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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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17年目 幸せな村、少女エリスの幸福

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


エリス・モリガナ(12)

 ダンジョン聖教、という宗教がある。その名のごとく、ダンジョンをある種の天の恵みと捉える教えだ。

 同時にそこに巣食うモンスターを神からの授かりものを穢さんとする悪魔の遣いであり、それらを駆逐するために探査者にはスキルが与えられたのだ──と、おおまかな教義をまとめるとそのようになるだろう。

 

 その宗教団体は大ダンジョン時代開始後28年目、第二次モンスターハザードが勃発した数年後に当時21歳だった二代目聖女ラウラ・ホルンによって作られた。

 《聖女》という極めて特殊な、他者に継承することのできる称号を初代から受け取ってからのことであり、そこから彼女の手腕によってダンジョン聖教はすさまじい勢いで勢力を広げていくのである。

 

 だが不思議なことにこの宗教団体、象徴的存在として崇められる聖女なる存在は二代目ラウラから現代の七代目シャルロット・モリガナに至るまでが存知されるばかりで、始祖とも言えるはずの初代の存在がまるで記録に残っていないのだ。

 

 事実上、存在を消されし幻の聖女。

 大ダンジョン時代における七不思議の一つとして、今も語り継がれる存在だった────

 

 

 

 フィンランドのとある地方。森と川、草原に囲まれた豊かな自然に生きる小さな村にて。

 親の手伝いで農作業をしていたエリス・モリガナは昼時を迎え、くうくう鳴るお腹を擦りながら家に帰ってきた。先んじて帰ってきていた親兄弟達が、彼女を暖かく迎え入れる。

 

「エリス! 遅かったじゃないか、頑張り過ぎだぞ?」

「温かいスープとパン、それにベーコンエッグができてるよ。お食べ、お食べ」

「ええ。ありがとう父さん、母さん」


 優しい両親に促され、エリスは微笑みうなずいた。

 村娘らしい、素朴なシャツとスカート姿だがその美しさは村内ばかりか近隣地域一帯でも有名な少女だ。

 水色の髪を腰元まで伸ばし、三角巾で頭を覆っている。顔立ちは目元が柔らかく常に微笑みを絶やさない淑やかさは、まるで農家の娘どころか深窓の令嬢じみているとさえ囁かれるほどであった。


 それでいて性格も、誰に対しても分け隔てなく優しく、どんな時でも明るさを忘れない溌剌さも兼ね備えている。

 家族にとっても自慢の長女であり、モリガナ家はいつも明るく幸せな毎日を過ごせていた。


「エリス姉ちゃん、早く食べよー? はい、スプーン!」

「お腹ペコペコだよ〜! 姉ちゃんの分、スープよそったげるー!」

「まあ、ありがとう! 助かるわアイナ、アーロ」

 

 何歳か離れた弟妹が催促する。次女のアイナに長男のアーロだ。

 可愛い盛りの幼子達もまた、当然ながらエリスに懐いていた。美しく、頼りになり、何より優しい世界一の姉であるとこの子達は心底から自慢に思っているのだ。

 それゆえにスープをよそったり食器を用意したりと健気な気遣いを見せる……そんな姿にエリスも心からの笑みを浮かべて、食卓につくのだった。


(幸せ……本当に素敵で、幸せな人生だわ)


 囲む食卓は貧しいながらも幸福に包まれている。エリスは、家族みんなで過ごすこのひとときが何よりも好きだった。

 経済状況はあまり良くないが、かと言って食うに困るほどでもない。ご近所付き合いも、村や近隣の男子達が時折彼女を巡って騒がしいものの総じて戯れ合いの範囲だ、可愛らしいとさえ言えよう。


 この年、エリスは12歳。ゆえにまだまだ将来像も見いだせていないのだが、それでもこれから先もこうして、みんなと笑い合って幸せな日々を過ごせるものだと疑っていない。

 親の手伝いをしつつ育ち、やがて大人となって社会を知り……たとえそれが狭い村の中だけのものだとしても、精一杯生きて。


 そしてそのうちに誰かと恋に落ち、愛し合い、家族になって家庭を作り。時間の流れに身を委ねるように正しく老いて、正しく死んでいく。

 まさしく自然の摂理の中で生きていくものなのだと、そんなことを幼心にも漠然と信じているのだ。


「姉ちゃん、姉ちゃん! 美味しいね!」

「ええ、本当に。いつもありがとう、お母さん。お父さんも」

「なあに、こっちのセリフだエリス。いつも農作業の手伝い、助かってるよ」

「午後からは予定もないし、自由に過ごすと良いわ。ああでも村の外、近くにダンジョンができたみたいだからあんまり出歩かないようにね」

「うん、そうする」

 

 母の忠告にも素直にうなずく。この時期にはすでに、能力者大戦を経てWSOが台頭していたこともありダンジョンと探査者というのはすっかり世界中に馴染んだ存在となっていた。

 それゆえエリスにとっても、生まれた時にはすでに身近なものだったそれらに対しての感覚は常識的なものなのだが……両親は大ダンジョン時代以前の生まれ育ちなものだから、今でも時折奇妙そうな顔をするのが彼女にとってはどこか、面白いものだったりもした。

 

(でも、ダンジョンかあ。中ってどうなってるのかしら? 探査者になんてなりたいとは思わないけど……ちょっとだけ、気にはなるかも)

 

 内心、そんなことを考えるエリス。

 能力者にしか入れないダンジョンの中身は、スキルを持たない者にとっては常に興味と好奇心の対象だ。この美しく楚々とした少女であっても変わりはない。

 とはいえ、探査者になってまで確認したいと思わないところは、エリスの穏やかで平和的な気質が出ていると言うべきなのだろうが。


 


 ──エリス・モリガナ。

 彼女こそが後の世、ダンジョン聖教の象徴的存在として崇められる"聖女"の初代その人である。


 この時より3年の後にスキルを得て、探査者としての道を歩み始めた結果……犯罪組織との戦いに巻き込まれた末、幼き頃に思い描いていた当たり前の幸せのすべてを手放して、孤独な放浪を選択せざるを得なくなった永遠の少女。

 ダンジョン聖教の真の始まりとも呼べる少女の、若かりし頃の姿であった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 いろいろあって96歳になったエリスも出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これ当時の様子写真とかで見られたりしたら本人どうなるんだろ?(まあ悶絶ものなのは分かるけど……………そもそも残ってる?) [一言] 歴代聖女達「(幼い頃の初代様……………)」鼻息荒かっ…
[一言] 《聖女》のスキルを得なければ、普通の幸せな生活を送れたんだな……
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