78年目-3 ベナウィ・コーデリア
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
ベナウィ・コーデリア(19)
太平洋の中央付近、ぽっかり空いた底しれない穴とその周辺を取り巻く客船が連なって広がる太平洋ダンジョン客船都市にて。
もう年も暮れ、新年を迎えようとしている頃合いだ……一人の青年がステータスに覚醒した。
青年の名はベナウィ・コーデリア。19歳で、普段は客船都市の外から運ばれてくる資材を倉庫にて入出庫する作業に従事していた。
アメリカ生まれのアメリカ育ちだったがハイスクール卒業後、一念発起して太平洋にまでやってきて一旗揚げようとしている矢先の覚醒だったのである。
彼の二つのファースト・スキル──これもまた異常なことに、ベナウィは最初から二つ、スキルを授かっていた──その名は《メサイア・アドベント》および《極限極光魔法》。
前者は本人にも詳細不明な使用不能、封印中のスキルなのだが後者が問題だった。
そう。かの大探査者アラン・エルミードと同じ系統の、極限魔法スキルの一種をベナウィは持っていたのだ。
現代においてはS級探査者最強クラスの火力を誇ると名高い、通称"うっかりベナウィ"あるいは"オーロラ・デストロイヤー"ベナウィ・コーデリア。
ここから大ダンジョン時代に新たな世代交代が巻き起こる時期が到来するのだが、彼はその筆頭とも言える存在であった────
「ベナウィ! おいベナウィ! また伝票間違ってるぞお前さん、ちょっと見てみろ!」
「ありゃあー? ……いやいやそんなバカな、何を仰るやら!」
豪華客船が連なる客船都市の端。外部からの資材の受取を行うコンテナ船の甲板部分にて、ベナウィ・コーデリアは先輩社員の指摘に冷や汗をかきながら伝票を見た。
記載されている番号とコンテナから出した物品、食料品が入ったプラ箱が何段にも積載されたパレットに貼られたラベルの同番号を見比べる──"A-413"と"A-418"。
どうやら3と8を見間違えたらしい。
ベナウィは先輩社員を見て、次いで広い大海原を見、やがて頭を下げて謝罪した。
アフリカ系アメリカ人で、2m近い長身ながら痩せ気味の身体をしている。スキンヘッドと厳しくも見えるヘアスタイルだが顔つきは至って穏やか、かつ物腰も紳士的なことから職場内外の誰しもに好印象を与えるタイプの青年である。
「い、いやーすみませんうっかりしてまして、申しわけない!」
「いやまあA-418はちょい後で拾うから良いんだけどさあ。お前うっかりし過ぎだぞホント……気付かずこのまま流してたら大問題だ、ただでさえ資材的にはまだまだ外部頼りの太平洋でこんなミス繰り返してたらクビだぞクビ」
「ほ、本当にすみません……ついうっかり」
怒りや叱り付けとかでなく、ただただ呆れた様子の先輩の言葉にベナウィは再度頭を下げた。
どうにもこの手のミスが多く、何度チェックしてもなかなか改善がままならない状況に対して、彼自身申しわけなさを感じているのが実状だ。
太平洋客船都市はその立地、というより性質上どうしても外部からの輸入に頼らざるを得ない経済的脆弱さがある。
当たり前だが海の上では原料だの資材だのが都合よく見つかるものでなく、加工品については輸入に頼るか小型の工場設備をいくつかの船内に拵え、そこで加工や製造等を行うしかない。
だからこそ今、ベナウィ達がやっているような輸入品の受入から着荷検品、あるいは入出庫管理等の物流作業はいわば客船都市世界の基礎インフラとさえ言える重要な現場なのである。
その重要性は19歳のベナウィにも分かるからこそ、なんとか改善せねばならないと思いつつも一向に改善しないことにどうしたものかと悩んでいた。
先輩もそうした努力は知っているし、何よりベナウィの普段の人柄の明るさや温かさ、優しさを知っているから必要以上のことは言わないでいる。
誰が呼んだか"うっかりベナウィ"。
下手をすれば侮辱になりかねないからかい混じりの渾名だが、本人は笑ってそれを許す。
うっかりしがちなのは生来からの事実なのだから、本当のことを言われては怒れないと受け入れているのだ。
とはいえいずれはしっかりして、うっかりの名を返上したいという野心も持っているが……それもこの調子ではいつのことになるのやらと、ベナウィも先輩もため息を吐くのであった。
と、そんな時だ。
ベナウィの脳内に、不可思議な音声が響き渡った。
『あなたはスキルを獲得しました』
『それに伴いダンジョンへの入場および攻略が可能になりました』
『system機能の解放を承認。以後、あなたは自分のステータスを確認できます』
「…………おやぁ?」
「? どうした、ベナウィ」
「いえ……先輩、今、何か話されました?」
「え。いや、特に何も話しとらんが」
「???」
首を傾げるベナウィ。この時点で聡明な彼には"その声"がなんなのかある程度察せてはいたのだが、まさか自分にソレが訪れるとも思っていなかったため、単なる幻聴なのではないかと考えてしまったのだ。
これが外れだったら一度、メンタルクリニックにでも行かないといけないかなーと恐々としつつも、一言、つぶやく。
「ステータス……?」
名前 ベナウィ・コーデリア レベル1
称号 ノービス
スキル
名称 メサイア・アドベント
名称 極限極光魔法
称号 ノービス
効果 なし
スキル
名称 メサイア・アドベント
効果 救世技法/現在封印中
名称 極限極光魔法
効果 極めて高威力、広範囲に極光を用いた魔法を展開する
出てしまった、見てしまった。これは紛れもない探査者が見るというアレ、ステータスだろう。
ここまで来るともう、さすがに幻覚でもないのだろうなーとベナウィは天を仰いだ。はるかな太平洋の青さに負けない蒼穹が目に染みる。
あまりの挙動不審ぶりに心配した先輩が話しかけると、彼は遠い目をしつつもつぶやくのだった。
「先輩……」
「ど、どうしたベナウィ? 急に変になっちまって」
「短い間でしたがお世話になりました……私、探査者になりますので……なんか聞こえちゃいましたので……」
目を見開く先輩に、ぎこちなく笑うしかできない。
ベナウィ・コーデリアの能力者への覚醒は、このように微妙な雰囲気の中で起きたのであった。
ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー
S級探査者として大成したベナウィが登場する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://ncode.syosetu.com/n8971hh/
書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー




