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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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144/210

78年目-1 シェン一族の未来

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


シェン・フェイオウ(45)

 シェン・フェイオウが里長となったシェンの里では、先代里長ロウハンの方針を依然継承しつつの近代化、および学力強化政策が取られていた。

 若くして病に没したロウハンの遺志を引き継ぐ……元より自身には権力欲もなければ里長、星界拳正統継承者の座にもさしたる欲望のなかったフェイオウが、それでも里長としての重責を担った目的はひとえにそこにのみあった。

 

 武にのみ傾倒していた一族に、新しい風を次々もたらした偉大なる"叡智の里長"。彼への敬意と改革を中途で終わらせてはならないという使命感。そしてシェンとしての責任感と何よりロウハンとの友情。

 それらをただ一身に背負い、フェイオウはあえてロウハンの代理としての立ち位置を堅持したまま無私の改革を断行したのである。

 

 結果として現代においてはついに現れた"完成されしシェン"、すなわちシェン・フェイリンへとつながるシェンの里の体制が彼の代にて構築されることになる。始祖シェン・カーンとWSO統括理事ソフィア・チェーホワとの約束が果たされる瞬間が、近づいてきたのだ。

 そしてそれに伴い、シェン一族にも新たな世代が少しずつ少しずつ、生まれようとしていた──

 

 

 

 ある秋の夜のことだ。

 シェン一族の四代目長にして星界拳正統継承者、シェン・フェイオウは一人、月を眺めつつ酒を呷っていた。

 亡き先代里長、シェン・ロウハンへの献酒である。

 

「ロウハン……シェン一族は変わりつつあるぞ。我らの理想をそのままに、より強く、より賢くなろうとしている」

 

 かつての友にして、偉大なる里長だった男への語りかけ。ロウハンが思い描いた理想──すなわちよく学びよく考え、そしてそれを強さにも活かす合理的な里運営および星界拳の鍛錬法の構築──がいよいよ実現段階に入りつつある。

 彼の死から6年。もっと言うならロウハンが改革を開始してからもう、17年ほどが経過した果ての境地であった。

 

 しみじみと、これまでを振り返り酒を飲むフェイオウ。

 いきなり里長になるよう請われた時はどうなるかと思ったが、どうにかここまで漕ぎ着けることができた。餓狼のごとき強さを求めるだけの自分が、一族を背負い友の遺志を継ぎ、ひたすらに使命感と責任感を貫いて事業に取り組んできたのだ。

 

 もはや星界拳士としての強さの追求など二の次、三の次だった。自分の強さでない、もっと大切なもの……すなわち後の世、未来につながる土台作りこそが己の為すべきことと定めたがゆえに。

 己もまた、歴代の星界拳士と同様にその身、その魂その志の一欠片を星界拳へと捧げるために。

 フェイオウはもはや、餓狼ではなく偉大なる賢狼としてシェン一族をまとめあげ、君臨するようになっていたのだった。

 

「完成されしシェンへの到達……そしてチェーホワ様との約束を果たす日の到来。いつの日か必ず訪れるその瞬間のために、私もまた、シェンと星界拳の未来の礎となるべく励んでいるよ、ロウハン。お前やラウエン様、始祖カーンがそうなさっていたように」

 

 この立場になって改めて思う、歴代星界拳継承者そして里長達の偉大さ。どんな形であれやり切ろうとしてやり抜こうとして人生を駆け抜けた者達の、燃え上がるほどに強い信念の眼差しと背中。

 自分も、そうあれるだろうか。後世を生きるシェン達に、そんな姿を見せてやれるだろうか? 不安が過る脳裏をしかし、フェイオウは静かに瞑目して振り払う。


 やれるやれないでなく、やるのだ。すでに未来の種は芽吹きつつあるのだから。

 月を見上げ、友に語るように彼はつぶやいた。

 

「……息子が生まれたんだ。齢45にもなって初めての子宝だ。名をハオランという。シェン・ハオラン」

 

 目を細めて笑う、その表情はまさしく親としての慈愛に満ちている。

 里長になってから、20歳も年の離れた近くの村の女性を娶り、子を成した。かつての一匹狼もこうなると愛妻家でありまた、子煩悩の一人の父親になるのも無理からぬことだ。

 

 妻子を得、初めて見知ることもある。

 抱きしめた生命の尊さ、未来の美しさ。そして希望の輝き。これこそが自分の、自分達の護るべきものだと彼は、自然と溢れ出る涙とともに産まれたてのハオランを抱きしめたのだ。

 その時を思い返し、薄く微笑む。

 

「あの子に、あの子達に誇れる父でありたい。あの子達がより良く生きられる未来を手渡したい。不思議なものだな……そう思うだけで、不思議なまでに力が湧いてくる。単純な力でない、心の強さとはこういうものかもしれない」

 

 ──こんな気持を教えてくれたのも、やはりお前が私を見出してくれたおかげなのだ、ロウハン。

 内心にて感謝し、月に目を細める。


 たまにはこんな夜もある。昔日に思いを馳せ、亡き友に語り、酒を飲む夜も。そしてまた次、太陽が登る頃にはいつもの日々へと戻っていくのだ。未だ見ぬ輝き達に、素晴らしい未来を届けるために。

 

「見ていてくれ、シェンはこれからが本番だ。先人の教えを胸に、さらなる新たな力と知恵を身に着け未来を切り拓いていこう。そしてその先にある栄光を、星界拳に、必ず……!」

 

 力強い宣言。それはまさしく宣誓でもある。

 シェン・フェイオウ。現代においてもなお里長としてシェンを束ねる彼こそは、一族が待ち望んだ"完成されしシェン"を生み出すことになるのだが……

 それはまだ、誰にも見通せない未来のことであった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 姉妹で探査者というのがかなりのレアケースであることを思えば、妹2人が探査者なハオランさんが探査者になる可能性はかなり低そうですが、探査者ではないからこそ出来ることもありそうですね。
2024/04/22 06:29 こ◯平でーす
[一言] >シェンはこれからが本番だ こう言うってことは、完成されたシェンが生まれる土壌はできつつあると、確信したのかな?
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