75年目-1 第七次モンスターハザード
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
ロナルド・エミール(17)
マリアベール・フランソワ(57)
アラン・エルミード(36)
──大ダンジョン時代75年目。この年、通算七度目となる同時多発的人為スタンピード事件、通称モンスターハザードが起きた。
先年頃より増加の一途を辿っていたスタンピードがついに爆発的に頻発するようになったのだ。南北アメリカにあるあらゆる国の至るところが、地上にモンスターが蔓延る生き地獄と化していた。
これを予期していたWSOが、予め世界中から戦力をかき集めていたのが不幸中の幸いだったと言えるだろう。
特に歴代モンスターハザードにおいて活躍してきた英傑達は第五次に続いて今回も集結し、首謀組織たるノインノア・ジェネシスの壊滅に大きな役割を果たしたことは言うまでもない。
そして……ヴァールが率いるそうしたモンスターハザード解決チームに、モグリの能力者にしてかつてノインノア・ジェネシスの実験動物だった少年ロナルド・エミールも参加していた。
スタンピードを鎮圧する中でフランスからやってきていたS級探査者アラン・エルミードと知り合い、彼に弟子入りする形でチームに加わったのだ。
歴戦の古強者達に囲まれての実戦。ロナルドの実力はこれまでが嘘のようにメキメキと高めていくこととなる。
一方でヴァール達のほうも、今回のモンスターハザードの主犯である組織の情報を持つロナルドやエマとの共闘は渡りの船であった。
またロナルドの身体にも施されているなんらかの実験──ロナルドも廃人と化していた時期であるためろくに覚えてはいないが、モンスターのエキスを注入されたことくらいは証言できた──について知り、今度の敵が改めて鬼畜外道の類であることを実感し、打倒に向けてさらなる一致団結を図るに至る。
かくしてここに、アメリカ大陸の南北を股にかけての対モンスターハザード戦線が構築されることとなる。
この戦いをもって大ダンジョン時代に一つの区切りが訪れ、灼熱の時代からさらなる新世代へと移行することとなる。
歴史的にも極めて大きな意義のある戦いであった。
ロナルドの戦場はニューヨークのスラム周辺を飛び越え、今やアメリカ大陸中を仲間達とともに行き交う形に進化していた。
偉大なる先輩探査者達とともに、各地を跳梁跋扈するモンスター達を討ち果たしていくのだ。北はアラスカ、南はチリやアルゼンチンに至るまで縦横無尽にスタンピードを追いかける道のり。
今はアメリカ合衆国はマサチューセッツ州近郊の草原にて、探査者界随一の大物たるS級探査者、マリアベール・フランソワとともに少年は戦っていた。
すっかり慣れた様子で二丁拳銃、マキシムとミレニアムを構える。ロナルド・エミールの十八番、AMWと《氷魔法》のコラボレーション必殺技である。
「《氷魔法》、マキシム・ミレニアム……ジュデッカ・ブラスト!!」
「《居合》大断刀──コーンウォール」
銃口からスキルを圧縮したビームが放たれる。と、同時に横合いから刀の一閃──居合抜きによるショックウェーブが走った。
ロナルドの砲撃にマリアベールが合わせて追撃を行った形だ。
AMWに内蔵されているスキルブーストジェネレータによる補正を受けて、二倍近くにも威力が増幅されたスキル《氷魔法》の一撃をもってしてもなお、マリアベールが軽く振るった一撃、小手調べの技コーンウォールに遠く及ばない。
これがS級探査者の領域かと、ロナルドは悔しさを覚えつつもただただ感嘆するばかりだった。
さらに言えばつい最近、彼が師事することとなった大探査者が後ろに控えている。青いシャツにジーンズとラフな格好ながら、不敵に笑みを浮かべる姿はすっかり歴戦の戦士の容貌だ。
アラン・エルミード。フランスからやって来た、当代最強とさえ噂されるS級探査者である。
彼は第五次、第六次と二度のモンスターハザードに渡って事件解決のための主導的な役割を果たしてきたことから"ハザードカウンター"の二つ名でも知られており、もちろんロナルドもマリアベールやアランの名前はよく知っていた。
モグリの能力者であってもエマ伝に界隈の情報はよくもたらされていた上、この頃にはすっかり普及していたインターネット上でも彼らの名声は広く話題になっていたのだ。
匿名掲示板などを巡回しては"探査者最強ランキング"なるフォーラムを覗き、そのランキングの上位にいるソフィアやマリアベール、そしてアランの名に想いを馳せるのが彼の半ば、趣味のようなものだった。
もっとも本人は太平洋客船都市にいる親友、サウダーデ・風間こそが最強だと訴えているらしいが……ロナルドとしてはやはり、当世一の探査者としてはアランこそがふさわしいと思えていた。
「とどめ、いただきます! ──《極限極水魔法》、タイダルウェイブ・ディザスター!」
「ロナ坊、こっち来な。そこにいたら下手すると巻き込まれるよ」
「っ……は、はい!」
そんなアランが詰めの一撃を放つ。世界にたった一人、彼だけが持つ極めて高火力かつ広範囲のスキル、《極限極水魔法》だ。
彼の背後、何も無い空から途方もない量の鉄砲水が荒れ狂い流れ込む。あらゆるもの、すべてを呑み込む凶悪なまでの大災害に、マリアベールは即座にロナルドに声をかけつつ退避した。
一度放てばダンジョン内の一階層を水没させるほどの異次元の威力。
地上で行使する場合、周囲に人里がないことを常に念頭に置いて置かなければならないようなピーキー極まるスキルだ……しかしてそれを自在に操り、アランは敵を一掃していく。
ロナルドにとってはつい最近知り合ったながらも、すでに尊敬すべき師匠として慕っている男の力の発露だ。
あっという間にモンスターどころか眼の前に広がる草原さえも溢れる水で満ちた湿地帯に変えていく師の姿に、少年は震えを隠さずにつぶやいた。
「すげえ……これが師匠の、S級探査者の力!」
「ファハハ、相変わらずの威力だねえ! ありゃさすがに特別製なんだが、まあ《氷魔法》も突き詰めりゃ似たようなことができるようになるだろうさ。ロナ坊、無理せず頑張んなよ」
「は、はい……!」
感動に加えて畏怖さえ抱くロナルドへ、マリアベールが苦笑しつつも激励の言葉をかける。
それにも夢現で生返事をしながら、少年はただただ、モンスターを殲滅したアランの佇む姿を凝視していた。
これまでモグリの能力者として完全に独力で活動し続けていた少年が、初めて見た頂点の姿……
それは彼が一端の探査者となり、いずれ自身とS級探査者となる日が来た時もなお、心震わせる強い憧れとして脳裏に焼き付くことになるのであった。
ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー
「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://ncode.syosetu.com/n8971hh/
書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー




