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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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149/210

79年目-3 師弟、武者修行へ

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


サウダーデ・風間(38)

 極めて高火力、広範囲のスキル《極限極光魔法》と一切が不明の謎のスキル《メサイア・アドベント》。

 この二つを覚醒時に授けられた探査者ベナウィ・コーデリアがサウダーデ・風間の弟子となり、早くも半年が経過した。

 

 この頃に至ってもなかなか、スキルの威力調節が不安定極まりないベナウィだったが、それでも持ち前のフィジカルや頭の良さもあり、同世代の探査者達の中では頭一つ抜けた実力を誇るようになっていた。

 ……同時に彼特有のうっかり癖も太平洋客船都市に広く知れ渡り、道行く誰もが彼を見て"うっかりベナウィ"と呼ぶようになっていたのであるが、そこについては御愛嬌というものだろう。

 

 そんな彼の師匠サウダーデだが、頃合いを見計らってとある修行プランを練っていた。

 一向に出力調整の利かない《極限極光魔法》について、そろそろ本腰を入れて改善に取り組まねばならないと腹を括ったのだ。

 

 すなわち武者修行。それも太平洋を離れ世界各地を巡り、数多の探査者達と触れ合うことでベナウィの意識を改革しつつ実力の向上を図るのだ。

 そもそもこの弟子、人柄は良いもののいまいち探査業に身が入っていないところがあり、そこもうっかり癖の一因なのではないかとサウダーデは見ていたのだ。




「…………よし。荷も整った、行くとするか」


 ダンジョン客船都市の中でもトップクラスの豪華客船の一室、自宅と呼んで差し支えないそのスペースにて荷造りを終えてサウダーデはつぶやいた。

 四十路を控えたその肉体は、しかし衰えるどころかますます鍛え上げられさらなる発展を遂げている。レベルも格闘技術も熟達して脂が乗り始めた、まさしく全盛期の様相だ。


 いつもの修行着に大きなリュックサックを背負い、彼はいざと意気を燃やした。

 これから彼は太平洋を出立するのだ……実に8年ぶりに世界を巡る武者修行の旅を始めるために。


 その旅の目的は、決してサウダーデ自身の実力向上を意図してのものではない。

 彼の愛弟子、ベナウィ・コーデリアを鍛え上げることが目的の、二人三脚での旅路である。


「ふっ……思えば若き日も武者修行したが、今度は弟子を鍛えるための旅か。ベナウィも鍛錬を通じて、少しは気持ちを切り替えてくれると良いのだが」


 独り言つ。考えるのは無論のことベナウィについてだ。

 弟子にとって鍛え始めて概ね半年、しかしどうにも目につくのが彼自身のやる気のなさ……と言うと語弊があるが、どうにも付きまとう非能力者だった頃を引きずる姿だった。


 無理もない、と正直なところ思う。 

 聞けばベナウィという青年は、元々は出身のアメリカはテキサスから太平洋客船都市へと、一攫千金の成り上がりを夢見て渡洋したらしい。

 倉庫作業員からキャリアを積もうと挑戦していたという。


 懸命にコツコツと努力していたそんな折、突然能力者としてスキルを授けられ、探査者として以外の道を事実上完全に閉ざされたのだ。

 そのショックたるや如何ほどのものだろうか。社会に出る前にステータスに覚醒したサウダーデには、その気持ちを芯から理解できるとは言いかねたが、それでも唐突に夢や野望への道のりを閉ざされる無念は察して余りあった。

 

 探査者のほうがより儲けられるとか。社会的立場も安泰であるとか……そのように彼を慰める者もいるがそういう話ではないのだ。

 道を志すとは、そういうことではない。たとえ報われずとも救われずとも、それでもその道のりを歩む時間そのものにかけがえのない価値があるはずなのだ。少なくとも当人にとっては。


 だからこそ多くの人が見果てぬ夢を抱き、叶うか叶わないかも分からず、それでも恐れながらでもその実現に向けて歩いていく。

 ベナウィもその一人だったのだ。それを突然に"スキルに覚醒したから探査者として生きろ、夢を諦めろ"と言われ、納得などしきれるはずもないだろう。

 サウダーデは弟子のメンタルを慮り、この場にいない彼へ語りかける。


「だがな、ベナウィ。どんな形であれ道半ばで挫折することさえ、長い人生には付き物なのだ。夢を諦めたり、野望を挫かれたり──理不尽に脅かされ、家族を失ったり。それでも、俺達は生きていくのだ。生きている限りは、な」

 

 程度は違えど誰にでもある。サウダーデにも。

 最愛の母を理不尽にも殺され、故郷をも滅ぼされた。これとて挫折の一つだろう。

 絶望した。失望した。すべてを燃やす憎悪にさえ、一時は身を焦がしたかもしれない。

 

 けれど、こうしてサウダーデはここにいる。

 素晴らしい出会いに恵まれ、愛と郷愁という信念を見出し、折れつつあった心を立て直してまた歩き出したのだ。

 だからできる。誰にでもできる。どれだけ時間がかかっても、生きている限りは立って歩いていける。

 

「この旅で、俺達はまた多くのものを見聞きし、そして学ぶだろう。そうして積み重ねる経験と知見の中、少しでも彼が、彼自身の人生をより良いものにするための光を見いだせることを俺は祈ろう。師として、友人として……そして少しばかり彼より長く生きる先達として」

 

 ベナウィも初めての旅だ、不安だろうがサウダーデとてそれは同じ。初めて持つ弟子を、正しく導いてやれるだろうか。そんな想いはいつだってつきまとう。

 だがそれでも始めなければ始まらないのだ。弟子のため、そして己自身のために──サウダーデ・風間はそして、弟子を迎えに行くのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 現代でも相変わらず生真面目なサウダーデが活躍する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[良い点] うっかりヤベエとの珍道中になりそうな予感……
2024/04/27 07:15 こ◯平でーす
[一言] 頻繁にうっかりダンジョンを破壊して、調整が上手くならないのもやる気が出ない原因のひとつなのかも
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