81年目-2 アランと親友の弟子
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
ベナウィ・コーデリア(22)
サウダーデ・風間(40)
アラン・エルミード(42)
各地で次々と後の超新星になる赤子が生まれてくる中、今をときめくベナウィ・コーデリアの武者修行は依然として続けられていた。
師サウダーデ・風間とともに太平洋を出発し、イギリスやドイツ、ノルウェーにフィンランドなど西欧から北欧を主に巡った後、師弟は思い切ってフランスを経由して南米に向かおうとしていた。
かつて若い頃のサウダーデが行った武者修行の旅路をそのまま踏襲しても面白くはない。
ベナウィにはベナウィの人生があり、また冒険の旅も然りなのだ。そう考える師匠の心遣いとも言える道中であったが、そもそも別に武者修行とかする必要があるのかとそこはかとなく考えなくもないベナウィからすれば、愛想笑いとともに感謝を告げるくらいのものでしかなかったのも事実だ。
──つまりはそう、相変わらずサウダーデはベナウィを誤解していた。
探査者になり元々の夢が潰えたことを引きずっており、その傷心を癒やすためのものとしてもこの旅路を定めていたのだ。
しかして当のベナウィは特に引きずることなど何もなく、サウダーデから見ていまいち熱意がないように見えるのは翻って彼自身が度を超えて熱意の塊だったからでしかない。
彼自身そうした師匠の勘違いにも気付いており、武者修行の旅路の中でも度々説得しようとしていたのだが、サウダーデの思い込みもこれでなかなか激しいものがあり……結果としてフランスに至るまで誤解を解けないままだったのである。
さしもの楽天家もこうなると困り果て、どうしたものかと思案する中。辿り着いたフランスにて状況は一変することとなる。
サウダーデの親友にしてS級探査者、アラン・エルミードが思わぬ助け舟を出したのだ。
「クリストフ……いくらなんでも君を基準にするのはベナウィくんが可哀想だよ。親友として言わせてもらうけど、師匠としては改めるべきところがあると思うよ、君にも」
「む、むう? アラン……!?」
弟子ベナウィを鍛える旅の中、後学のためにというのもあり親友アランの下を訪ねたサウダーデ。
しばらくアランの住む町に住み着いて弟子に指導する中で予想外の指摘を受け、彼は目を丸くして呻いていた。
エルミード家にて晩餐を楽しんでいる最中でのことだった。アランの妻エミリア、そして彼らの子リオンも交えての宴会。無論弟子のベナウィも同席しており、美味しい料理とこの土地特産のワインに舌鼓を打っていた。
さてそんな中で話の流れにて、ベナウィの指導について語るサウダーデに指摘したアラン。
何度か修行風景に付き合いもしたゆえに気づいたことだ……もっと言うと事前に電話でマリアベールからも気にかけるよう言われていたことでもある。
親友に対して、ほとんど初めて苦言を呈することになる。意を決して彼は、口を開いた。
「僕の見る限り、ベナウィくんはしっかり努力しているよ。君の教えをよく学び、己の血肉にしようと奮闘している。それは君も分かっているだろう?」
「あ、ああ……もちろんだ。だがだからこそ、かつての夢に未練を抱く姿が余計にもったいなく思えているのもたしかだが」
「そこだよ。ベナウィくんは別に、そんな未練を抱いていないって繰り返し言ってるそうじゃないか。マリーさんからも電話で聞いたよ、クリストフが変にベナウィくんの過去を気にしていて、当の弟子本人をも置き去りにしてるって」
「せ、先生まで……!?」
「あの人的には弟子と孫弟子の問題だからって、あんまり口出しする気もなかったみたいだけど。でもそういう間柄じゃない僕なら好きに言って良いよって言われたよ」
愕然とするサウダーデ。フランスに到着する前、イギリスに立ち寄ってしばらくマリアベールにもベナウィの指導を見てもらっていたのだが……時折、呆れた目で自分を見ていたのはそういうことだったのか。
『アンタもやっぱ人の子だねえ。手間のかからない弟子だったからなんか、変に微笑ましいさね。ファハハ!』
などと意味深なことを言って笑いながらベナウィと飲み比べをしていた時には首を傾げていたが、まさかそういう意味だったのか?
たしかに道中、何度かベナウィからやんわりと"過去にこだわりとかない"という話は受けていたがてっきり、彼なりの気遣いかと思っていた。
人間、そんなすぐに過去を切り替えられるようなものとも思えなかったのだ。
……これはサウダーデ個人の過去が関係しているゆえの感覚だった。故郷を、母を滅ぼされた過去を吹っ切るのに永らく苦悩し続けた来歴だからこその陥穽。
誰しもが深い傷となる過去があり、誰もがそれを克服するのに永く苦しみ続けるのだ、と。彼はすっかりそのような感覚を身につけていたのだ。
だが、親友と師匠にこうまで言われてはさすがに何か思い違いに気づかないわけにもいかない。
「べ、ベナウィ……お前は、まさか本当に気にしていないのか? 夢潰えた過去を、諦めざるを得なかった想いを……」
「ぜーんぜん気にしてないですねえ、いやホント。何せ私ときたら昔から、切り替えばっかり早い質ですから! はははは!」
「なん、と……」
ここに至り、サウダーデはようやく弟子の性質に気づくことができた。ベナウィは心底からの楽天家であり、過去がどんな形のものであれ、現在そして未来を見据えるために切り替えて考えていけるタイプの人間だと思い知ったのだ。
彼の人生でも初めてに近い衝撃だった……動揺している師匠に弟子はようやく分かってもらえたと笑いながらワインを呑み、そして。
「クリストフも、そういうところあるんだねえ」
彼にそうした思い違いを気づかせたアランは、親友の珍しい誤解と、それが解けたことを微笑んで眺めるのであった。
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