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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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19/210

23年目-4 エリス失踪。そして

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ヴァール(???)

ラウラ・ホルン(15)

シェン・ラウエン(24)

レベッカ・ウェイン(36)

妹尾万三郎(38)

トマス・ベリンガム(25)

シモーネ・エミール(24)

 第二次モンスターハザードの最終局面において、スキル《不老》を獲得したがゆえに老いることのない半永久的な生命へと変貌してしまった初代聖女、エリス・モリガナ。

 決して望んだわけでない永遠を手にしてしまった彼女は、事件終結後に姿を晦ますこととなった。

 他者に継承可能という極めて異質な称号《聖女》を妹分たるラウラが寝ている間に譲渡して後、何処かへと去っていったのである。

 

 彼女はその後、永きに亘って自ら裏社会に潜み、誰とも関わることなく、関わらせることなく孤独に生きていくことになる。

 その間にもWSO統括理事ソフィア・チェーホワとは時折顔を合わせることとなるのだが、その度に逃げ、世界を転々とするのである。

 

 それはさておくにしても、彼女の失踪は遺された者達に深い衝撃と謎を与えるものだった。

 《不老》のことをヴァールにさえ告げず姿を消した彼女の身に何があったのか。仲間である自分達にも教えられないことだったのか。何故自らの称号をラウラに渡したのか。


 そして何より、自分達にできることは何かなかったのか。

 そんな後悔ばかりを抱かせ、二度目のモンスターハザード事件は幕を閉じたのであった──

 

 


「お姉様、どうして……」


 エリス失踪後、必死の捜索から数日して。最寄りの全探組支部は談話室に集い、ラウラやヴァールといった第二次モンスターハザード事件解決の立役者達は沈痛な面持ちで顔を突き合わせていた。

 本来ならば祝勝ムードの中、軽い宴でもしているべきところだがそんな気分にもなれない。本事件解決にあたり誰よりも力を尽くし、誰よりも正義と人々の安寧のために戦ってきた少女が……


 未熟ながらも成長を重ねていき、最終的にはソフィアやヴァールさえ頼りにするパーティの中核となっていた大切な仲間が何も言わずに去っていったのだ。ラウラに、まるで形見のように自身の称号だけを継承して。

 喜べる理由などどこにもなかった。ヴァールが、唯一彼女の残した書き置きを机に広げ、読み上げる。


「"私のことは死んだものと思ってください。今まで本当にありがとうございました。ラウラのことは、私の故郷に送ってあげてもらえますようお願いします。エリス・モリガナ"か……本当に何があったのだ? たしかに姿を消す直前、ただならぬ様子ではあったが」

「パニックというか、半狂乱だったのでしょう? 何かモンスターや、あるいは何者かによる攻撃を受けたとかはありえますか?」

「ありえるがしかし、モンスターにそのような特殊能力を持つ個体は見受けられなかった。それに何者かと言っても、幹部陣は軒並み捕らえたろう。なかなか考えにくい話だよそれは」

 

 悩む彼女に問いかけるのはシェン・ラウエン。ともに能力者解放戦線と戦った仲間の一人であり、シェン・カーンの弟子でもある星界拳士だ。

 彼にとってもエリスとは、知り合って短いながらも仲間として頼もしく思っていた少女である。そんな彼女に何が起きたのか、不安に彩られた表情で尋ねている。

 

 それを横合いから、これもまた難しい顔をして答えたのが日本人探査者の妹尾万三郎だ。

 彼は元よりヴァールの知り合いで、それゆえ今回の戦いにも助手であるトマス・ベリンガムとともに参加することとなっていた。


 並んで座り、頭を悩ませている妹尾、ベリンガム師弟のさらにその隣では筋骨隆々の女傑が座っている。

 葉巻を強く吸って煙を吐き出し、勢いよく机を叩いて叫ぶ。

 

「アイツだよ! あの変態クソ野郎の火野だ、そうに決まってる!!」

「れ、レベッカさん落ち着いて、落ち着いてください」

「あの野郎ずーっとエリスちゃんのことねちっこくて気持ち悪い目で見てたじゃないか! あの子になんかやったってんならまずアイツだよッ!! 間違いない、どさくさ紛れにぶち殺しときゃ良かったんだあんなの!!」

 

 縦にも横にも大柄なその女、当時北欧最強の探査者として知られていたレベッカ・ウェインを必死に宥める弟子のシモーネ・エミール。

 レベッカとってエリスは愛らしい娘分なり妹分なりで、かつ尊敬にさえ値する立派な探査者だ。そんな子を誰かしらが虐めるとすれば紛れもなく火野源一であると、鼻息も荒く断言していた。


 反面シモーネのほうは猛る師匠を宥めながらも実のところ、冷静に計算高く"いけ好かない女"であるエリスが消えたことに罪悪感混じりの安堵と歓喜を抱いていた。

 師たるレベッカやソフィア、ヴァールといった権威達に可愛がられていた彼女に対し内心、仄暗い嫉妬をも抱いていたのだ……もっと言えば、敵幹部たる火野さえ魅了してしまうほどの美貌と溌剌さを持つことへの、僻み嫉みもたしかにあった。

 

 火野源一。

 能力者解放戦線の幹部の一人であった日本人のその男が、どうしたことかエリスに執心していたのはパーティメンバー誰しもが知っていることだ。


 そうした色恋沙汰に疎いヴァールにさえも理解できるほど、件の火野という男は欲望を剥き出しにした粘着質な視線をエリスに投げかけていた。

 とはいえ火野本人にその自覚がなかったようなので、言動自体は至って敵らしいものでしかなかったが。


 女性としてはどうにも気持ち悪い男でしかなかった火野への嫌悪を叫ぶレベッカに、妹尾は呆れた様子で言葉を投げかける。


「やめたまえよウェインくん。エミールくん、酒でも飲ましときなさい」

「は、はい! どうぞレベッカさん、割ってないウイスキーです! ボトルでどうぞぐいーっと、一気に!」

「殺す気か! そんなことしたら死ぬに決まってんでしょ!? ったく……ああ、エリスちゃん。一体どこ行っちまったってんだい。何があったんだ、あんたの身に……」

 

 無造作にウイスキーのボトルを突き出す弟子にツッコミを入れてから、レベッカは天を仰ぎ嘆く。ひたすらにエリスを案じるその言葉、想いは他の仲間達全員が共通して抱くものだ。

 エリス・モリガナ……誰よりも平和を求め、世界のために戦い続けた彼女は一体、どこへ?

 

 何よりもエリスを姉と慕い、敬愛していたラウラが静かに泣きじゃくるのを、辛い気持ちで見守りながら────

 パーティメンバーもまた、エリスの行く末を案じるのであった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 第二次モンスターハザードの真の意味での後始末がつく「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 失踪する直前というか、《不老》を獲得する前の戦争終了間際あたりから精神的に不安定っぽかったけど、仲間たちはそのことに気づいて気にかけていなかったのかな
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