82年目-3 サウダーデの帰還
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
サウダーデ・風間(41)
フローラ・ヴィルタネン(41)
3年の武者修行を経、ついに師サウダーデから独立したベナウィ・コーデリア。
もはや探査者としては、ある一点──スキルの出力調整ミス──だけを除き、どこに出しても恥ずかしくない立派に一人前になった彼は、当然ながら師とは異なる道を行くこととなった。
太平洋ダンジョンへと赴く前の彼の元々の出身地、アメリカへと赴きそこで活動することにしたのだ。
サウダーデとしてはぜひとも太平洋でともに戦ってほしい気持ちもあったのだが、彼の訳ありな出自、すなわち大物権力者の非嫡出子であるという事情を鑑みてそれを認めることとした。
どこであれ、ともに同じ空を仰ぐ友であることに変わりはないのだ。であればアメリカだろうと太平洋だろうと師弟の絆が揺るぐことなどなかった。
さて、そうした理由から単身、太平洋へと戻ったサウダーデはそこから太平洋ダンジョンの攻略に精を出すこととなる。
40歳を超えてなお実力を高めていき、ついには近接戦闘においてはS級探査者最強クラスとまで言われるようになるのであった────
3年ぶりの客船都市は、以前に比べても格段に規模が拡張され、また経済的にも発展していた。
コンビニエンスストアやスーパーマーケットまでもがちらほら、あちこちの区画に出店来てきているのが何よりもの証拠だろうとサウダーデは考える。
太平洋ダンジョンの周辺を囲う、無数の豪華客船。それらは一つ一つが連結され、さながら陸地のように土地を形成している。
そんな構造ゆえに、要は船同士を繋げればそれだけで領土が拡大できるという極めて簡単な理屈でもってこの都市は年々、日進月歩での発展を遂げつつあった。
さすがに3年あればいろいろ変わるか……と、感慨をもって久方ぶりの都市を見て回ったサウダーデだが、一方で変わらないものもある。人間関係だ。
子分を自称する情報屋ディーン、師匠や戦友の知人であるフローラ・ヴィルタネン他、以前から太平洋ダンジョン攻略に携わっていた探査者達など。
彼を知る者は揃ってみな、S級探査者にして太平洋客船都市最強であるサウダーデ・風間の帰還を盛大に祝していたのである。
サウダーデの住まう客船内、宴会用の酒場にて。
ついに帰還した彼を労うパーティーが催されていた。
「いやーめでたいったらないぜ、旦那! ベナウィのやつが独立してアメリカ行っちまったのは寂しいが、仕方ねえよなそれも人生だ!」
「私は、そのコーデリアさんとはお会いしたことはありませんけど……サウダーデさんほどの方が一人前と見なした方なら、ぜひ一度会ってみたいですね」
「うむ。ベナウィにもベナウィの想いや事情があり、渡米することとなった。だがまたいずれ、太平洋に顔を出すこともあるだろう。その時にはディーンもフローラさんもぜひ、彼と言葉を交わしてあげてほしい。きっとそれもまた、いい経験になる」
ディーンやフローラと酒を飲み交わしつつ、ここにいない、アメリカにて別れた弟子ベナウィについて語る。
一人前であると太鼓判を押し、彼の独立を認めたサウダーデだが、同時にベナウィの来歴をも知ってアメリカに向かう選択を後押ししていた。
さる大物政治家の子息……愛人との子であるがゆえに認知されずじまいという出生。その身一つで母を守り、そしてその人を喪い天涯孤独となった後は一念発起して太平洋客船都市にて大成しようとした過去。
それらを踏まえて、ベナウィはアメリカに残ることを決めたのだ。
『あまり良い思い出もないわけですが、それでもステイツが生まれ故郷ですからね。何かを始めるにあたって、とりあえず生家を訪ねてそこからスタートさせたいなーと思いまして。あと一回くらい、血縁上の父親という人物に挨拶しておきたいですしねハハハハ』
そう、なんの蟠りもなく笑う弟子を、師匠ながら心底より尊敬する。
憎悪に塗れてもおかしくないだろう生い立ちを、それでも笑って受け入れて爽やかに生きる彼は自慢の弟子であり友人だ。少しばかり、いやかなりうっかりなところはあるものの……そんなところさえ、ベナウィという男の個性なのだと信じられる。
焼酎を呑み、サウダーデは語った。
「探査者としての素質、才能は十二分に感じられる男だ。それをどう活かすか、開花させられるかは彼次第だが、俺はいつかS級にまで至るだろうと予想している。先生も同意見だったな」
「旦那の先生ったら、マリアベール・フランソワさんですかい! あの大探査者直々のお墨付きならそりゃ、間違いねえや!」
「マリーさん……たしか数年前にお酒の飲み過ぎで倒れたとは聞いてますけど、お元気なのですか?」
サウダーデの師匠が世界最高の探査者との呼び声も高い大探査者、マリアベール・フランソワであることは周知の事実だ。
そんなマリアベールからさえも資質を認められているらしいベナウィの行く末に、それは期待できるとディーンは目を輝かせた。
一方でその名を聞いて、別のことを考えて不安げな表情を浮かべたのがフローラだ。
数年前、マリアベールが突然倒れたという報せは遠く太平洋まで届いたものの、その後についてはいまいち伝わってこない。
ネットのニュースサイトなどでも真偽入り混じった情報が錯綜しており、落ち着くまでは様子見としているうちに数年が経過してしまっていた。
彼女の直弟子であるサウダーデならば詳しいことを知っているだろう。
そう思って尋ねれば、彼は沈痛な面持ちで答えるのだった。
「ああ、今は落ち着いているよ。さすがの生命力と言えるが……ただ、倒れた理由が理由だからな。飲酒についてドクターストップがかかって以来、さらに老け込まれてしまって」
「まあ……」
「禁酒こそしっかりしているようだけれど、元気はなくなってしまっているよ。ヘンリーさんの容態も、あまり良くないようだからね」
言いながら、弟子としてサウダーデも不安になる。
禁酒を余儀なくされて落ち込んだマリアベールについては言ってはなんだが自業自得の感もあるのだが、彼女の夫ヘンリーの具合が最近、さらに悪化しているらしいのだと彼も耳にはしている。
酒を断ち、その上でヘンリーまで失ってしまうようでは……それはあまりにも酷い話だ。
願わくばかの夫婦に幸福あらんことをと祈りつつ、サウダーデは遠くイギリスの師匠へと盃を傾けた。
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