23年目-2 エリスとラウラ
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
エリス・モリガナ(18)
ラウラ・ホルン(15)
第二次モンスターハザードにおいて、ソフィアやヴァールと知り合ったことからなし崩し的に戦場に身を置くことになったエリス・モリガナ。
幸か不幸か戦いの資質はあったらしく、ヴァールとタッグで能力者解放戦線の幹部らやモンスター達と戦っていく中で、メキメキとその実力を向上させるに至っていた。
当初は執拗に追いかけてきていた敵幹部・火野源一などもヴァールの手を借りながらどうにか撃退していたのだが、戦闘を繰り返すうちに著しい成長を遂げたエリスが逆に圧倒するようになっていたほどだ。
本人としては嬉しくないことかもしれなかったが、紛れもなくエリス・モリガナは戦闘におけるある種の天才だった。
そしてこの頃、そんな彼女に命を救われ、以来弟子を自称して引っ付いてくる探査者の少女がいた。
ラウラ・ホルン。後の二代目聖女であり、ダンジョン聖教を組織した張本人。すなわち現代にまで伝わる世界的宗教の、オリジンたる人物だった。
「お姉様ー! エリスお姉様ー! どーこでーすかー!」
「ここですよ、ラウラ。大きな声で人の名前を呼ばないでね?」
「あ! エリスお姉様ー! わーい!!」
「聞いて?」
能力者解放戦線の幹部達を追い詰める旅の中で訪れたスウェーデンの港町、その市場にて。
周囲の奇異の視線も構わずに自分の名を叫び続ける妹分が駆け寄ってくるのを、エリス・モリガナは苦笑いしつつも受け止めた。
ブラウンの髪を短く切り揃えた、活発な印象の少女だ。肌は小麦色に焼けていて、服もボーイッシュなシャツとズボンというのが余計にその印象を強くしているかも知れない。
第二次モンスターハザードを巡る旅路の中で助け、そのままエリス達に同行してきた探査者の少女であり、名をラウラ・ホルンといった。
朗らかな笑みとともに、エリスを強く抱きしめて甘える。
「お姉様ー! あっちあっち、すごいですよーなんかお店がいっぱい!」
「交易で栄えている町だものね。ところでヴァールさん達は? 一緒じゃなかったの?」
「んーっと、偉い人と話があるからーってヴァール様は全探組の建物に入ってー。ラウエン兄ちゃん達とお姉様を探してたんだけど、みんな迷子になっちゃったみたい!」
「それはあなたが迷子なのですよ、ラウラ」
「あれー?」
コテン、と首を傾げて不思議そうな顔をするラウラに、エリスはやはりため息を吐き、その頭を優しく撫でた。
件のモンスターハザードにおいて、ソフィア・チェーホワとその影ともいえるヴァールが用意した特別チーム。そこにエリスとラウラも参加する形で行動をともにしていたわけだが……特に最近では、ラウラの自由奔放さに自分も含めた年長者達が振り回されているような気がしてならない。
リーダーのヴァール──ソフィアが二重人格であること、そして自分を助けてくれたのは裏人格のほうであることはエリスもすでに把握済みだ──を筆頭に、チームメンバーには錚々たる面子が揃っている。
何やらすさまじい拳法を使う武術家シェン・ラウエン。
日本で大学教授をしているらしく、エリスやラウラにも基礎教育を施してくれている妹尾万三郎。そしてその助手トマス・ベリンガム。
北欧最強とも呼ばれている女傑、レベッカ・ウェイン。その弟子シモーネ・エミール。
探査者というだけで事実上、ただの村娘に等しいエリスやそもそも探査者になって数カ月程度の新人、ラウラが混ざるにはいささか場違いに思える豪華メンバー。
なので最初はエリスも断ろうとしたのだが、そこはどうしたことかヴァールの強い推薦により、なし崩しに決まってしまったという経緯があった。
ラウラを抱きしめながらなんとなし、現状の我が身を省みてはふうとため息を吐き、ぼやく。
「なぜ、私のような田舎娘があんなにすごい人達と一緒に犯罪組織なんてものを追いかけてるのでしょうね……」
「お姉様?」
「正直役者不足でしょうに、私なんて。もちろん、お役に立てることがあるなら精一杯がんばりますけど……」
エリスとて、能力者解放戦線の野望を挫こうという正義感はある。むしろ誰より強く平和を望み、モンスターハザードを解決させるべく奮闘しているのが彼女だ。
それゆえにヴァールはエリスを高く評価し、旅の中で彼女の成長を促しているところもあるのだが……本人からすれば大物だらけのパーティにわざわざ参加しても、足手まといなだけなのではないかという悩みが先に立ってしまうのだ。
憂鬱に浸るエリスを見上げ、首を傾げるラウラ。
自分を助けてくれた最高の探査者。誰より美しく誰より強く、そして優しいお姉様である彼女は時折、こうして思い悩むことがある。
なぜそんなに悩むのかと疑問だったのだが、どうやら他の仲間と比べて実力不足だと自信を失っているらしい。そう当たりをつけてラウラは、エリスの顔をまっすぐに見上げて言った。
「お姉様のこと、ヴァール様はもちろんラウエンさんも教授もトマスさんも、レベッカさんだってすっごい褒めてるよ? 天才だって、今にすごい探査者になるって!」
「あはは……そうなの? 本当なら嬉しいわ。でもシモーネさんは別なのね」
「あの人嫌い! 姉ちゃんが褒められてるとヤキモチ焼くんだもん、みっともなーい」
「そんなこと言わないの。シモーネさんは立派な方よ?」
どこまで本当だか分からないが、とにかく自分を慰めてくれているのは理解したエリスが、ラウラに微笑みかける。
その顔に陰りはない。ラウラは満足して、また甘えるように抱きつくのだった。
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