92年目 AMW計画の真意
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マーク・ブドレド(51)
第七次モンスターハザード後、正式にスタートしたAMW、すなわち対モンスター用機械兵装の開発計画。
軍事産業の大手ウラノスコーポレーションが総力を挙げて着手したこの一大プロジェクトは、しかしてはっきりと言えば難航していた。
そもAMWの中枢システムとも言えるスキルブーストジェネレータからして極めて希少で、製造に成功する可能性など一年に一基できれば運が良いとされるまであり。
次いでそのジェネレータに特定スキルを増幅させる指向性を組み込んで成立させるのもかなりの難度であるがゆえ、開発スタッフも慎重にことを進め……それでもなおジェネレータを使い潰す形でのトライ・アンド・エラーを余儀なくされたのだ。
第七次モンスターハザードにおいて投入されたAMW試作機、マキシムとミレニアム。
そこから5年をかけて創り上げた第一世代、ノイエヴァルキリーとルートディバイダー。
さらに5年を費やしてどうにか製造に成功した第二世代、オールバスター。
いずれも使用適性のある探査者に渡され、次世代へのデータ収集目的で運用されている。
そうしてそこからさらに6年が経過したこの頃、大ダンジョン時代92年目。
AMW計画は満を持して第三世代のフーロイータ、ラーカーンの二機を完成させたのであった。
「紆余曲折を経たAMW計画だが、ようやく四機目、五機目が完成したことをまずは祝うべきだろう。諸君、よくやってくれた……乾杯」
アメリカはニューヨーク、ウラノスコーポレーション本社内の大会議室にて。
今日ばかりは祝の日であるとして贅を凝らした料理や酒の数々が持ち込まれたその席で、社長のマーク・ブドレドは主要役員とAMW計画開発チームを前に演説していた。
AMW計画始動時には若社長だったブドレドも、今では50歳を越えて海千山千の老獪な手管を身に着けた大企業のトップとしてすっかり馴染んでいる。
それでも社員達を労う気持ちは本物であり、彼は役員から一般社員に至るまで一人一人を見回して、丁寧に言葉を紡ぐ。
「我々ウラノスコーポは、いわゆる武器商人だ。大ダンジョン時代に突入してほぼ一世紀、戦争や紛争の類がなく探査者用の武器を開発しているからこそ人々の目もまだ温かいが……本来は、非人道的な死の商人として見られて然るべき社であることに疑いの余地はない」
「…………」
「しかし。だからこそ、我々は今の間にできることがあった。世間的なイメージがプラスに傾いているうちに、対モンスター用機械兵器という名目の"対能力者用殺傷兵器"を組み上げる必要があったのだ。それはなぜか──いつの日か来る"次の時代"を、見据えなければならなかったからである」
ことここに至り、ブドレドは身内ばかりのこの場だからこそ赤裸々な本音を語っていた。
対モンスター用など偽装欺瞞。本来のAMWの用途は一番はじめ、試作機たるマキシム&ミレニアムの時点で決まっていたのだ──すなわち対能力者用。能力者を相手に戦うことを想定した、殺人兵器としての本性。
そんなものを、能力者同士の戦闘行為が世界的な犯罪となっている昨今にあってなぜ念頭に置かなければならなかったのか?
それももちろん決まっていた。ブドレドはすでに、大ダンジョン時代の次を考えているのだ。
「来年か。10年後か100年後か。あるいは万年の果てになるかもしれないが……その時は来る。モンスターがこの世から消え去り、社会的使命を見失った能力者ばかりが溢れかえる次の時代が。するとどうなる?」
「…………戦争が起きる。能力者大戦以上の、大戦争が」
「その通り!! 手にした力の矛先を失った者達が次に向けるのは、背にしていたはずの社会だ! 古今東西ソレは変わらない、人は手にした力を持て余した時、必ず護るべきモノを見失う!!」
「非能力者めがけて……スキルが、使用される……!?」
ブドレドの確信に満ちた言葉は、この際本当かどうかなど問題ではない。自信に満ちた言葉には説得力が宿り、するとそこにはカリスマ性が生まれる。
大企業の社長として絶対的な自信にあふれる彼の言葉は、否応なしに相対する者を飲み込む説得力とカリスマを備えていた。
力の向ける先を失った能力者達が、いずれ非能力者にその矛先を向けるいつかの未来。次の時代。
それは紛れもない戦争の時代であり、地獄の時代だ。それを強く喚起させるブドレドの言葉は、叫びからやがて柔らかなものへと変わる。
「……けれど、その時には必ず非能力者の側についてくれる心ある探査者達もいるはずだ。我々はその時、彼らに協力する義務がある。彼らを支援し、それで飯を食ってきた我々ウラノスコーポにはその社会的責務と人道的責任があるのだ」
「社長……」
「そのためのAMWだ。その想定する対能力者とは、あくまで既存社会や非能力者に対して害をなす能力者のこと。我々を護ろうという能力者達を支援するためのものである。このこと、努々忘れないでいただきたい」
社長の言葉が、その場にいる全員の心に深く染み入る。はるか先に起こり得る地獄を、少しでも切り拓くためにウラノスにできること。それを、改めて考えさせられる。
AMWはモンスターを相手にするものでもあるが、その実、能力者を……社会に仇なす能力者を討つためのものなのだ。いつの日か来る、社会的破局を乗り越えるために。
この場にいる誰もがブドレドの言葉を受け、心酔してうなずく。ブドレド自身もだ。
この理念は彼の本音だった。いつ終わるかも分からない時代だが、次の時代はきっと酷いものになる。
だから今のうちに対策するのだ──酷いものにするのだろう、悪辣なモノどもと手を組んででも。
(私は地獄に堕ちる。だがそれでも成さねばならぬことは成し遂げよう。概念存在などにこの世を好きにさせてなるものか、委員会……!!)
内心で強く、強く誓う。
かつて若い頃、彼が知った真相──委員会という組織の存在と、その裏にいるこの世のものでないモノ達の存在、その野望。
すべてを知った彼はゆえに膝を屈した。屈したふりをして、力を蓄えた。
それでも諦めないために。それでもできることを、やり抜くために。
それは、未だ誰一人知らない戦い。
武器を扱う因果な商売だからこその矜持をかけた、誇りある戦士の戦いでもあった。
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「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
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