75年目-4 いつの日にか"後継者"が現れる時まで
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
ソフィア・チェーホワ(???)
第七次モンスターハザード終結。これによって以後、現代に至るまでの四半世紀ほど大ダンジョン時代にはさしたる騒動も起こることのない、平穏な時期が訪れることとなる。
とはいえその間、まったく何も無いというわけでもない。むしろこの期間に登場する探査者達こそはいわゆるニュージェネレーション……まったく新しい領域に足を踏み入れる新進気鋭の若き天才達が目白押しなのだ。
S級探査者一の火力を誇る"うっかり者"、ベナウィ・コーデリア。
秘境の中にあるダンジョンの踏破を専門に行うS級探査者、ビアンカ・ヌー・ハーデルト。
第七次モンスターハザード解決の立役者"アイオーン"、ロナルド・エミール。
御堂将太の曾孫、"虹の架け橋"御堂香苗。
マリアベール・フランソワの孫、"剣鬼"アンジェリーナ・フランソワ。
シェン・フェイオウの娘、"斬鉄脚"シェン・ランレイ。
ランレイの妹にしてついに現れた"完成されしシェン"、シェン・フェイリン。
そして──大ダンジョン時代が待ち望んだたった一人の救世主。
あまねく世を救い、この世に光を示す者。
"シャイニング山形"こと山形公平の発生へとつながっていくのである。
マリアベールのファースト・スキルの謎が解ける時。
シェン一族の理想が結実する代。
御堂将太の直感がついにその意味を発揮する日。
ソフィアとヴァールが果たすべき大いなる使命、約束。
それらすべてが彼の救世主に収束していく物語の始まりまで、ついに残すところ四半世紀ほどとなっていた────
スイスはジュネーヴ、WSO本部は統括理事室。
世界を牽引する大国際組織の長、ソフィア・チェーホワは一人、窓から夕焼けの空を眺めて黄昏れていた。
第七次モンスターハザード終結を受けて、少しばかりの休息を欲していたのだ。
「今回も、それなりに丸く収まったわね……」
はふう、と溜め息を吐く。今回のモンスターハザードにて約半年ほどアメリカでヴァールともども前線を指揮していたが、終わってみれば大団円に近い形だったことに安堵する。
正直なところ、スタンピード誘発液の存在が明らかになった時点でソフィアは多少、詰みの気配を感じていたのだ……すなわち誰にでも簡単にスタンピードが引き起こせてしまえるような、地上がモンスターの楽園となってしまうような最悪の事態さえも脳裏に過ぎっていたのである。
それでもどうにか被害を最小限にすべく、総力を結集して誰もが持てる力のすべてを発揮した結果、奇跡とも呼べる結末へと至れた。
スタンピード誘発液の製造元を叩き潰し、その方法を完全に破却して闇に封じ込め、さらには材料と思しいモンスターの素材のいくつかについては国際的なルールとしてWSOの完全管理下に置き、処分する取り決めを作ることができた。
いずれも平時とは比べ物にならないスピーディーさだ。それだけ誘発液の存在は大ダンジョン時代にあって決して赦されないものであり、それを作り出してしまったノインノア・ジェネシスの存在もまた、絶対に認められないと主要な英傑達すべてが判断した結果であった。
瀬戸際のところで社会崩壊を回避できたことに、改めて安堵の吐息を漏らすソフィア。けれど同時に忸怩たる想いもあり、複雑な胸中を吐露する。
「どうあれ、最悪の事態は免れた。ロナルドくんも、そして彼に連なる被験者の方々も助けられるだけは助け出した。けれど……被害者もやはり、出たわね……」
ノインノア・ジェネシス壊滅のキーマンともなった少年、ロナルド・エミール。
改造兵器人間製造実験の被験者として、モンスターの因子を埋め込まれたいわば改造能力者たる彼の尽力もあり、彼同様に実験体となっていた多くの人々を助けることができた。
ただ、助けられなかった者も当然、それなりにいて。
大ダンジョン時代の闇が生み出してしまった犠牲を思うと、その牽引者たるソフィアとしてはなかなか喜色満面とはいかないのが実情だった。
「……いつまで続くのかしらね、大ダンジョン時代。いつ、"後継者"は現れるのかしら」
嘆息とともに吐き出す、少しばかりの愚痴、あるいは弱音。
彼女は大ダンジョン時代がはじまる前からずっと、ずっと待っていた。ヴァールと二人で、本当に昔からその存在を。
"大いなる存在"との約束。"後継者"が現れた時、かの者を全力で補佐できるように世界の基盤を整えるという大事業。
すなわち大ダンジョン時代の到来に際してWSOを組織し、探査者社会を作り出して秩序正しく運営すること。
モンスターハザードに代表される数多のトラブルを率先して解決し、後進の育成やより都合の良い社会の構築に邁進したのだ。
畢竟──ありとあらゆる物事すべて、いずれ現れる"後継者"に捧げるため。そのためだけに今この社会はある。
かつてソフィアとヴァールが護れなかったものを、今度こそ護るために。打ち倒せなかったモノを今度こそ打ち倒すために。
それを自分達に代わって成し遂げてくれる者のために、ソフィアとヴァールは長い長い時間をかけて、こうして世界を探査者社会に染め上げることに成功したのであった。
「こればかりは、運によるものだけれど。待ち続けて維持し続けるのも、結構辛いわね、ヴァール……」
それでも、ソフィアの戦いはまだまだ続く。
いつか"後継者"が現れるまで、永遠に近い日々をこの、WSO統括理事という席で待ち続けるのだ。大ダンジョン時代社会を、理想的な形に整え保ち続けながら。
あまりにも果てない道のりに、どうしてもため息の止まらないソフィアであった。
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──救世主の物語。
「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
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