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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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163/210

82年目-1 アレクサンドラ・ハイネン

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


アレクサンドラ・ハイネン(18)

神谷美穂(52)

 神谷美穂が、ダンジョン聖教五代目聖女となって10年が経過した。大ダンジョン時代82年目、特に大きな事件もなく世界的に穏やかな時期である。

 この頃、神谷は一人の少女を見出していた。己の弟子として、そして次期聖女として極めて大きな資質を持っている探査者と巡り合ったのである。

 

 アレクサンドラ・ハイネン。

 ドイツの歓楽街で産まれた彼女は片親で、母親はいるものの父親は失踪している……もっといえば行きずりの関係の中でできたいわゆる非嫡出子であった。

 女手一つで18歳まで無事に育った彼女だが、この時期、人生における転機が訪れていた。

 能力者として覚醒したのである。

 

 

 名前 アレクサンドラ・ハイネン レベル154

 称号 ダブルウィザード

 スキル

 名称 土魔導

 名称 風魔導

 

 称号 ダブルウィザード

 効果 魔導スキルを二種類、同時使用した際の威力に補正

 

 

 

 覚醒後、さっそく探査者として登録して活動を開始した彼女の、この頃のステータスが上記だ。

 探査者歴概ね一年。なんとも珍しいことに魔導系スキルを二種類獲得しており、称号もそうした特異性を最大限活かせるようなものとなっている。

 

 そんなだからドイツにおいても期待の新人とされていたアレクサンドラが、神谷に見出されたのは偶然であり必然だったのだろう。

 少なくとも神谷のほうからすれば偶然の出会いだったし、アレクサンドラのほうも偶然ではあったが、千載一遇のチャンスでもあった。

 

 つまりはそう、彼女は聖女に自らを売り込んだのだ。

 敬虔なダンジョン聖教信者であること、貴重なステータスを持ち国からも期待を寄せられていることをアピールしたのである。

 

 ──後の世に、六代目聖女として伝わるアレクサンドラ。

 別名アンドヴァリとも呼ばれる少女の、これはある意味はじまりのエピソードである。

 

 

 

 たまたま、本当に偶然の出会いだった。公務を果たすために立ち寄ったドイツはミュンヘンにて、五代目聖女たる神谷美穂はある少女と出会った。

 見目麗しく、楚々とした顔立ち。たおやかな笑みを絶えず浮かべており穏やかな言動と振る舞いは神谷からしても見事なまでに美しく、何よりダンジョン聖教の敬虔な信徒であるところが彼女には好ましく思える。

 

 名をアレクサンドラ・ハイネン。去年にステータスを獲得して探査者としての道を歩み始めた18歳の少女だ。

 とはいえ特に縁もゆかりも無い者同士、敬虔さを讃え聖女としてその身その生が安らかなることを祈るばかりなのであったが……アレクサンドラのほうは意外にもアグレッシブだった。

 

 いきなり、神谷への弟子入りを願い出たのである。

 ダンジョン聖教の教会内、来賓用の客間にてアレクサンドラの小鳥のような美しい声が響いた。

 

「聖女様っ。どうか私に探査者として、ダンジョン聖教信徒としての御指導御鞭撻をお授け下さい。一生に一度あるかないかのこの出会い、この機会を私は恥ずかしくとも浅ましくとも逃したくはないのですっ」

「ええと、ハイネンさん? ……あなたの想いを、恥ずかしいとも浅ましいとも私は思いません。向上心に溢れた、とても素晴らしい前向きな姿勢だと感心するほどです。ですがさすがに、それは……」

 

 その場に跪き、伏して希うアレクサンドラに困惑を隠せない神谷。無礼や失礼への怒りはない……むしろ彼女の来歴を先程に聞かされて、なるほどこういうことにもなるかと得心するほどだ。

 聞けば魔導系スキルを二つも授かっている期待の新人、いわゆる麒麟児だ。その上で本人の人品骨柄も良く、向上心もあるとなれば神谷という探査者としても雲の上の存在との出会いを、単なる想い出としてだけに留めたくないと考えるのも理解できる。

 

 マルティナとフローラの時とは逆ですね、と内心にて親友と弟子の出会いを顧みる。

 四代目聖女フローラ・ヴィルタネンを一方的に見出した三代目聖女マルティナ・アーデルハイドはその勢いのまま、半ば強引にフローラを引き取って神谷を教育係としたのだ。

 あれほど強引な話に比べれば、こうした若さゆえの姿勢はまるで問題ないとさえ思えるほどだった。


 とはいえ、ここはダンジョン聖教の教会で神谷は聖女。なんなら今、目の前にはこの教会の司祭がおり、軽く雑談していたところなのだ。

 そこに唐突に横槍を、それも不躾な弟子入り志願をしてきたとあっては、司祭も面目丸つぶれとばかりに顔を真赤にして激怒するのも無理のないことである。

 即座に怒号が響いた。探査者ではないものの年季の入った壮年男性による、本気の叱責である。

 

