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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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126/210

72年目-3 時さえ凍らせる少年

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ロナルド・エミール(14)

 大ダンジョン時代社会の闇、その深淵にて蠢く外道の組織──ノインノア・ジェネシス。

 能力者に代わる生体兵器、すなわち改造兵器人間を製造することに血道を上げていたおぞましい集団からどうにか逃げ果せた少年がいた。

 

 様々な人体実験の果て、廃人にまで貶められていたのがステータスを獲得したことで自我を取り戻し。

 ファースト・スキル《氷魔法》を駆使して脱走に成功した彼はそのまま裏社会にて潜伏。WSOや全探組に登録しない、いわゆるモグリの能力者として自身を鍛え活動していた。

 

 少年──ロナルド・エミールの胸にあるものはたった一つ、復讐だ。

 自我とともに蘇った記憶。その中で彼は、組織によってすべてを奪われていた。家族も、友も、そして自分さえも。完全に社会的に孤立した身の上なのだ。

 残った唯一の因縁たるノインノア・ジェネシスへの復讐にひた走るのは、あまりにも当然の成り行きと言えた。

 

 かくして大ダンジョン時代においてまたしても後世、名を馳せる存在が活動を開始する。

 アイオーン。《氷魔法》を使って敵対者を永遠の氷漬けにすることから自然とそう名付けられていくこととなるロナルド少年は、しかしてこの頃はまだ、己の身の置きどころにさえ苦労する放浪者でしかなかった──

 

 

 

 アメリカはニューヨーク州、大都市ニューヨークの路地裏。薄汚れた細い通りに今、小さくも重大な異変が巻き起こっていた。

 決して雪が降るような季節ではないのに、この通りだけ積雪しかねないほどの雪が降っていたのだ。気温もこの時期にしては信じられないほどに低く、残飯を漁っていた猫達さえも異常を察して逃げ出すほどにおかしな光景が広がっていた。


 そしてそこには少年一人と男が数人、お互いに殺気立って向かい合っていた。

 否……少年のほうは薄ら笑いを浮かべて余裕の構えなのに対し、男達は明らかに狼狽し、怯え、あまつさえ銃を彼に突きつけている。いずれも必死の形相だ。


 数的有利や武器的有利を加味してもなお、少年のほうが格上なのだろうと。

 そう思わせるほどに互いの態度の差、余裕の差というものは歴然なのであった。

 

「これが最後の警告だ、お兄さん方」

 

 少年──ロナルド・エミールが不敵な笑みを浮かべたまま男達に言葉を投げかけた。有効的な温度では一切ない、凍てつききった声。


 薄汚れた長袖のシャツに長ズボン、そしてボロボロのロングコートを肩掛けに羽織る14歳の少年だ。若くして総白髪で、前髪が目にかかるほどにまで伸びている。

 整った顔をしているが、総じて清潔感とは無縁の姿だ。

 

 それもそのはずで、彼は若くして身寄りなく、都市部の裏側を彷徨う浮浪児だった。

 二年前、とある組織の研究所から脱走して今に至るまで、たった一人で生きてきたのだ。誰にも頼らず信じず、泥水を啜って残飯を貪る生活を、続けてきたのである。

 

 そのような境遇ゆえか、前髪から覗くロナルドの瞳はひどくギラつき、危険な光を常に湛えている。

 必要とあらば殺しさえ厭わない──実際がどうであれそう確信させるほどの説得力と殺意が秘められた眼差しに、相対する男達は揃って怯まざるを得ないわけなのだった。

 後退りる彼らへ、ロナルドは続けて宣告した。

 

「組織の、ノインノア・ジェネシスの拠点を、構成員を、目的を洗いざらい吐け。でなきゃあんたら、今ここで死ぬことになるよ?」

「ッ……! 舐めるなガキが、お前一人ごときに何ができる! おのれガキめが、今ここで死ぬのは貴様だ!!」

「この異常な寒さと雪は貴様のせいか化物め、何をしたぁ!!」

 

 三年前に少年を連れ去り、過酷な人体実験で廃人にまで貶めた組織。改造兵器人間製造を旨とする闇の集団ノインノア・ジェネシス。

 つまるところロナルドは復讐のために今、敵の一味と思しきこの近辺の裏社会の一団を誘き寄せ、尋問しているのだ。


 必ず自身の手でやつらを叩き潰すと研究所脱出後、12歳の身空で壮絶な覚悟を決めた少年はその誓いの通り、少しずつ、しかし確実に組織の足取りを追っていた。

 あくまでも敵対してくる男達を鼻で嗤い、彼はつぶやいた。

 

「言わないなら、お望み通り言えないようにしてやるよ……」

「貴様!!」

「打てぇっ!!」

「────お前ら全員、氷獄行きだ。《氷魔法》」

 

 もはや構わずに攻撃に移るのはお互い様か。男達は少年相手に銃弾を放ち、ロナルドは己の持つスキル《氷魔法》を発動した。

 瞬間、降りしきる季節外れの雪が停まった。時間を止めたかのようにピタリと、一粒たりとて漏れずに空中にて静止したのだ。

 

 この事象そのものが、彼のスキルによるものだった……《氷魔法》によって作られた雪。ロナルドの心象風景を表した、寒々しい凍土の風景。

 同時に男達が放った銃弾も止まる。空中の雪に阻まれ、弾かれてあらぬ方向に飛んでいったのだ。スキルで作った雪とは畢竟、通常ではありえない質量と重量をも伴う、盾のような役割さえも担っていた。

 

 そして防御を終えたならば次は攻めのターン。ロナルドは右手を男達へと向けた。

 指示のジェスチャーだ。彼の指し示した方向へと、物理現象をすべて無視して横薙ぎに吹きすさんで雪が奔る。

 

 それはまさしく人の手による猛吹雪。

 ロナルドはこれをもって、己のスキルを駆使しての技と定義づけていた。

 

「大吹雪よ、凍れ。凍てつけ、凍りつけ。お前らのような連中も、そうすれば少しは見映えのする何かになれるだろう」

「がああああっ!? 寒、寒い、死ぬ──!?」

「馬鹿な、こ、殺す気なのか!? こんなガキが、本気で人を!? あ、あ、ありえないっ!?」


 圧倒的な横殴りの雪によって、即座に全身が凍りつき身体の体温が奪われていく男達。

 一切の容赦がない、殺人さえ厭わぬ復讐の吹雪。ロナルドはこの時期、己の境遇もあってか組織を追うためならば手段などまったく選んでいなかった。


「殺すよ、何も喋らなきゃな。そのままなら月すら見れずに死ぬだろうし、逆に喋れば生きられる。太陽を拝めることもある……どうする?」

「ヒッ…………!?」

  

 気楽な様子で嘯く少年に、男達は心底から恐怖し、引きつった声を上げた。

 結局その後すぐ、彼らは知る限りのノインノア・ジェネシスについてを話し、一命だけは取り留めることとなる。

 

 しかしてその後、裏社会に復帰できた者は一人もいない。

 ロナルドと相対した誰もが、囚われた氷獄をトラウマとしてしまったからだ。

 そうしたことを続けるうちに、彼の名はいつしか裏社会中に広まっていき……皮肉にも"アイオーン"、すなわち時さえ凍らせる者として恐れられることとなっていった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 アイオーンの名前が地味ーに数度だけ出ている「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] かなりすごいことしているけど、これでもただの《氷魔法》で、極限〜とかつかないんですね
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