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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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155/210

80年目-4 アイオーンの渡洋

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ロナルド・エミール(22)

エマ・エミール(28)

 第七次モンスターハザード後、恋人のエマ・オーウェンとともに新たな人生を歩み始めた新人探査者ロナルド・エミール。

 終戦後5年が経過した頃にはエマと結婚もしつつ世界を巡る旅を続けていたのだが、ここに来てその行く先を一路、とある場所に定めようとしていた。

 太平洋客船都市である。

 

 結婚して以来、そろそろ定住先を見つけたいと思っていた矢先に昔の仲間、マリアベール・フランソワからたまたま話を聞いたのだ。

 曰く"太平洋に移り住んでいた弟子が孫弟子を連れてやって来る"と。そこで興味を持って調べてみたところ、ロナルドもエマも揃って太平洋客船都市に大きな魅力を感じたのだ。

 

 何よりまず太平洋というのが二人にとっては期待感を抱かせるものだった。5年にも亘り世界を旅していたロナルドとエマにとり、未知なる太平洋客船都市というのはいたく知的好奇心を刺激されるものだった。

 加えて知己がすでに客船都市に住んでいたのもある──フローラ・ヴィルタネン。四代目ダンジョン聖教聖女だった彼女とは、第七次モンスターハザードでも共闘した仲だ。

 

 気になる新天地、しかも友人がすでに現地にいる。

 となればこれはもう、渡りに船とばかりに二人は渡洋したのであった。

 

 

 

 日本の横浜港から出発する客船に乗り、概ね2週間ほどかけての船旅。目的地は太平洋そのもの、中央部にあるダンジョン客船都市である。

 道中を愛する妻と二人、優雅なバカンスを決め込みながらB級探査者ロナルド・エミールはのんびりと養生していた。

 

 第七次モンスターハザード時には17歳だった彼もすでに22歳。幼さの残っていた顔立ちはすっかり精悍なものになり、元より備わっていた実力に5年に及ぶ旅路の中で培ってきた実績と経験が合わさり、すっかり一人前の風格を漂わせていた。

 割り当てられた一室、ベッドに仰向けになって寝そべる彼に寄り添うように同じく横たわる妻、エマ・エミールが笑いかけた。

 

「ロニー。いよいよ太平洋客船都市に辿り着くわね」

「そうだな、エマ。底しれない大穴の周りを、無数の豪華客船が連結して人工の土地を作り上げてるなんてワクワクするよ」

「この船も到着次第、新しい"土地"になるんでしょう? まるでブロック玩具ね。とってもファンタジーだわ!」

 

 年上の美女妻と笑いあって抱きしめ合いながら、ロナルドはこれから向かう太平洋へと想いを馳せる。

 それなりの期間、世界あちこちをエマとともに転々としてきたが、そろそろ腰を落ち着けて家庭を作り上げて行きたいと思っていた頃合いなのだ。エマも、はにかみながら子供が欲しいと言ってくれた。そうなれば俄然として定住先を探す気にもなるものだ。


 そんな折、電話でやり取りした偉大な先達マリアベールから聞かされたのが太平洋客船都市だった。

 なんでも彼女の弟子、サウダーデ・風間やかつての戦友フローラ・ヴィルタネンがいるらしい。しかも聞けばとことん異常な規模と性質のダンジョンがそこにはあり、いかなるタイプの戦力であれ常に探査者を欲しているのだとか。

 

 これに乗らない手はない、とロナルドはすぐさまエマに話を持ちかけた。

 彼自身、幼少時にノインノア・ジェネシスによって施された人体改造実験の影響でスキルに依らない変身能力を持っている極めてレアなタイプの探査者だ。

 需要は十分にあるとマリアベールも太鼓判を押し、フローラを通じて現地の全探組施設に推薦状まで用意してくれた。

 

 そうしたわけで今、一路客船都市へと向かう船の中というわけだった。

 心が踊る……これまで訪れた多くの土地や文化も素晴らしかったが、特異性で言えば太平洋客船都市は群を抜いているだろう。想像するだに興奮が止まらない。


 どんな出会いが自分達を待っているだろうか。

 幼少時から今に至るまで、多くの出会いと幸運に恵まれてどうにか生き延びてきたからこそ、ロナルド・エミールという男は新たな出会いや学びを素晴らしいものだと思える価値観を完成させていた。

 エマに軽くキスをして、告げる。

 

「太平洋に着いたら、まずはフローラさんに会って用意してもらっている家っていうか、部屋を案内してもらうとして。そしたらしばらくは探査は控えて土地に慣れよう。デートがてら、あちこち巡るんだ」

「そうね。どこでもそう、まずはその土地を実際に歩いて、文化に触れて慣れていく。理解しがたいものがあったとしても、否定せずに尊重する。大切なことね」

「うん。まあ、あんまり受け入れられない文化には近づく必要もないけどね。でも、それはそういうものかと理解するのも大切だって俺は、この5年で教わったよ」

 

 穏やかに微笑むロナルド。少年時代の刺々しさ、来歴から来る荒さをこの5年、愛する人と多くのことを学ぶ度を重ねる中で克服していったその姿は、誰から見ても立派に成長した姿だと言える。

 そしてそんな彼を誰よりも近くで見てきたエマは、もう何度目かになるかも分からない胸の高鳴りを感じながらもその胸元に鼻先を擦りつけた。

 

 暗い時代を乗り越えて幸せを手にした男が、太平洋へと向かう。

 現代においてもサウダーデに並び太平洋ダンジョン攻略の要とされるS級探査者"アイオーン"の活躍が、始まろうとしていた。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[良い点] 現代でもS級最強クラスのサウダーデとアイオーンがいても、未だに攻略の目処が立たない太平洋ダンジョン。 そりゃ、太平洋来いよう公平よう!にもなりますわ。
2024/05/03 07:26 こ◯平でーす
[一言] この客室だいぶピンクだな……
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