77年目-2 6年ぶりの再会
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
サウダーデ・風間(36)
ソフィア・チェーホワ(???)
マリアベール・フランソワ(59)
アラン・エルミード(38)
かくして太平洋ダンジョン攻略の最前線に挑み続けるサウダーデは、S級探査者として世界に認められるまでに至った。
元より実力面では文句なしの世界トップクラスだったものを、前人未踏の太平洋を踏破せんとする挑戦性、また実際に少しずつだが広大かつ特殊なそのダンジョンの探査を進めていることが大きな功績として取り沙汰されたのである。
これを受けてサウダーデはスイスはジュネーヴ、WSOの本部へと向かい認定証の授与を受けることとなる。
旧知との再会だ……師匠マリアベール・フランソワや親友アラン・エルミード、その妻エミリア・エルミード。そしてWSO統括理事ソフィア・チェーホワを筆頭に彼の友人知人もまた、ついにサウダーデがS級探査者となったことを知り喜んでスイスに集う。
彼が太平洋へ赴いてから実に6年ぶりの再会であった。
久しぶりに会う師匠や友人は年相応に老け込んできており、サウダーデは月日の時の流れというものを改めて、強く実感するしかなかった。
WSO本部でのS級探査者認定証授与を済ませ、軽くマスコミ対応をこなしてから……すぐに近場のチェーホワ邸に集合しての、宴会の席である。
「ファハハ! やっとクリストフも観念したねえ! ったく生真面目過ぎんだよあんた、実力はとっくにそこらのボンクラS級よりよっぽど高いってのに、いつまで経っても断り続けてさあ!」
「まったくだよクリストフ! S級で一番強いのは誰か、なんて話題がある度僕が持て囃されるけどね、本当は君こそがそのポジションにいるべきなんだってずっと思ってたんだよ、こっちは!」
「む……いえ、しかし。俺にはS級たるにふさわしい功績などありませんでしたので」
相変わらずすさまじい勢いでビール瓶を傾けながら、ワイルドにステーキに齧り付きながらマリアベールが笑った。満面の笑みで、心底から楽しそうに嬉しそうにしている。
久しぶりに弟子に会えたのももちろんながら、何よりも彼がついに自分と同じ領域にいるべき探査者であると社会に認められたのが何より嬉しかった……もう20年も昔に出会ったあの日の少年が、よくぞここまで立派になってくれたものだという親心めいた感動さえ含めている。
この頃になるとマリアベールは還暦、アランは四十路と揃っていい歳になっている。彼とエミリアの間に生まれた子供がすでに8歳なのだ、それだけの時間が経っているというのは、当たり前のことだがそれなりにショックな出来事である。
とはいえそれでも元気でいることには変わりない。マリアベールもアランも、まだまだ探査者活動を続けているそうでその強さは健在なのがサウダーデから見ても伺い知れた。
アランの妻エミリアも、子供とともに料理を堪能していて幸せそうにしている。
久方ぶりの友人達がみな平穏無事に暮らしてくれていることに安堵と歓喜を抱くサウダーデだったが、次いで話しかけてきた人物を前にまた、恐縮して緊張することになった。
すなわちWSO統括理事ソフィア・チェーホワその人である。
穏やかな微笑みを浮かべつつ、しかしどこか困ったように眉を下げている。
「功績のことを気にしているようだけれど、サウダーデくん? あなたはそもそも世界各地を放浪していた際にいくつものA級ダンジョンを単独踏破し、しかも10年前にはドラゴン退治にも参加していたじゃない。その時点でS級として認定するには不足なしというのがWSO理事会の総意だったのよ?」
「そ、ソフィア統括理事……いえ、その。ダンジョン踏破は誰しもが当然行うことですし、ドラゴン退治に至っては俺はただの足手まといでした。なんの役にも立てず、挙げ句に先生に護られてしまったような顛末です。功績だなどと、そんなことは……」
サウダーデとしてもさすがに、大ダンジョン時代そのものを担うとさえ言われる"永遠の探査者少女"たるソフィア相手には持論を強く主張するのも難しい。
しかして言葉の通り、本当に大したことなどしていないのだからそれを功績だと言われるのも正直なところ、あまり良くないことなどではないかと生真面目な心が本音を口走らせていた。
たしかに武者修行の旅の途中、彼は単独で様々なダンジョンを踏破していた。そしてその中にA級に区分されるものがあったのは間違いない。
加えて10年前、ギアナ高地を牛耳っていたS級モンスター・ドラゴンの討伐パーティに参加したのも事実だ。
事実なのだが……だからどうした? という想いも強く。
とてもでないが自信をつけるに値しない、功績と呼ぶにはあまりに不甲斐ないものだとサウダーデは考えているのであった。
しかしてそんな想いを、結んだ絆達が否定してくれる。
「いやいや、A級ダンジョン単独踏破を立て続けに行うのはS級でも割とキツいよクリストフ……」
「ドラゴン退治の時だってあんた、立派にフォローしてくれたじゃないか。私の背中のこと気にし過ぎさね、こんなもん自分で言うのもなんだが完全に自業自得なんだよ」
「アラン、それに先生まで……」
「ふふ……この反応がすべてを物語っているわね。サウダーデくん、あなたはやはり、S級になるべき探査者なのよ」
ソフィアまで混ざっての三人、サウダーデがS級探査者となる日を待ち侘びていた彼ら彼女らからの言葉である。
生真面目で、融通が効かず……けれどその実力は今現在のマリアベールにさえ比肩するような本物の実力派探査者、サウダーデ・風間。
謹厳実直を地で行く彼を困惑させながらも、S級探査者となったその日の夜はなおも、続いていくのであった。
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