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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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143/210

77年目-5 エミールの末裔

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ロナルド・エミール(19)

エマ・オーウェン(25)

ヴァール(???)

エリス・モリガナ(72)

レベッカ・ウェイン(90)

 第7次モンスターハザードから2年。事件解決の立役者にして英雄の一人ロナルド・エミールはこの頃、スイスはジュネーヴのWSO本部を訪れていた。

 友人にして偉大なる先輩、WSO統括理事ソフィア・チェーホワに呼ばれたのだ。自身のルーツに纏わる、重大な話がしたい、と。

 

 ノインノア・ジェネシスに誘拐され、過酷な人体実験の中で一時は廃人にまで追いやられてしまったロナルド。

 奇跡的にステータスを獲得したことで自我と理性、感情を取り戻すことに成功し、そこから大逆転の戦いが幕を開けることとなるのだが……それでもそれまでの記憶は壊滅的なまでに失われ、彼にはもはや孤児同然に親類縁者が存在していなかった。

 

 そんな中でも第七次モンスターハザードを戦い抜き、友を得、愛する者と結ばれて世界に旅立ったロナルドはひたすらに未来だけを見ているのであるが、そこに思わぬ一報がソフィアから入ったのだ。

 聞けば同じく戦友のエリス・モリガナも関係しているという。今さら過去にこだわりがあるわけでもないが、久しぶりに彼女らと語らう機会を作るのもいいかと彼は二つ返事でそれに応じたのであった。

 

 恋人であるエマ・オーウェンと二人で世界中を巡っては探査業をしながら己の見聞を広め続けるロナルド。

 そんな彼に、彼自身も知らない過去が近づいてきていた──

 

 

 

 WSO本部、統括理事室。

 初めて通されたVIP中のVIPの居城に、ロナルドは大きな緊張と不安を感じつつもソファに座り、紅茶を一口飲んで喉を潤していた。

 

 隣には恋人のエマ・オーウェンがいて、強張るロナルドをしきりに案じている。彼女自身も緊張はしているようだがそれでも自然体をキープできているのは、やはり社会人としての経験ゆえだろう。

 探査者でない、世間の荒波というものも大概過酷だなあと場違いな尊敬と感心を抱きつつも、前を見る。テーブルを隔てて向こうのソファ、三人の女性が並んで座っていた。

 

「よく来てくれたなエミール、オーウェン。そう固くならなくとも良い、と言っても難しいか。せめて自宅に招くべきだったか……?」

「いやーそれはそれで緊張でしょヴァールさん、ハッハッハー。泣く子も黙る統括理事さんなんですから、肩書に威厳はどうしたって付きまとうもんですよ」

「そういうものか……まあ、良い。話していけばそのうち慣れてくるだろうしな」

「ですです。茶でもしばきながらリラックスしていけばいいんですよハッハッハー」

 

 言わずと知れたWSO統括理事ソフィア・チェーホワ……の、影の人格ヴァール。今日は主に彼女が表層意識に出ているらしい。

 そしてその隣に座る、S級探査者エリス・モリガナ。なんでも不老体質で実年齢は72歳とのことだが、見た目は完全にロナルドと同年代かそれより若い美少女だ。

 

 いずれも2年前、第七次モンスターハザードにおいてロナルドとともに戦い、彼を導き支えてくれた仲間達の一人だ。

 特にヴァール、ソフィアの両名にはロナルドの戸籍関係や探査者登録の手続き等、社会的立場の確立と保護の面で非常に多大な世話になったまさしく恩人である。

 そんな彼女らにロナルドとぎこちなくも笑顔で会釈し、そしてさらに三人目を見た。


 大柄な老婆だ。筋骨隆々とまではいかないがかなりガッシリした体格で、相当な高齢のように思えるのだが放つ気迫や生命力は見かけよりはるかに若々しく見える。

 なぜかロナルドをじっと見つめて、どこか遠い目をしつつも瞳を潤ませている。

 そのことにどこか不気味なものを覚えつつも、彼は誰何を問うた。

 

「ええと、それでヴァールさん、エリスさん。こちらの方は……?」

「ああ、彼女はWSOの特別理事レベッカ・ウェイン。90歳にもなるが、これで70年ほど前の第一次モンスターハザードや50年前の第二次モンスターハザードではワタシやエリスと共闘していたこともある古い仲間だ」

「エリスさんがまだまだピチピチギャルだった頃には北欧最強だった人だよ、ハッハッハー。今じゃ大分落ち着いてるけど、身長も体重も今の1.5倍くらいあってそりゃもうすごかったよいろいろ」

「そ、そんなすごい方なんですか!?」

「だ、第一次に第二次……歴史の世界ですね、もう……」

 

 この場にいる時点で何かしらの縁者だろうことはわかっていたが、まさかソフィアとエリス共通の古馴染み、戦友だとは。


 第一次、第二次モンスターハザード。

 世界全土やヨーロッパを舞台にしたその戦いはこの時代にはすでに伝説の戦いとして広く知られており、英雄チェーホワの名声とともに多く創作の題材にされたりしているほどに人気を博していた。

 そんな戦いに、このレベッカなる女性は参加していたというのだ。歴史の生き証人ともいうべき特別理事を目の当たりにし、ロナルドもエマも圧倒されるばかり。

 

 だが……そんなレベッカ当人はと言うと、ずっとロナルドを凝視し続けて。

 そして、やがてはおもむろに滂沱の涙を流し、彼に縋るように抱きついたのだ。

 

