96年目-4 マリアベールと新世代・1
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マリアベール・フランソワ(78)
御堂香苗(16)
アンジェリーナ・フランソワ(16)
ミア・ハーウェイ(49)
現代から遡ること5年前。アメリカ合衆国はシカゴの近郊にてS級モンスター、サンドアリジゴクが発生した。
体長20mとちょっとしたビルかマンションのような大きさのアリジゴクだ。
出現するなり周囲1kmを砂漠化させ、ありとあらゆる生命から建造物、その他諸々を自前の巣の中に呑み込んでしまうという大災害を引き起こし……
一時大都会シカゴをゴーストタウンにまで追いやってしまった。今現代では"サンドアリジゴク大災害"として合衆国にて語り継がれる災厄である。
それを討伐すべくWSOはマリアベール・フランソワはじめ歴戦の探査者の投入を決断した。
マリアベールを筆頭にS級探査者ミア・ハーウェイやプラーヴァット・ヤン。ならびに当時はまだC級探査者だったリスティ・セーデルグレンや御堂香苗、アンジェリーナ・フランソワなども参加しての一大作戦となったのである。
そしてこの時、マリアベールやアンジェリーナと香苗は直に会ってやり取りしている。
家同士が知り合いとは言え探査者として、仕事人としての顔合わせはこれが初めてとなる三人。なんならマリアベールとアンジェリーナでさえ、祖母と孫という関係でありつつもこれまで探査者としての現場を同じくすることはなかった。
すなわち旧き世代の最強が、新たなる時代の若者達へと見せる大断刀。
78歳になってもなお健在のマリアベール・フランソワが、次代を担う孫達に示す機会が訪れたのだ。
「ピギャアアアアアアッ!! ピギャ、ピギギャギギャギギャアアアアアアッ!!」
砂漠と化したシカゴ近郊に、巨大な穴が空いている。S級モンスターサンドアリジゴクによる、形あるものすべてを飲み込む地獄への奈落だ。
半月前に突如この地に現れたそのモンスターは瞬く間にこの地を砂漠に染め上げて、自らは巣を作りそこに周囲のあらゆる物体を引き込み始めた。
生命体、物質、果ては一日のうちごく僅かな時間であるが周辺の大気でさえも奪い尽くすサンドアリジゴクを、今この段階で食い止めなければならない……そういう流れで今、WSOからとっておきの戦力が派遣されてここにいるのである。
そう、とっておき。泣く子も黙るS級探査者のトップクラス、マリアベール・フランソワだ。
「おーおーやっかましいねえあのデカいの。アリジゴクもあそこまでになるとまあグロテスクったらないさね、ファファファ!」
「あらーホントですね。殺虫剤でもかけたら大人しくならないかしら」
「モンスター用に威嚇やら牽制やら用のスプレーはあるけど、どうだかね。そんなもんに頼ってる間にぶった斬ったほうが早いだろうさ」
「ワオワオ。もうじき80歳ですのにおっかないですね、さすがは長老。勉強になります」
同じくS級探査者であるミア・ハーウェイと並んで遠く、砂漠化していない地点に拵えられた前線基地からサンドアリジゴクを眺めて話す。
今回の作戦のメイン戦力はマリアベールとミアの二人だ。サポートや手伝い、はたまた小間使いの名目で各国から何人も探査者が来ているが、彼らは結局二人の動きを学びに来たに等しい。
今も語らう二人を遠目に、イギリスの若き探査者アンジェリーナ・フランソワと日本の御堂香苗がひそひそとやり取りしている。
マリアベールにとっては孫と先輩の曾孫だ。他の面々はともかくこの二人だけは特別な思いで見ており、時折軽く確認してはくすりと微笑んでいた。
「……ていうか香苗、あんた去年あたりからマジクールね? 素敵だけどちょっとは笑っても良いんじゃないの? せっかくの美人が台無しよ」
「それはこの場に何か関係があることですか? アンジェリーナ。それと私のことは香苗ではなく御堂と呼んでください。ここには御堂将太の曾孫としてでなく、一探査者の御堂香苗として来ていますので。マリーさんにもお願いしていることです」
「嫌よ馬鹿馬鹿しい、どっちにしたってあんたは御堂香苗、私にとって昔馴染みの香苗なの。そりゃ、将太おじいさまの曾孫って言われたくない気持ちはわかるけどね。私だって同じだし」
「そうですか。はあ、好きにしてください」
「アンタねー……ここはお互い偉大な親族を持って苦労している者同士のシンパシーを見せて距離を縮めるシーンじゃって、ちょっとどこ行くの!? ねえ!」
すっかりクールに、否、心を閉ざした香苗だがアンジェリーナはまったく怯まず突撃している。
それこそがおそらく正解だとマリアベールにも思えるのだが、さりとて香苗の言うようにTPOを弁えるべきなのもたしかだ。
──彼女の言うように先刻、マリアベールも香苗からは御堂と呼ぶように頼まれていた。
自分を将太の曾孫だからと特別扱いするのではなく、あくまで一人の若手、まだまだ未熟な新米探査者として扱ってほしいと。
なんともはや、そんな姿勢や言動こそがまさしく今は亡き偉大なる先輩譲りなのだろうにと内心でひどく懐かしく、そして嬉しく思える。
ゆえにマリアベールは去りゆく香苗に優しい視線を向けて、一人つぶやく。
「大丈夫、大丈夫さ。あんたはひとりじゃない。味方はいるからね……御堂ちゃん」
何があったか知らないが将太の死後、誰に対しても心を閉ざすようになった香苗。
あきらかに鬱屈を抱えたまま孤立を続ける彼女に、今は誰の言葉も声も届かないだろうが……けれど一人ではないのだ。
少なくともマリアベールは香苗の意志を尊重し、行く末を見守る気構えでいるのだった。
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