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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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171/210

84年目-1 六代目聖女アンドヴァリ

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


アレクサンドラ・ハイネン(20)

神谷美穂(54)

エリス・モリガナ(79)

ソフィア・チェーホワ(???)

マルティナ・アーデルハイド(59)

フローラ・ヴィルタネン(43)

 二代目聖女ラウラ・ホルンの逝去から、そう日を待たずして──

 ダンジョン聖教においては象徴的存在たる聖女の、代替わりがついに果たされることとなった。

 すなわち五代目聖女神谷美穂がその座を退き、継承した称号《聖女》をまた、次代の聖女へと引き渡す儀式が行われたのである。

 

 次なる聖女としてその称号を受け取ったのは、言わずもがなアレクサンドラ・ハイネン。

 この頃にはすでに神谷に代わり聖女としての業務を一部行うなど、内外的にも次期聖女としての立場を確固たるものとしていた上での正統継承だ。


 高いカリスマから来る人望ゆえ反対意見などもあるはずがなく、ダンジョン聖教信徒の誰もが新たなる聖女の誕生を喜び、喝采をあげていた。

 五代目たる神谷からしても、アレクサンドラはもはや探査者としても信徒としても自分さえ越える逸材だ。それゆえ13年にも亘る長期政権を文句一つなく、喜んで彼女へと引き継いだのである。

 

 だが、後に神谷はこの時の判断を。いやもっと言えばアレクサンドラを弟子に引き入れたことを心底から後悔することとなる。

 アレクサンドラは決して清廉潔白にして無垢なる聖人などではなかったのだ。

 

 委員会、およびその傘下組織"倶楽部"との関係。

 誰にも少しも悟られないまま、彼女は邪悪に与していたのである────

 

 

 

 神谷から放たれた光を、アレクサンドラはその身に受け取り受け入れた。

 同時に脳内に響く声。なるほどこれが、と内心にて納得する。

 

 

『神谷美穂によって発動した称号効果を受け取りました』

『あなたの称号は以後、《聖女》となります』

 

 

 かつて神谷が温かみのある声と評したそれは、しかしてアレクサンドラの胸を打つことはない。

 なんの感慨もない継承だった……馬鹿馬鹿しいと嘲笑さえしそうだ。それでも外見だけは繕って、涙ぐんでみせる。

 

「……今。たしかにお受け取りしました、称号《聖女》!」

「はい、たしかに見届けました。これをもってあなたは六代目聖女アレクサンドラ・ハイネンです。同時に五代目だった私、神谷美穂はダンジョン聖教の司祭へとその位を移します。ふふ、あの時弟子に取った子が、まさか次代の聖女だなんて。これも運命ね」

「…………神谷、先生」

 

 師として己を導いてくれた、神谷もまたうっすらと涙目だった。その姿には、アレクサンドラもいささかばかり感動とほんの少しの罪悪感を抱く。

 ダンジョン聖教にも聖女にもなんの思い入れをも持たないアレクサンドラだが、それでも神谷についてだけは話が別だった。

 

 人生でたった一人、本気で自分のことを想って怒ってくれた人──それが神谷という師匠だ。

 であれば、多少なりとも人の情とて湧くというもの。アレクサンドラは多少の気遣いを示した。

 

 神谷をそっと抱きしめる。ダンジョン聖教聖都モリガニアは大聖堂内にて。

 五代目から六代目へと、聖女が引き渡された感動のシーンの演出だった。見守る観客達が歓声をあげ、これまでの聖女を労りつつこれからの聖女を迎え入れた。

 

「ラウラちゃんから始まってもう六人目……エリスちゃんを除いても実質五人目なのね。ずいぶん遠くまで来た気分ねえ」

「ハッハッハー、こんなふうにして時代は変わっていくんでしょうね。本当、時間の流れは早いですよ」

 

 最前列席のVIP席、WSO統括理事ソフィア・チェーホワと初代聖女エリス・モリガナが並んで座り小声で話す。隣には三代目聖女マルティナ・アーデルハイドに四代目聖女フローラ・ヴィルタネンもいる。

 錚々たる面子だ……とりわけアレクサンドラはやはり、ソフィアとエリスにちらと視線を向けた。

 どうにも、意識せざるを得ないのだ。

 

「…………あれが、あれこそが私の」

「アレクサンドラ?」

「いえ、なんでもありません五代目様。偉大な歴代聖女様方にも認められる中での聖女継承、まこと光栄ながら身の引き締まる想いです」

「ふふ、そうね。でもあなたならきっと大丈夫よ、私よりもはるかに聖女としてふさわしいあなたなら、きっと」

 

 思わずして漏れたつぶやきに反応した神谷へ、完璧な応対をもって誤魔化しつつもアレクサンドラは聴衆へと向き直った。

 観光客も、関係者も、マスコミも誰も彼もが誰一人、何一つとして自身を疑っていない。否……三代目聖女だけは少しばかり気にかかるが、すでに委員会とのつながりは断っている。次に彼らと繋がる時は、聖女の座から辞する時だろう。

 

 つまりアリバイ工作も完璧なのだ。いかな聖女とてたった一人で声を上げたところでどうにもできない。

 万事問題なし。自信をもってアレクサンドラは、眼前の人々へと高らかに告げた。

 

「みなさま! ……ご覧の通りです。たった今私アレクサンドラ・ハイネンは五代目聖女たる神谷美穂様より称号《聖女》を受け取りました。これをもって六代目聖女としての地位に就くこととなります。浅学非才の身ではありますが、誠心誠意使命をまっとうすることをここに誓いますのでなにとぞ、よろしくお願いします!」

 

 新たな聖女としての所信表明。懸命で、健気で、そして明るく優しい"理想の聖女"然とした姿でアレクサンドラは人々に訴えかけた。

 元より人気者の彼女がそのように振る舞えば、たちまち人々はそれに呼応して賞賛の声を上げる。かつての聖女達にさえなかった、圧倒的人望と支持──

 そしてアレクサンドラは、その勢いのままに告げるのだった。

 

「聖女としての私はこれより、アンドヴァリと名乗らせていただきます。そう、私は六代目聖女アンドヴァリ! 以後、よろしくお願いします」

「アンドヴァリ……? 北欧神話の、ドワーフの名前ね。でもどうしてかしら、そのような名前を……」

「あー、前に彼女から聞いたんですけど好きらしいですよ、アンドヴァリの逸話が。ともすれば吝嗇に見えるけれどその実、節制的で用心深いドワーフの姿に憧れるとかなんとか言ってましたねー」

「憧れを名前にするんですね……サウダーデさんとはまたちょっと違う感じですけど、こだわりですね」

 

 アンドヴァリ。唐突に名乗ったその名は、エリスがソフィアに答えた通りの由来だ。そこ自体には裏も表もなく、かすかにアレクサンドラもうなずいた。

 節制と、慎重。その二つをもって委員会と綱渡りでやり取りしてきた彼女にとって、かのドワーフこそは理想でもある。己の目的を果たすまで、いいや果たしてからも用心深く動かねばならないのだ。

 

 ────ここに、六代目聖女アンドヴァリが誕生した。

 彼女はこの時から15年、現代から実に二年前までの間をダンジョン聖教の聖女として職務を果たすこととなる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラウラさんが亡くなったこともあり、ここからダンジョン聖教の初代離れが進行していく形ですか。 (それ自体は別に悪いことではなかったのでしょうが……)
2024/05/19 07:03 こ◯平でーす
[一言] ソフィアさんとエリスさんを意識している? 敵視しているのか、不老なのを羨んでいるのか
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