76年目-2 AMW計画
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マーグ・ブドレド(35)
第七次モンスターハザードにおいて英雄の一人、ロナルド・エミールが愛用した二丁拳銃、マキシムとミレニアム。
スキルブーストジェネレータを搭載したことで能力者の持つ特定のスキルの出力を増幅させる、対モンスター用機械兵装、通称AMWの試作型である。
その製造元である軍事産業大手のウラノスコーポレーションが、エマ・オーウェンに命じてロナルドに試作機を持たせて運用テストを行った──と、いうのが実のところなのであるが。
そのテストも終わり、十分なデータが取れたことで彼らは次なる一手に打って出た。
すなわち試作機としてでなく、正式な第一世代としてのAMWの製造計画である。
スキルブーストジェネレータを一基作るのに天文学的なコストがかかることから量産化は難しいところではあったが、それでもモンスターの素材加工技術に長けた日本の桐柳探査工業との共同でこうした機械兵装の製作に着手し始めた。
メーカーとしての技術力を高めつつそれをアピールすることにもつながるため、やってみる価値はあると考えたのだ。
ここから約四半世紀をかけ、ウラノスコーポレーションはAMWを何世代にもかけて開発、製造していくこととなる。
現代に至っては特に有名なのが早瀬光太郎の孫、早瀬葵の操る槍型AMW"フーロイータ"だろう。他にもライフル型の"ラーカーン"や剣型の"ノイエヴァルキリー"などもそれぞれ注目を浴びる探査者の手に渡っており、各地で大きな功績を挙げている。
人類の科学と不可思議な超能力、スキルをかけ合わせたまさしく叡智の結晶、AMW。
その発展は今後も続いていくものと予想されるのであった──
アメリカ、ニューヨークのど真ん中に大きなビルを構える大企業、ウラノスコーポレーション本社、最上層にて。
経営陣ならびに兵器開発部門の主任クラスが会議室に集まり、ミーティングを開催していた。
議題はもちろん対モンスター用機械兵装、AMWについてだ……昨年終結した第七次モンスターハザードにおいて様々な形での試験的運用が行われた結果を受け、彼らは一つの重大な決定を下していた。
ウラノスコーポレーションの若き社長──マーグ・ブドレドが口を開く。
「さて……始めようか。まずは開発部門、現状報告を」
「はい。今現在、出力が安定しているスキルブーストジェネレータは3基確保できております。これをもって第一世代、プロジェクト・トリニティは進行できるかと思われます」
「おお! なんと素晴らしい!」
「"戦天使"、"分断機"そして"破壊者"……いずれか一つでも御の字だったものを、すべてに着手できるか!」
答える開発部門責任者、白衣の初老男性の言葉に経営陣は揃って声を上げた。無論、歓喜の喝采だ。
能力者のスキルを増幅させる、ウラノス独自の機構スキルブーストジェネレータ。極めて異質なテクノロジーであるそれを組み込み作り上げた対モンスター用機械兵装、通称AMW。
昨年には試作機たる二丁拳銃"マキシム"と"ミレニアム"が、探査者ロナルド・エミールの手に渡りテストデータ収集のための運用が試みられた。
第七次モンスターハザード。ウラノスにとっても想定外の事態だったがこの会社はソレを、AMW開発における実験場として利用し切った形になる。
ブドレドがほくそ笑む。
「エミールくんの成果は素晴らしいものだったな。お陰でたっぷりと今後の役に立つデータが取れた。うちの優秀なエージェントを引き抜かれたのは痛かったが……いやはや、まさかオーウェン嬢が職を辞することさえ厭わぬほどにのめり込むとは。恋とはそんなものなのか?」
「モーツァルトですかな? ま、有望とはいえ本人たっての強い希望では仕方ありますまい。エミールくんにも世話になりましたからね」
「彼がいなければAMWの試験運用も難しかったですからな。まったくちょうどいいタイミングに《氷魔導》の使い手、かつノインノア・ジェネシスに恨みを持つ復讐者がいてくれたものです」
ロナルドの活躍を讃えつつ、戦後、ウラノスのエージェントであったエマ・オーウェンが彼についていく形で離職したことを惜しむ。
エマはエマで優秀な社員だった。それが失われるのは正直に言って手痛いが、本人の強い意思がある以上職を辞めさせないというのも難しい。
ウラノスコーポレーションは社員満足度を重視する姿勢なのだから仕方ない……そう思いつつもやはり嘆息する若社長だったが。次いで年配の役員が笑顔で口走った台詞に鋭く睨みを効かせた。
ロナルドの境遇についての、紛うことなき失言だ。たしかにウラノス社としては得難い人材がこれ以上ないタイミングでいてくれたわけだが、その経緯自体はたとえ会社最優先の企業戦士であったとて同情と義憤を禁じ得ない、ひたすらに酷く悲惨なものだった。
年若くして家族を殺され、自らも実験体となりモンスターの因子を埋め込まれた。そんな少年に対しての今の役員の発言は、適切なものでは断じてない。
それゆえに若き社長は彼を視線で嗜めたのだった。素直にうなずき、謝罪する役員。
「……と、このような言い方はあまり良くありませんな、失礼」
「うむ、気をつけてくれたまえよ? 企業イメージは常日頃の社員全員の清廉潔白な振る舞いから生まれるのだからね……ま、それはともかく。これで例の計画は本格的に始動できるということだな、諸君」
鷹揚に、寛大にうなずいてブドレドは笑う。役員達も、開発部門責任者もだ。
すべてが整った。データは十分にあり、ノウハウも最低限培った。何より中核たるスキルブーストジェネレータさえも確保できた。
これなら始められる。試作機ではない本番のAMWの製造を。立ち上がり、社長は高らかに告げた。
「ここに、AMW第一世代機の開発を命じる。目的は対モンスター、否……対能力者用機械兵装の開発といずれは量産化。我々はこの計画をもって、大ダンジョン時代にいつか風穴を開けるのだ!」
それは、対モンスターを隠れ蓑にした一大事業。
いつか必ず訪れるだろう、能力者同士の争いを見越しての"能力者殺し"のための兵器を開発するプロジェクト。
大ダンジョン時代100年が経過する現代においてもなお、未だ世間はおろかAMW使用者にさえ一切公表されていない真実。
対能力者用兵器製造プロジェクト──それこそがAMWの本質であった。
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