75年目-3 闇さえ越えて、光を求める者
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
ロナルド・エミール(17)
エマ・オーウェン(23)
自身に宿る、否、宿らされたモンスターの因子の覚醒。
それさえ乗り越え受け入れて探査者の少年ロナルド・エミールは第七次モンスターハザードを戦い抜いた。
宿縁ある組織ノインノア・ジェネシスの首領たる女を倒し、捕まえることに成功したのだ。
同時に組織を裏から操っていたアメリカの探査素材加工企業オクティリオン・センチュリーの大物フィクサー、ドン・ペリジオットも執念の捜査の末に逮捕されることとなる。
ペリジオットが癒着していた関連企業も次々摘発されることとなり……ここに改造兵器人間を量産して軍事利用せんとした彼らの邪悪極まる企みは阻止されたのであった。
それに伴い、今回の戦いにおいて中心的な働きをした七人の探査者達の戦いも一段落をつけることとなる。
歴代モンスターハザードの解決者に、ロナルドを含めたパーティの活躍は以後25年もの間続く平和な大ダンジョン時代社会においてもなお、伝説的なものとして語られるようになっていったのだ。
そうした戦いが終わり、各々がそれぞれの故郷へと帰ろうとする中。ロナルドもまた、探査者として新たなる人生を迎えようとしていた。
改造兵器人間の一人として、能力者とは異なる形で超常的な力を得た彼の、物語はこれからも続いていくのだ──
かけがえのない仲間達を空港で見送ってから、ロナルドはエマ・オーウェンとともにニューヨークのスラムへと向かった。
帰る場所としてではない。むしろ逆で、訣別の場所として最後に寄りたかったのだ……モグリの能力者ロナルド・エミールとしてでなく、探査者ロナルド・エミールとして。
第七次モンスターハザードが終結し、各地にそれなりの被害も出ていたがニューヨークはすっかり落ち着いている。
かつては通い慣れたファストフード店に足を運べば、二年前と変わらず定番の席へと着く。"あの時"と同様、向かいにはエマが座る形だ。
面白がってロナルドは微笑んだ。愛しげに見つめてくる歳上の彼女へと、優しく話しかける。
「二年前、初めて会った時と違ってSPはいないな。今だから言うけどあの時、実は結構ビビってたりしたんだぜ、俺」
「そうなんだ? こういう町のこういう店で、初めて会うモグリの能力者だったから……護衛は多いに越したことはなかったってだけなんだけどね。むしろ私のほうが怖かったもの、あなた殺気立ってたんだし」
「いきなり屈強な男達を連れた美女に、銃を差し出されちゃなあ」
肩をすくめて笑い合う。二年前とはまるで異なる二人の関係性。
ノインノア・ジェネシスとの戦いは彼と彼女を大いに近づけ、そして結びつけた。単なるモグリの能力者とそれに力を提供した大手企業の謎の美女としてでなく、新進気鋭の若手探査者とそれを陰ながら支え導く歳上のフィアンセへと。
きっかけがどちらからだったのか、それを問うのももはや野暮だろう。しかして結果的にロナルドはエマを愛し、エマはロナルドに心底から惚れ込んだ。
パーティメンバー達も微笑ましく見るほどに初々しいティーンエイジャーと社会人のカップルは、慎ましいほどに健全でありつつもしかし見るからに熱烈な視線を交わし合う、熱量の篭ったものだった。
ロナルドが己の愛銃、マキシムとミレニアムを机に置いた。
穏やかな顔で、エマへと告げる。
「これは返すよ……契約も終わりだ。ノインノア・ジェネシスは壊滅したし、エマのほうっていうかウラノスコーポのほうも、良いデータが取れたろ?」
「ええ、バッチリよ。試作機たるこの二機を、ロナルドが使うことで得られた戦闘データは以後のAMW開発に大きな貢献をしてくれるわ。ありがとう」
「どういたしまして。エマももちろん含めて、いろんな人達に助けられてきた俺だ。ちょっとくらいは人様の役に立ちたかったんだ」
二年来、使ってきた二丁拳銃だがこれは元々彼の私物ではない。
エマの所属していた企業、ウラノスコーポレーションが独自に開発した兵器の試作機の、戦闘データを収集しようとしてロナルドと契約を持ちかけた結果に過ぎないのだ。
その期間はノインノア・ジェネシスの壊滅まで。つまりは第七次モンスターハザードの終わりとともに、彼はAMWの暫定所持者ではなくなったのだ。
惜しむ気持ちはあるが悔いはない。精一杯やり抜いたのだし、《氷魔法》や改造兵器人間としての能力もあるのだ、探査者活動にも支障はない。
ただ、少しの寂しさがあるばかりだ……少なくとも気持ちの上では繋がっていると信じられるエマとも、今後は多少会う機会が少なくなるのかも知れない。
少しばかりのメランコリー。その心中を察したエマが、優しくロナルドの手を握った。
「エマ?」
「そんな寂しそうにしてたら、慰めたくなるものよ……大丈夫。これからはずっと私がいるから。実はね、マキシムとミレニアムを回収してウラノスに渡し終えたら私、その時点で退職手続きが取られるの」
「…………えっ!?」
「利害関係であなたに寄りそうなんてもう真っ平だもの。知らなかった? 私ってば尽くすタイプなのよね!」
心底から嬉しそうに笑うエマ。ロナルドはただただ驚いて、しかしすぐに満面の笑みを浮かべて彼女にキスをした。
すべてを失い、心身も尊厳も踏み躙られたところから復讐の旅をスタートさせた少年ロナルド・エミール。
けれど彼は戦いの果てに最愛を得、探査者として生きていく道を掴み取ることができた。
後にS級探査者"アイオーン"と呼ばれることとなる彼の、これははじまりのエピソード。
どんな闇の底にあっても、光を求めて絶望を越えていける強さを持った少年の、はじまりの終わりであった────
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