88年目-2 御堂とフランソワ・7
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マリアベール・フランソワ(70)
御堂将太(91)
御堂才蔵(69)
御堂香苗(8)
アンジェリーナ・フランソワ(8)
日本の探査者の大家、御堂家とイギリスが誇る大探査者の家、フランソワ。
両家には深いつながりがあるというのは界隈では古くから、それなりに知られた話であるのだが現代においてもそれは同様であった。
御堂将太の曾孫でありつつ、それ以上に若くしてA級トップランカーとして現代の探査者を象徴するとまで言われる天才。"虹の架け橋"御堂香苗。
マリアベール・フランソワの孫にして、自身もA級探査者の中でも特に実力派と呼ばれる能力者犯罪捜査官。"剣鬼"アンジェリーナ・フランソワ。
それぞれの家に、こうした次世代を引き継ぐに足る将来有望な探査者が生まれていたのだ。
彼女らのネームバリューが高じれば高じるほどに、比例して御堂とフランソワの二家のつながりも取り沙汰される。両家のつながりはそうしたわけで永らく語りぐさになっているのだ。
ただ、当の二人、香苗とアンジェリーナの間にはそこまで親交があるわけでもないのが実情だった。
毎年夏、フランソワ一家は御堂家を訪れており、アンジェリーナもそこに同行しているものの……香苗のほうは一人暮らししており、実家にはそこまで戻らないでいるからだ。
他にもアンジェリーナが一方的に香苗をライバル視していたり、香苗かとある事情から人間不信に近い状況にまで追い込まれていたことも関係している。
とにかく家同士はともかく、二人の関係性はそこまで緊密なものではなかったのだ。
子供の頃はそうではなかった。
香苗とアンジェリーナ。二人とも仲睦まじく、大人達が苦笑いするほどのわんぱくさをもって互いに寄り添い合っていたのだから────
毎年夏、御堂家を訪れるのが恒例になっているフランソワ家だが、昨今では風物詩となった光景がある。
御堂家の長女、香苗とフランソワ家の一人娘、アンジェリーナが揃ってはしゃぎ倒し、遊び回るのだ。二人揃ってこの時8歳、お転婆盛りの可憐なレディ達だった。
「あっはははは! カナちゃん! えいっ、水鉄砲ー!」
「ちめたーい! えへへへ、アンちゃんやったなー!」
縁側に置かれた子供用のゴムプール。水着姿でプラスチックの小さな水鉄砲を振り回し、互いに水を打ち合って遊ぶ女児二人。
御堂香苗とアンジェリーナ・フランソワである。幼い頃から毎年この季節になると出会い、遊んできた二人はこの頃、現代からは想像もつかないほどに仲の良い間柄だった。
とはいえ現代でも、特に険悪なムードというわけでもないのだが……お互い、優先順位が変わったこともあり。そもそもめったに会わなくなったこともあり、疎遠気味の関係となったのであるが。
少なくとも幼い頃からの付き合いがある、いわゆる幼馴染であるのかという問いかけには二人とも、特に気負いなくうなずき肯定するのは間違いなかった。
そんな二人を見て、縁側にてスイカをかじる大人達もまた、笑顔を浮かべる。
アンジェリーナの祖母マリアベール。香苗の祖父才蔵。曽祖父にあたる将太もおり、もうすっかり老人になった昔馴染三人が並んで座っていた。
「はっはっはっは! 香苗とアンジェちゃんは本当に仲が良いのう! 儂とマリーとは比べ物にならんわい!」
「そもそもアンタと出会ったのは20歳前後の頃だろうが! いよいよジジイになって記憶も覚束なくなってきたかい、才蔵!」
「何を抜かすか腰のひん曲がったクソババアが! もう70歳になる癖していつまで現役やっとるんじゃ馬鹿たれ! そろそろ後進に道を譲らんかい!」
「ンだとテメェもっぺん言ってみろッ、すっかり隠居みてーなツラしやがってからにクソジジイがッ!!」
マリアベールと才蔵の、暴言に近い言葉の応酬。
今や才蔵の言うように七十路に至りお互い普段は穏やかで人の良い老人となったが、それでも若い頃から気兼ねなく言い合っていただけありこうなると往年の血気盛んさが蘇るらしい。
「おじーちゃんとおばーちゃん、また喧嘩してるー」
「してるねー」
それを受けて子供達がまーた始まったと二人を見る。
香苗やアンジェリーナがそのような慣れた反応を返すくらい、二人のやり取りは毎年恒例のものなのであった。
そしてそれを見かねた才蔵の父、マリアベールの先輩。
御堂家の中興の祖とも言える大探査者、御堂将太が止めるのも……これもまた、毎年のことなのである。
「こらこら、止めなさい二人とも。はしゃぐのは分かるけど、自分達で言うようにもういい歳なんだぞ」
「う……親父に言われちゃ敵わんのう」
「先輩こそもう91歳だってのに、まだまだ元気ですねえ」
二人を止める、さらに歳のいった老人。御堂将太、実に91歳となる長老である。
引退してもう15年が経つが、未だ年齢に比較して若々しい姿をしている。ドラゴン戦の後遺症で著しく老け込んだマリアベールと、そう変わらない程度の見た目を保っていた。
反面、やはり気力や体力のほうは全盛期に比べるべくもないのは彼自身、はっきりとした自覚があった。
苦笑いしてマリアベールに応える。
「ははは……見かけだけだよ。さすがにもう、お迎えが近いのか体力はめっきり衰えた。今となってはモンスター相手にしたところで、B級一体がやっとこさってところだろうな」
「普通、その歳までいったらそもそもそんな仮定さえしないんですけどねえ。やっぱ先輩は、根っから探査者ですよ、ファファファ!」
20歳頃に知り合った先輩と、半世紀経った今もこうして語らう。数奇な縁とはまさにこのことかと、マリアベールは笑った。
時の流れの中、様々なものを得、様々なものを失った果てに。それでも御堂とフランソワの縁は、こうして繋がれていくのだった。
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現代ではあまり交流のない香苗とアンジェリーナが出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://ncode.syosetu.com/n8971hh/
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