表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/210

73年目-2 "七度目"の兆し

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ヴァール(???)

レベッカ・ウェイン(86)

グェン・サン・スーン(43)

 大ダンジョン時代も70年を過ぎ、最初期にスキルを獲得した者達もその大多数が歴史上の存在として記録されていく中。

 それでも悪の蠢動だけは古今東西、変わることのないままだった。数えること七度目の、モンスターハザードの兆しである。

 

 世界屈指の大国アメリカ合衆国の全土にてこの頃、スタンピードが頻発していたのだ。

 それを気にしたWSO統括理事ソフィア・チェーホワによる指示の下、即座に能力者犯罪捜査官による特別捜査チームが発足されて現地調査が執り行われた。

 

 その結果、判明した事実……アメリカ大陸にて連続して起きるスタンピードのほとんどに、起点となったダンジョン付近で謎の液体がばら撒かれているのが確認できた。

 捜査チームがわずか残った液体の痕跡を持ち帰って分析したところ、恐るべき事実が明らかになった。なんとその液体は、ダンジョンの周辺に撒くだけで内部の浅層にいるモンスターを穴蔵から引きずり出すことができるという、ある種の誘導フェロモンだったのである。

 

 いくつかのモンスターの素材を加工、調合して精製していると思しいソレは、現代においては製造はおろか情報にアクセスすることさえ国際法および各国の憲法や条約、憲章レベルで禁じられているほどのタブーとして扱われている。

 すなわちそれほどまでに危険な代物だと、他ならぬ永遠の探査者少女たるソフィアが認めたのだ。


 今では完全に封印破棄されたロストテクノロジーだが、そういった点も含めてソフィアがどれだけこの液体の存在を問題視していたのかがうかがえよう。

 とにかくそのような代物がこの頃には開発され、そして悪用されていたのが実情であった。

 

 

 

 スイスはジュネーヴ、WSO本部は統括理事室にて。

 統括理事ソフィア・チェーホワの裏人格たるヴァールと特別理事レベッカ・ウェイン。

 そしてその政治上の弟子であり同組織の役員を務めるグェン・サン・スーンの三人は揃ってソファに座り、今しがたFAXで送られてきた報告資料を机において考え込んでいた。

 

 近頃、アメリカ全土で起き始めているスタンピード。

 異常頻発とまではいかないもののどこかきな臭いものを感じ取ったヴァールによって調査チームが遣わされたのであるが……途中経過の時点で何やらとてつもない事態が発覚しつつあることに、頭を悩ませていたのだ。

 サン・スーンが、難しげに腕を組んだ。

 

「ダンジョン外へとモンスターをおびき寄せる効果を持つ、謎の液体……事実ならばとんでもない話ですな。事実上、人為的な形でスタンピードを引き起こせるようになってしまう」

「通常のスタンピードとは異なり、どうやら一階層のみ、それも数部屋分限りのモンスターまでしか誘導できないようだな。スタンピードというには規模が最小だが……うむ。サン・スーンの懸念通り、これは大変なことになりかねない」

「あと、できるのは誘き寄せて地上に引きずり出せるってだけで意のままに操ったり従えたりはできないようですねえ。猛獣よりヤベー化物どもを、ただいたずらに野放しにするだけの餌ってわけかい。なんてモン作りやがるんだか、ったく」

 

 ヴァール、レベッカも総じてこの報告書にある、謎の液体──すなわちごく限定範囲ながら人為的にモンスターを地上に誘き寄せられるトラップの存在を、極めて強く危険視している。

 ついに悪しき者どもは、来るところまで来てしまったのか。ヴァールに至ってはそのようなやるせなさまで抱いているほどだ。


 それほどまでにモンスターを人々にけしかけたいのか? 何が目的なのかも分かりかねるが、それはそんなことをしてまで成し遂げなければならないものなのか?

 人の身体をしているが中身は人とはかけ離れた存在である彼女には、どうしても尽きせぬ疑問が沸々と沸き起こる。もはや怒りさえ超えての、純然たる困惑だった。

 無表情のまま、報告書にあった記載を元に話を続ける。

 

「その液体、仮に誘発液と呼ぶがそれを使い、各地で極小規模のスタンピードを引き起こしている者。その正体は未だ知れず……単独犯なのかあるいは組織だっているのかも不明のままか」

「誘発液の成分の解析が取り急ぎ行われていますが、どうやら何かしらのモンスターの素材を加工して抽出しているようだとの報告もありますな。となるとモンスター素材の加工に関連する企業が関わっている可能性もあると私は睨んでいます、統括理事」

「他はともかくモンスターのドロップ素材だけは、加工するにもめちゃくちゃデカくて値の張る専用機材が必要だからね……個人ってこたぁないだろうさ。なんならどこぞかの企業が裏で糸引いてるとか、十分にありえますよヴァールさん」

「うむ……信じがたい、信じたくもない話だが、なるほど」

 

 師弟の指摘に、ヴァールも理解を示す。二人の言うように誘発液の成分がモンスターの素材を加工して抽出したものならば、確実にどこぞかの専門企業が関わっているのは間違いない。

 モンスターが倒された時、極稀に落とす素材。種類は千差万別だが、いずれも大ダンジョン時代までに既存だったあらゆる物質を超える強度や特性を備えていることから、今現在の社会にあっては極めて高値で売買されているものだ。

 

 そうした素材は入手した探査者から全探組、WSOを介して各企業にオークションの形で売買されており……

 探査者の武器や防具はもちろんのこと、非能力者用にも高級品や嗜好品の原料として加工、精製等が行われていた。専用機材を抱える探査素材加工関連企業により、様々な用途に使用されているのである。

 

 件の誘発液もまた、モンスターの素材を加工した末に生み出されたものかもしれない。となると怪しいのはやはり、探査素材加工関連企業のいずれかか。

 つまりはある程度社会的にも認知度のあるような企業が関係している可能性が出てきたのだ。これは厄介なことになったと、ヴァールは思わずして呻く。

 

「なんのつもりか知らんが、ふざけてくれる……! ひとまず探査素材企業について総出で調べるしかないだろうな。特にスタンピードの起きているアメリカにおいて活動している企業を、ほとんど虱潰しになるが」

「大手から中小、果ては零細まで一つ残らず捜査させますよ。グェン坊、現地で能力者犯罪捜査官達の陣頭指揮を頼めるかい? 局長には私が話し通しとくからさ」

「お任せくださいレベッカ老。スタンピードの誘発など決して許されぬこと。必ずや黒幕の尻尾を掴んでみせますよ」

 

 たとえ総当たりであっても、絶対に誘発液の出所を掴まねばならない。実際にそれを使ってスタンピードを引き起こしている連中もそうだが、それ以上に液体の製造元をまずは押さえなくては。

 そんなヴァールの判断を支持し、レベッカはサン・スーンに命じた。彼はWSO役員だが同時に現役の探査者でもある。実力も申し分なく、現地で操作の陣頭指揮を任せるにはうってつけだ。

 

 かくしてアメリカ全土を巡るスタンピードに対し、WSOも本格的に動き出した。

 ここから二年後、誘発液の製造元から暗躍する謎の組織についてまで突き止めた結果……第七次モンスターハザードと後によばれることとなる騒動が巻き起こることになるのだが、それはこれよりしばらく先の話である。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 現代でもスタンピードが起きたりしている「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 誘発液はダンジョンからモンスターを誘き寄せて出させるだけですか?道に撒いて誘導して特定の建物に塗っておけば、ある程度襲う先をコントロールできる?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