90年目-3 太平洋にて、繁栄へと続く未来
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マリアベール・フランソワ(72)
アラン・エルミード(51)
サウダーデ・風間(49)
ロナルド・エミール(32)
太平洋客船都市に集いし四人のS級探査者。
マリアベール・フランソワ、サウダーデ・風間、アラン・エルミード、アイオーンことロナルド・エミール。
いずれも当時から現代に至るまでを常に探査者の頂点層にて活躍してきた超一級の、歴史に名を刻む大探査者達である。
そんな彼女らだがこの時、太平洋客船都市を訪問したマリアベールとアランは、そうした立場も関係なくこの地を満喫していた。
元より旧知の招待と案内を受けての訪問なのだ。ダンジョン探査も、ましてやWSO特別理事としてやS級探査者としての地位や名誉も関係なく……完全に観光、物見遊山の気分でサウダーデとロナルドと都市内を巡ることにしたのだ。
太平洋ダンジョン周辺にできた、土地からして完全に人工の都市。そのインパクトや発展ぶり、独自に進化した文化や文明は二人をしていたく驚嘆せしめ、かつ感動させる程のものがあり。
そうした反応を受けて、案内役たるサウダーデやロナルドもついつい熱がこもるのが人情というものだ。
自分達が住み、みんなとともに手を携えて発展に尽力してきた第二の故郷とも呼べる客船都市を誇らしく語る。
ここに四人のS級探査者達は、無邪気なまでに楽しい太平洋観光を続けていたのだ────
案内を受けて巡る客船都市は、まったくもって雑多ながら見事に文明が開化しているようにマリアベール、アラン両名には思える。
世界各地から用意された客船ごと、それぞれにその出身国の文化が反映された部屋なり店なり路地なりが構築されているのだ。それらがざっと数百隻も寄り集まってつながり、もはやツギハギの小地球、小世界とも言うべき状況を生み出していた。
左を向けばエスニック料理店が連なり、右を向けばブリティッシュパブが並ぶ二つの客船の連結路を通りつつ、マリアベールは興奮に声をあげて笑った。
「ファファファ! いやすごいねこいつは、若い頃ならここで一生飲み倒してたよ私ゃ!!」
「あー……でしょうね、マリーさんなら。最悪この通りに並ぶ店すべての酒を、飲み尽くしてしまってたかもしれませんね」
「今はもう飲めないのが残念だ。ああ、ホントに残念だ……!!」
数年前に肝臓を、取り返しがつかないレベルにまで損ねてしまいそこから一切アルコールを呑めなくなってしまったマリアベールだが、こうした酒場が並ぶとついついかつてを思い返してしまう。
在りし日の、樽ごと酒を一息に呑むような無茶さえしていた頃の彼女を知るアランは苦笑いとともにうなずく。涙目になって惜しむ彼女に、密かに引きつつだ。
そんな二人に案内役、サウダーデもロナルドも自慢気な様子を隠しもしない。
本当に紆余曲折の苦労を経てのこの繁栄。最初期の、開拓地とさえ呼べないただの船一隻でスタートした時から参加していたサウダーデはもちろんのこと、ロナルドからしても昨今の客船都市の発展ぶりは我がことのように嬉しいものだった。
少年のような顔つきで、青年が話す。
「俺がやって来た時にはもう、結構発展してたんですけど……そこからさらに! 先進国がいくつも本格参入してきたんで一気に最新技術が導入されるんです! これからの太平洋はどんどん繁栄しますよ!」
「はぁー……そいつぁすごい。単なるダンジョン攻略のための拠点構築計画が、よくまあそんなところにまで。ソフィアさんもこれ見たらビックリするさね」
「チェーホワ統括理事とも時折、太平洋ダンジョン攻略の進捗や情報、意見交換のためにテレビ会議でやり取りをします。当初にはまったく予定していなかった発展ぶりに、驚きつつも喜んでいますね」
……太平洋経済圏構想はマリアベールの言ったように本来、ただ太平洋ダンジョンを攻略するための拠点でしかなかった。
どれだけの規模か、どれほどの深度かも知れない超特大ダンジョンを継続的、かつ安定的に探査するために必要な物資を探査者に提供するためだけの規模しか想定されていなかったのだ。
それが統括理事たるソフィアの予想さえ大きく越えてこのようなことになったのは、やはり人の営み経済活動のなせる業だろう。
人が行き交うならばそこに富は産まれる、であれば客船都市に目をつける投資家や政治家、経済人というのもそれなりの数いたのだ。
とはいえ一から船を用意して、数百隻数千隻とつなげて都市を作るなど前代未聞のプロジェクトだ。当然ながら当初は一部を除いた国々は様子見程度に留めていた。
状況が変わったのがやはり、サウダーデやロナルドといったS級探査者が住まう土地となったことと、ダンジョン聖教四代目聖女フローラ・ヴィルタネンが移住してきたことがきっかけだろう。
大ダンジョン時代にあっては絶大な影響力を持つトップクラスの探査者に世界最大の宗教のトップだった女性が太平洋に集ったのだ。ネームバリューやブランド性を求めて各国がついに重い腰を上げ、続々と参入を決めたのであった。
そんな紆余曲折を経て、ここに至った客船都市をサウダーデもロナルドも心から誇りに思っている。
すでにここは、彼らにとって新たな故郷なのだ……それぞれ故郷を失った者達が拠り所を得たことに、マリアベールもアランも微笑む。
太平洋客船都市。
それは人類がついにすべてを自力で創り上げきった、真なるフロンティアとも呼べるのであった。
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