15年目 カーンとシェンの若者
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
シェン・カーン(39)
シェン・ラウエン(16)
大ダンジョン時代初期に起こった大戦争の爪跡も、終結後数年も経てば少しずつ薄れ始める地域も出てくる。
比較的戦火に晒されなかった土地ではなおのこと、戦前と変わらない様相にまで回復するところもこの頃にはちらほらと見られるようになっていた。
そういう意味ではシェン一族の里ほど復興の早かった土地もそうはない。そもそも中華の山奥、戦火に晒されること自体がなかったのだ。
第一次モンスターハザードの際に長であるシェン・カーンが世界を飛び回ったくらいで、他には数人いたシェンの能力者が里周辺のモンスターを倒すために駆り出された程度。しかもそのいずれも軽傷で済んだ。
つまりはほぼほぼノーダメージでかの一族は能力者大戦を乗り切ったのである。
シェン一族の星界拳は大戦の影響をまったくと言って良いほどに受けず、戦前戦後と変わらぬ日々を過ごしていたのだった。
────里近くの竹林にて、星界拳士二人が修業していた。
一人は長たるシェン・カーン。一人は里の若者にしてつい先日スキルに覚醒し、探査者となった青年シェン・ラウエン16歳。
シェン一族から輩出される探査者はこれで、カーン含めて4人目だ。そんな若手の期待株を今、里長にして現状最強のシェンたるカーンが稽古をつけているというわけだった。
「しぇりゃりゃりゃりゃりゃああああっ!!」
「温いッ!! 蹴りに鋭さが足りないぞッラウエン!!」
常人には目にも止まらぬ速度だが、歴戦のカーンからすればまだまだ物足りない。繰り出される蹴りに己の脚を合わせて蹴り弾き、しかもなお速度的に余裕があるため反撃に回る。
星界拳はその一切の技が脚を使ってのものだ。だがそれは攻撃の際、相手に当てるのが脚のみということを意味しており、戦闘中一切手や腕を使わないと言った意味でもない。
つまりカーンがこのようにするのも、星界拳の範疇に収まるものだった────手を大地に付き、上下逆立ちとなった状態から回し蹴りを仕掛けたのだ。
「星界! 龍武舞闘脚ッ!!」
「ぐっ、う、ああああああっ!?」
放った脚をすべて叩き落され、しかもその間隙に潜り込むように懐に潜られたところで上からの急襲。これには堪らず直撃を受け、若きラウエンは吹き飛ばされた。
靭やかな竹が柔らかく彼の身体を受け止め、ダメージを最小限には留めてくれる。それゆえの竹林内での修練なのだが……さりとて反撃するにはあまりに立て直しが遅すぎる。
闘志を剥き出しにして体勢を立て直そうとしたラウエンの首元に、カーンの爪先が突きつけられる。
星界拳の脚は切れ味鋭い刃ですらある。抜き身の刀を急所に添えられたも同然の状況はすなわち、詰みを表すものだった。
力なく、諦めとともにラウエンは降参した。
「参りました……」
「うん、私の勝ちだな」
攻勢の時は調子がいい彼も、守勢に回るととたんに弱くなる。相変わらずの弱点を露呈した若者へ、今年39歳にもなるシェン・カーンは優しく笑いかけた。
そして脚を収め、彼に手を差し伸べて立ち上がらせる。
このような修練を行い始めたのは、ラウエンが探査者となってからのことだ。
それまでは里の子供達とともに修行していた彼がある日突然スキルに目覚めた。それを受け、同じ探査者であるカーンが特別な修行をつけることとしたのだ。
彼以前の2人、スキルに覚醒し探査者となったシェンに対してもこのようにしてカーンが稽古をつけている。
同じ探査者としての指導でもあるし、里長としての責務でもあり……何より先達として少しでも多くのことを学んでもらいたいという仁義の心が、この時期の彼を一武術家から、ひとかどの指導者へと成長させていたのである。
「粗削りだが良い感じだ、ラウエン。だが攻め一辺倒で受けが弱いのは今後の課題だな」
「は、はい! 修練を重ねます」
「うん。それと同時にやはり、ダンジョンに潜りモンスターを倒していくことだ。レベルを上げれば身体能力が強化されていく。今しがたお前の蹴りを捌いたけれど、もう少しレベルが高い状態であればそれも難しかったかもしれない」
「そ、そんなにも違うものなのですか!?」
驚愕するラウエンにカーンは厳かに頷いた。探査者としてのレベルと身体能力の関係性は、この時期にはもうすでに研究されだしていることだ。
レベルが1上がれば、元々の身体能力の5%分が強化される──大ダンジョン時代始まって100年が経つ現代における最新の研究ではそのような効果が解明されている。
つまりはレベル100になれば元の状態の500%、すなわち5倍もの身体能力となり。
S級探査者の最低基準ともされるレベル700ともなるともはや35倍という、まさしく超人的な能力を手にすることができるのである。
戦士にとってそれほどの強度をもたらすレベルとは、あるいはスキル以上に重要かつ単純明快な要素とも言える。
そうした点を踏まえ、カーンは若きシェンへと語るのだった。
「技術も無論大事だ。星界拳の技は弛まぬ努力の果てにさらなる進化を遂げるべきものであるからね。けれどそれと同様、己の肉体を高めることも重要なんだ。そしてそれは、私達探査者にとってはモンスターを倒すことが一番効率が良い」
「ゆえに僕より先に探査者になったシェンはみな、里を出て世界中を股にかけて修行を積んでいらっしゃるのですね」
「そうとも。君もじき、同じようにするんだラウエン。技にも肉体にも心にさえ並び立つもの────経験を得るためにね」
若き日の自分がそうだったように。今目の前にいる青年もまた、世間を知ることでより高みへと至るのだ。
今はまだ自分のほうが上だけれど、必ず彼は自分を上回る星界拳士になってくれるだろう。そしてその技を次代へ託し、今度は自分がいつか上回られる立場として新世代を導く。
13年前、ヴァールに言われた言葉が今になって納得できる。あの頃の自分はたしかに思い上がっていた。世代を重ねるごとに、目に見えて自分を超える逸材が生まれていくのだから。
嫉妬はない、むしろ使命感ばかりが強く燃える。彼女との約束を果たすためにも、星界拳を、シェンの名を世界に轟かせるためにも──
カーンはもはや己個人の強さなど気にすることなく、星界拳そのものを少しでも高みへと導くため、その身を賭してラウエンを教え導くのであった。
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