかと模索しつつも……生来いい加減な気質ゆえ、なんとかなるさと開き直って遊び呆けているのが現状だ。
今ものんきにスマホでソーシャルゲームをプレイしている。受験期間中に願掛けがてら貯めていたガチャ用のアイテムを、わずか三十分足らずで使い果たしてしまったのだ。
これにはのんびり屋の公平も堪らず、机に突っ伏して嘆き始めてしまった。
「あーっ、終わった! 俺の春休みは終わったー! なんなら中学生活も終わった、爆死とともにーっ!!」
「ドンマイ兄ちゃん。貯めに貯めてた石全部溶かした気分はどうなの、今?」
「最悪です。怖ぁ……」
そんな彼の自室に遊びに来ていた妹、優子のからかいを受けて呻く。気分はたしかに最悪だが、別に恐怖を感じる場面でもなんでもないのだが……これは公平の、物心ついた頃からの口癖であった。
"怖ぁ……"と。怖くとも怖くなくとも、ことあるごとに彼はこう口走る癖があるのだ。
それを家族ゆえ、当然知っている優子は笑う。彼女も今年で14歳、思春期真っ盛りだ。
異性の年長である父や兄を毛嫌いしてもおかしくないものを、けれど優子は特にそんなこともなくいたって良好な家族関係を構築している。
母譲りの気のきつさが多少口をついて出ることもあり、外面はそれなりに冷淡ゆえ、多少なりとも反抗期には突入しているのだろうが……
それでも公平ともども、根本的には呑気に日々を楽しめる性格だった。
そんな妹からの揶揄に、がっくりと肩を落として兄は立ち上がる。そしてクローゼットから下着とパジャマを取り出した。
風呂に入るのだ。
「ううう。傷心の兄はお風呂で綺麗さっぱりリフレッシュしてくる……優子は次、入るか?」
「んー? うん、そうする。爆死したからって世を儚んで風呂で入水とか止めてね?」
「いくらなんでもするかそんなこと! 俺をなんだと思ってるんだ!」
「受験勉強ほっぽらかしてゲームに夢中になった挙げ句、母ちゃんにマジギレされて泣きながら土下座した人。基本メンタル弱いよね、兄ちゃん」
「き、気を付けまーす……」
去年の夏にできたてほやほやの黒歴史を突きつけられ、ぐうの音も出ないよ怖ぁ……とぼやきながら部屋を出る公平。
兄もいなくなった部屋で、妹は一人クスクスと笑うのだった。
部屋を出て公平は洗面所に向かった。脱いだ服を洗濯機に入れ、そのまま浴室へ入る。
頭と身体をまずは洗いつつガチャ爆死の結果にため息を吐く。シャワーで泡ともに汚れを流してからも一つ。そして風呂に肩まで浸かって、最後に特大のため息を吐いて彼は、力なく天井を見上げた。
「う、うおおおー……辛い。やっぱ辛いー。俺の春休み期間限定SSRぅ……受験を乗り切ったら引けるだろ普通ぅー……」
"受験終わったら俺、期間限定SSRを引きまくるんだ……"と、誰か言う相手がいるわけでもないのに自分に言い聞かせていた彼にとり、先程の爆死は後からじわじわ痛みに感じる遅効性の毒だ。
仕方ないと言い聞かせ、実際に仕方ないのだがそれでも心にモヤモヤがたまる。何か俺、悪いことしましたか? とやさぐれた気持ちが渦巻いてくるのだ。
それを誤魔化すように大きなため息を連発する公平。
────そこに、その声は訪れた。
『あなたはスキルを獲得しました』
「はあぁぁぁ…………ほへ? 誰かいるの? 優子? 母ちゃん?」
突如脳に響いた声。それが最初は認識できず、公平は風呂の扉の向こうに呼びかけた。
誰か身内が洗面所にやってきたのかと思ったのだ。けれど返事はない。聞き間違いか? そう思いつつ立ち上がったところ……
『それに伴いダンジョンへの入場および攻略が可能になりました』
『system機能の解放を承認。以後、あなたは自分のステータスを確認できます』
「……へっ!? え、なんだ頭に声が!? ついに毒電波受信体質に!? ボッチ拗らせた果てがこれか!?」
続いてまたしても響く声。幻聴かと思ったが、頭に誤魔化しきれないほどはっきりと明瞭に聞こえてくる女の声に、公平は今度こそ取り乱した。
まさか高校入学前にメンタルクリニックのお世話に!? などと慌てふためく。とにかく風呂を出て家族に相談しようと、足を上げる。
つるり、と。
慌てていたところにバランスの悪い体勢になったものだから、公平はすぐに足をすべらせ、湯船に頭から突っ込んでしまった。
「ほげが……ばぶばびゃ!? ぼばぁ……」
何もかもが急なこと、怪現象からのとっさの事故にまったく対応できない公平。
それでもどこか冷静さが残る頭の中で、彼は今しがたの声とその内容を、たしかに把握していた。
(俺が……探査者!? 怖ぁ……)
──そう。たしかに公平はこの時、探査者となった。
それも大ダンジョン時代100年の中でも唯一無二、あまりにも特別な前代未聞のステータスを授けられたのだ。
名前 山形公平 レベル1
称号 まだ誰でもないあなた
スキル
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
名称 風さえ吹かない荒野を行くよ
解説 誇り高くも野獣のように。風にはあなたがなるのです。
効果 一人で戦う時、全能力が10倍になる
称号 まだ誰でもないあなた
解説 誰になるのかは、あなたの歩みが示すのでしょう。
効果 なし
以上のとおり。
後に己のステータスを見た公平が"俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど!? "と思わずツッコミを入れたそれが、世界を本当の意味で救う第一歩になるとは……
彼も、現世の何者も想像できてはいなかった。
かくして山形公平は探査者となった。これより後、始まるのは救世の物語。
荒れ果てた世界に希望の光をもたらし、時代を次に進めるために癒やしの風を吹かせる救世主神話伝説だ。
to be continued──"攻略! 大ダンジョン時代"。
100年の時を経て培われた希望が彼の下に集い、そして世界は救われる。
これにて大ダンジョン時代ヒストリア、100年史完結です!ご愛読ありがとうございました!!
10分後にあとがきを投稿しますので、そちらもぜひご覧くださいませー!
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