86年目-1 御堂とフランソワ・6
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
御堂将太(89)
マリアベール・フランソワ(68)
御堂香苗(6)
アンジェリーナ・フランソワ(6)
現代を代表する若手探査者の中には、当然ともいうべきか古くからの知り合い同士の仲というのもいる。
たとえば友人知人であるとか、あるいは親同士が知り合いだとか。はたまた、珍しいところでは兄弟姉妹であるパターンもある。
揃って若手トップクラスの探査者、御堂香苗とアンジェリーナ・フランソワはそのうち、親同士が知り合いであるパターンの亜種に該当するだろう。
御堂とフランソワ──両家のつながりは実に半世紀以上前、香苗の曾祖父である御堂将太とアンジェリーナの祖母、マリアベール・フランソワからの縁があるのだから。
当の将太やマリアベールもまさか、自分達の末裔が揃って同世代の探査者として頭角を表すなどとは夢にも思っていなかったろう。
同じ年、同じ世代に生まれた両家の娘は、御堂とフランソワをつなぐ新たな絆でもあるのだ。
それを見守る将太やマリアベールも、そろそろ人生の終わり近くにありながらも未だ健在のまま。
昔にはなかった長老としての穏やかさでもって、優しく家族を見つめつつ語らうことが多くなっていた。
今年の夏も日本は古都京都、御堂邸を訪れたフランソワ一家。
ヘンリーの死後しばらくは落ち込んでいたマリアベールも、この頃になると新しい生活に慣れきっており。同じく最愛の妻である光江を失った将太同様に落ち着いた時間を過ごすようになっていた。
「カナちゃんカナちゃん、あーそぼー!」
「うん! ねえひいおじいさま、わたしアンジェちゃんとあそんでくるね!」
「ああ、ああ。屋敷の外には出ないようにね。気をつけて」
「アンジェも、はしゃぎ倒して転ばないように気をつけるんだよ」
そんな二人が居間にて茶を啜っていると、互いの末裔が揃ってやってきて告げてきた。
片やマリアベールの孫アンジェリーナ。片や将太の曾孫、香苗。二人とも今年で6歳になる、おてんば盛りの女の子だ。
まったく同じ年に生まれた、香苗とアンジェリーナ。この偶然に驚きつつも喜び祝した将太とマリアベール。
今も孫、曾孫のことが愛らしくて仕方なく、二人して優しく微笑みながらもうなずき、少女らを見送るのだ。
そうして駆けていく彼女達を見守り、ポツリとマリアベールがつぶやく。
「…………良いもんですねえ、孫ってのは。あの子が大きくなるのが楽しみで、まだまだ死んでられねえやって気にさせてくれますよ、ファファファ」
「曾孫も良いよ、マリー。私もね、光江を失った時はどうしたものかと途方に暮れたものだけど……博同様、香苗の存在はとても大きな励みになってくれた。ありがたいものだね、家族というものは」
孫のありがたみを語る彼女に応える将太ともども、二人して目尻が下がってすっかり相好が崩れている。
愛する者を失って意気消沈した、彼と彼女をそれでも生かしたのが他ならぬ幼い少女二人だ──孫と、曾孫。まだまだ幼くも懸命に、健気に生を謳歌せんとする健気なその姿に、自然と元気づけられたのである。
もうマリアベールも70歳近く、将太に至っては90歳の大台が近づいてきている。
お互い高レベルの能力者であるがゆえ、見かけは年相応ながら体力や身体機能的にはまだまだ若者にも負けないほどではあるのだが。それでも寄る年波にどうしても不安を抱きつつある中で、幼い命から気力を与えてもらっている気になっていた。
「思えば祖父や祖母も、こんな想いで幼い頃の私や光江を見てくれていたのかもしれないねえ……あるいは何十年も経って後、今度は香苗やアンジェちゃんが自分達の子孫をこんな気持ちで見るのかもしれない」
「時代は巡っても、変わらず受け継がれていくものもあるってことですね。きっと光江さんやヘンリーの意志だって少しばかりそこに含まれているんでしょう」
「うん……いずれは私達もそうなるようにね。たぶん、マリーよりかは私のほうが先に逝くだろうけども」
「将太先輩……まあ、そうでしょう、ねえ」
弱気なことを言わないでくれ、と言うには……お互い年を取りすぎた。
もうあと10年もすれば100歳になってしまうような老翁相手に、20歳は年下の自分より長生きしろとはなかなか言いにくくなっているのが現在のマリアベールだ。
こういうものなのだろう、年を取るということは。前には気にも留めなかったことが少しずつ気にかかるようになって、前には言いたい放題できたことが少しずつ、言えないようになっていく。
翻って若かりし頃の自分は無茶苦茶だったなと、思わず遠い目をしていると将太が、からかうような笑みを浮かべて彼女に話しかけた。
「マリー、君もずいぶん落ち着いたよ……若い頃の君ときたらまったく、そこらの狼藉者が赤ん坊みたいだったからね」
「う"っ"!? ふ、ファファファ……将太先輩もお人が悪い、何をいきなりそんなソフィアさんみたいなことを」
「今、遠い目をしてたからね。なんとなく昔の自分を思い返してめちゃくちゃだったなーとか考えてるんじゃないかって、直感的にね」
「年食っても相変わらず出鱈目な直感力ですねえ!?」
ドンピシャで内心を言い当てられて、慄然としつつもマリアベールは抗議の声をあげる。
出会った頃からずっと変わらず、将太の直感的なインスピレーションともいうべきひらめき、察しの良さはほとんど超能力じみた確度だ。
一方で将太のほうも、この子ソフィアさんなりヴァールさんにさえあんな態度とっていたんだな……と、呆れた視線を向ける。
お互い数十年来の付き合いだ、共通の知り合いもそれなりにいて、話は尽きることもない。
このようにしてここ数年のフランソワ家と御堂家のつきあいは、落ち着き払った昔話が多くなっていくのだった。
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