「無礼であるぞ、ハイネン! 期待の新人などと言われてのぼせ上がったか!? 聖女様を前になんたる無礼を、失礼をっ!!」

「無礼、失礼は承知の上です! 後でいくらでも謝罪いたします、贖罪もいたします! ですが私は、聖女様の教えを賜ることでより探査者として、ダンジョン聖教信徒としての高みに至りたいと──」

「浅ましいッ!! 聖女様に取り入って次期聖女にでもなりたいと言うか!? 貴様ごときどこの馬の骨とも知れぬ下賤の娘にそのような大それた野心は許されぬわ! 賎しい出自の下民風情が身の程を弁えいッ!!」

「ッ────!!」

 

 叱られ、それでも抗弁するアレクサンドラに放たれた暴言。

 少女の出生……母が、行きずりの男に惚れ込んだ結果できた非嫡出子。父と呼べる男は彼女の存在すら知らぬまま、どこかへと消えてしまってそれきりだ。

 母はそれでもアレクサンドラに愛情を注ぎ育ててきた。女手一つで。そんな彼女に浴びせかけられた言葉。

 

 一瞬頭に血が上るアレクサンドラ。だがそれより先に、彼女以上に激怒した者がいた。

 五代目聖女、神谷美穂である。

 

「ウォーレン司祭!! なんですか今の言葉、今の物言いは!!」

「!? せ、聖女様?」

「言うにこと欠いて人の生まれを、育ちを侮辱するなど!! なんという言い草っ、あなたはそれでもダンジョン聖教の司祭ですか!! いいえそれ以前に人間として恥を知るべきです!!」

「────」

 

 当のアレクサンドラでさえ唖然とするほどの激昂ぶりであった。美しい白磁のような肌が怒りで真っ赤に染まり、神谷の表情も聖女らしい淑やかなものからまるで鬼のような恐ろしいモノに変貌している。

 これは神谷の、若かりし頃から今に至るまでまったく変わらない気質だった……とにかく気が短く、一度怒りに火が付くと顔を真赤にしてしばらく収まらないのだ。

 

 かつてはS級探査者マリアベール・フランソワからさえも呆れられたほどの怒り心頭ぶり。

 聖女となっても変わらないソレが、少女に対してあからさまな侮蔑を吐いた司祭へと向けられる。

 

「我らが神はそのようなことを言いましたか!? 人の生まれを虚仮にせよと、人の育ちを馬鹿にせよなどと経典に一言でも一文でも載っていましたか! どうなのですか答えなさいッ!!」

「い、いえ聖女様! も、申しわけありません失言でした! 平に、平にご容赦を──」

「私に謝ってどうするのです!! あなたが謝罪して許しを請うべきは私ではなくこの子、アレクサンドラ・ハイネンさんでしょうッ!! 決してあってはならない誹謗中傷! 侮蔑ッ! 差別ッ!! あまりにも赦しがたい……ッ!! 踏みにじられた彼女の尊厳と魂、そして彼女の御母堂様と御尊父様に心の底からの謝罪をなさいッ!!」

「ひ、ひいいっ!?」

「せ、聖女、様……」


 もはや教会内どころか町中に轟くのではないかと言うほどの怒号。神谷の叫びは、司祭はおろかアレクサンドラさえも怯ませる。

 それでいて彼女自身には、目に涙を浮かべさえして優しく抱きしめてくれるのだ。まるで聖母のようなぬくもりに、少女は激しい動揺を覚える。


「ハイネンさんっ……申しわけありませんッ! 私の教えが足りないばかりに、なんという惨い言葉を……!!」

「え、あ……え?」

「お詫びと言ってはなんですが、謹んで弟子としてあなたを扱いましょう。探査者としても信徒としても、私の知る限りのすべてをお教えします! よろしくお願いします、ハイネンさん……!!」

「よ、よろし……く、お願い、します?」


 突然の成り行き。先程まで渋っていた様子の弟子入りが、こうまであっさりと決まったことに感情が追いつかずにただ、うなずく。

 驚きに頭を真っ白にさせながらもアレクサンドラは、ただ……どこか染み入るように今しがたの、自身のために叫ばれた怒りと叱責を心に刻みこむのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 アレクサンドラは名前だけ出ている「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初から野心をもって弟子にと押しかけたのか、どこかで歪んでしまったのか……
[良い点] どっちが先にハイネンさん出す競争はヒストリアの勝利!(何) [気になる点] ウォーレンさんも後半の暴言さえなければそこまで間違ったことは言っていない感じだったのですが…… 不用意な発言で…
2024/05/11 01:10 こ◯平でーす
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