「えっ!? ちょ、えっ!?」

「エミール、ロナルド・エミール……! ああ、なんてことだ! 間違いない、シモーネの面影がある! オオオオ、こんな奇跡がこの世にッ!! 神よ、神よォォォォオオオオッ!!」

「えぇ……!? ちょっ、ヴァールさんエリスさん、こ、これは一体!?」

「うわー……思った通りと言うべきか、90歳になっても変わんないなあというべきかぁ……」

「エリスさん!?」

 

 突如として大泣きし始めた老婆に、しかも寄りかかられて理由もわからず困惑するロナルド。というよりもやたら豪快に泣き出す姿があまりにも予想外で、そうしたところへの戸惑いもある。

 エマも目を白黒させて、ヴァールとエリスを見る。二人は苦笑いしながらもどこかなぜか、ひどく懐かしむような、それでいて哀しむような笑みを浮かべている。

 しばらくレベッカが啜り泣くのを見守る、沈黙に彩られた室内。そうしてエリスが、静かに語り始めた。

 

「レベッカさんのかつてのお弟子さん……私もお世話になったんだけどシモーネさんという方がね。随分前に亡くなったんだけど、ファミリーネームをエミールというんだ」

「俺のと、同じ……? え、まさか」

「君はノインノア・ジェネシスとの一件で過去の記憶がないから、こちらで調査していたんだけどさ。これがドンピシャ、君のお婆さんにあたることが判明したんだよ」

 

 明かされた情報に大きく目を見開くロナルド。隣でエマも、口に手を当て言葉にならない驚きに身を震わせている。


 つまりはこういうことだった……

 かつてレベッカの弟子にしてヴァールやエリスの戦友として第二次モンスターハザードを戦った女探査者、シモーネ・エミール。彼女はその後、とある理由からレベッカと喧嘩別れする形で独立、渡米して暮らしていた。

 その後家庭を作り探査者として活動するも、20年ほど前に探査中にモンスターに殺されたのである。

 

 だが、当然ながらエミール家は続いていた。夫と一人息子が残され、それでも生活していたのだ。

 息子は成人して妻を得、子供を儲けた。これがロナルドというわけだった。

 そして、さらなる苦難がエミール家を襲う。

 

「ノインノア・ジェネシスによる改造兵器人間製造計画……その被検体として目をつけられたのが、当時のエミール家がいた村だった。モンスターを用いての殺戮が行われ、そして」

「……俺が捕らえられた。たぶん、もう、死んでるんですよね? そのエミールの人達は」

「…………………そう、だね」

「オオオオッ!! すまねえッ、本当にすまねえ助けられなくてッ!! シモーネの忘れ形見が、なんて惨い目に遭っちまったんだァァァァッ!!」

 

 唇を噛み、悔しげに語るエリス。ヴァールも隣で瞑目して悼み、ロナルドを抱きしめるレベッカなどは大泣きして雄叫びをもあげている始末だ。

 それに対して、どちらかと言えば悲しみより困惑を、そして単なる事実確認程度の感情しか持たないでいるロナルド。当然だろう、彼には記憶がないのだから。

 

 だがそれでも、己のルーツともはや天涯孤独であることが改めて確定したことは、言いようもない寂寞を去来させる。

 一つ、息を吐く。天を仰いで、そして彼はつぶやいた。

 

「…………ありがとうございます、ヴァールさん、エリスさん。俺の身元確認に力を入れてくださって」

「エミール……いや、当然のことだ」

「それに、ウェインさん。あなたは……シモーネさん、祖母? のことを、そんなに……」

 

 失われた過去を見つけてくれた、そのことへの礼を告げてレベッカへと向き直る。体格はいいがやはり老婆だ、抱きつく背中はひどく弱々しく見える。

 慰めるように背中を撫でながら語りかけると、涙に濡れた顔のまま、彼女はそして言うのだった。

 

「喧嘩別れしたけど、今でもあいつの発言は許せやしないけど! それでもあいつは私の大事な弟子だった! 娘みたいに思ってたんだ!! それが、こんなことになっちまって……!! だからロナルドくん、あんたのことを聞いて、何がなんでも会わなきゃ死にきれねえって思って! ああ、良かった、本当に良かったよぅ……っ!!」

「……ありがとうございます。そんなふうに言ってもらえる俺は、あなたに会えてとても嬉しいです」

「オオオオッ!! 私もだよぉッ!!」

 

 号泣するレベッカ。つられてロナルドまで泣きそうになるのを、エマが優しく背中を撫でてあやしてくれる。

 ヴァールもエリスもそんな三人を優しく見守るばかりだ……時を経て、紆余曲折を経てもまた、結ばれる縁もある。そんな運命の悪戯と因果の摩訶不思議さに、思いを馳せながら。

 そうしてロナルドは、過去を取り戻したのであった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 本作キャラの子孫が多く出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] >たぶん、もう、死んでるんですよね? そのエミールの人達は 「両親」と言わずに「エミールの人達」と言うところがね…… 記憶というよりかは、記録として受け取っている感じがしますね
[良い点] おおお……遂にエミール家の過去話が…… 悲惨な話になることは覚悟してましたが、歴史の闇に葬られず、事の詳細が判明したのは不幸中の幸いかもしれません。 [気になる点] レベッカさんの体格が良…
2024/04/21 00:32 こ◯平でーす
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