96年目-1 愉快なシェン三兄妹
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
シェン・ハオラン(20)
シェン・ランレイ(17)
シェン・フェイリン(9)
御堂香苗やアンジェリーナ・フランソワが探査者としての道を本格的に歩みだしている頃。
中国は山奥のシェン一族の里においても一人、若きシェンの星界拳士がスキルに覚醒し、探査者活動を開始していた。
里長シェン・フェイオウの娘ランレイである。
17歳にしてある日突然に能力を獲得、一族の歴史上において何人目かにもなる星界拳士の能力者となったのだ。
幼い頃から大人顔負けの実力を誇っていた天才兄妹の片割れがステータスに覚醒したということもあり、一族はここに新たなる時代の到来を予感し、慶事であるとして盛大に祝宴を開いていた。
特に父フェイオウと、妹フェイリンの喜びようと言えばすさまじく……ランレイ自身が戸惑うほどにはしゃいでいたほどだった。
そう、当のランレイ自体は能力者への覚醒を、あまり喜ぶ気にはなれないでいた。
能力者になるということは、すなわち外界に打って出るということ。シェンの名を世に轟かせるのが星界拳士の目的であれば、それを成すにもっとも適しているのは探査者として活躍し、名を広め、そして星界拳を世界にアピールするということなのだから。
──そしてそれが、ランレイには堪らなく不安の種だった。
幼い頃は活発だった彼女だが、思春期にもなる17歳の頃にはすっかりと、人見知りで内向的な少女に成長していたのである。
兄であるシェン・ハオランの部屋を訪れた妹ランレイは、ひどく落ち込んだ様子で眉を下げている。精神的な疲弊をしてしまっているのが、誰から見ても分かる有り様だった。
自室に篭って日課のFPSをプレイしていたハオランは、呆れた様子で涙目の妹を迎えて言った。
「ランレイ……落ち込みすぎ。探査者になれて良かったろ」
「に、ににに兄ちゃーん……良くないよう、怖いよう……ぐすぐす」
半べそさえかきながら兄のベッドに腰掛けて蹲るランレイ。その背を、彼女と一緒にやって来た末の妹フェイリンが撫でた。
もうランレイは17歳、フェイリンも9歳。ハオランに至っては20歳と成人さえしている。未成年のランレイやまだまだ幼いフェイリンはともかく、ハオランはすっかり自立した大人と言えるだろう。
それゆえに妹二人にとっては誰より頼れる兄貴として、今も甘えに来ているわけなのだが……
しかしてハオランにしてみれば、ランレイはそろそろ兄離れするべきなのではないかという思いも抱いている。
ため息交じりに慰める。
「ランレイが怖いの、都会に出て見知らぬ場所で暮らすこと、だけだろ? 探査者になった以上、シェンの里からは離れて自立するのが毎度のことらしいし」
「そ、それがヤなのぉ! も、モンスターなら蹴り殺せるけど、に、人間はそういうわけにもいかないし怖いのぉ!!」
「ねーちゃん、ねーちゃんのほうがよっぽどこわいこと言ってる……」
「すっかり人間苦手になったなあ、ランレイ……」
「兄ちゃんに言われたくないよーっ!」
普通はモンスターを相手取るほうがよほど恐ろしいだろうに、と呆れる思いでランレイを見る兄と妹。
幼い頃は決してここまでではない、というより凶暴すぎて手が付けられないほどの暴れ馬だったのだが……彼女の師匠シェン・カウファンによって矯正された結果、反動からかすっかり気弱な性格に変わってしまっていた。
これには家族も鍛えたカウファンも唖然としたものだが、不思議なもので戦いとなると元々の凶悪な好戦性が表出するという、半ば二重人格めいたことになっているのが現在のランレイだ。
我が妹ながら珍妙な生態をしている、と呆れる思いを抱きつつも、ハオランはゲームのコントローラーを再び手に取りパソコンに向き直った。
余談だがこのハオランも大概な、というより極度の引きこもり体質だったりする。
里はおろか家からも滅多に出ることなく、ひたすらにゲームをして生活しているのだ。
それでも誰からも何も言われないのは、言っても無駄と諦められているのもあるがそれ以上に、彼は彼で立派に生計を立てているからだ。
彼はいわゆるストリーマーであり、様々なゲームを持ち前の反射神経や才覚でプレイし圧倒的な実力で魅せる配信活動を行なっていた。
活動名"ハオハオ"。
現代のストリーマー界隈においても天才的なプレイングスキルとハリウッド俳優顔負けの甘いマスク、それとは裏腹の控えめで人見知りがちな性格や言動から女性人気の高いトップ配信者である。
……もっとも彼としては、ある程度稼いだのでそろそろ引退したいとこの時より5年後には、日本人の高校生探査者である友人にメッセージでしきりに愚痴っているのだがそこは些末な話であった。
話を戻して、そのような事情から今も仕事としてゲームのプレイ動画を撮っていたハオランに、幼いゆえにまったく斟酌のないフェイリンが飛びついた。
人見知りが過ぎる姉も姉だが、冷淡すぎる兄も兄だと噛みついたのである。
「兄ちゃん、メッ! 姉ちゃんの話ちゃんと聞く、可哀想!」
「いててて。リン痛い、止めて止めて。ほら一緒にゲームしよう、お菓子もあるよ」
「えっホント!? わーいやる、やるー!」
「ああああリンまで私を見捨てたああああ」
姉の味方をせんと突撃したわんぱく盛りのフェイリンだが、やはり兄のことも大好きなのでゲームとお菓子を勧められると即座に彼の膝の上に座り、煌めく瞳でゲームに夢中になり始める。
それを見てさらに号泣するランレイ……能力者として覚醒しても、シェン一族期待の若手たる三兄妹は、いつもどおりの呑気な空気なのであった。
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