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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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120/210

71年目-1 五代目聖女・神谷美穂

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


神谷美穂(41)

フローラ・ヴィルタネン(30)

 太平洋経済圏構想の発動。それに向けて四代目聖女を辞し、自らもダンジョン聖教布教のため太平洋へ向かうことを決意したフローラ。

 そうなると気になるのが次代、五代目聖女が誰かという話であったのだが……彼女はここで予想外の、しかして納得の行く人選をした。

 己の師にしてかつては三代目聖女候補であった司祭、神谷美穂を後継者として指名したのである。

 

 この判断にはいくつかの要因があったが、やはり最も大きなところは彼女以外、後継者足る人材が見つけられなかったことが大きいだろう。

 当時のダンジョン聖教が人材不足だった、というわけでもない。単純に歴代聖女が順当に功績を積み重ねていったためにハードルがどんどんと上がり、フローラが思う"聖女"に足る存在がいなかったというのが正しい。

 

 このあたりは明確なフローラの落ち度であり、つまるところ彼女は自分を過小評価しすぎていた。

 "最低限、自分の若い頃を超えるような人材でなければ聖女になっても苦しいだけだ"などと……自身が神谷やマルティナを超える才覚を持つ身だという自覚もないままに、根底にある気弱で自信のない性格からハードルを異様な高さまで引き上げてしまったのだ。

 

 それゆえに眼鏡に適う者がおらず、師であり三代目と同世代であるはずの神谷に五代目を譲るという結果となる。

 後年、この判断についてフローラは神谷を選んだことそのものは正しいとしつつも、けれど己の要求があまりにも高すぎた、我儘すぎたと認めており。


 神谷も神谷で呆れつつも彼女を優しく諭すという一幕もあるのだがそれはまた、別の話だ──

 

 

 

 淡く光る輝きが、己のうちに入り込んでいく。痛みも無ければ熱さや寒さもない、完全なる無感覚。

 同時に脳内に声が響く。人生で何度か耳にした、何者かの声だ。

 

 

『フローラ・ヴィルタネンによって発動した称号効果を受け取りました』

『あなたの称号は以後、《聖女》となります』

 

 

 どこか温かみのある声。きっとこれを、先代たるフローラも聖女になる際に聞いたのだろう。

 遡れば三代目マルティナも。二代目ラウラは寝ている間に継承したと聞くので、この声を聞くのは実質的に自分で三人目となる。


 41歳にして、ついに辿り着いた瞬間。正直なところマルティナが三代目になった時点でもうすっかり諦めていた夢、聖女。

 それに今、この時に手が届くなどと。率直な喜びと、使命感と責任感と──そして少しばかりの今さら感と。


 複雑な胸中を抱えつつ、今まさに称号《聖女》を受け取り五代目聖女・神谷美穂はしみじみとつぶやいた。

 聖都モリガニアは大聖堂、軽傷の儀の山場を迎えてのことである。


「これが……聖女になる、ということですか。まさかこの年で、若き日の夢を叶えることになるだなんて」

「先生、おめでとうございます……と言って良いのかは分かりませんが。今この時より、先生が五代目聖女です」

 

 小声で応えるフローラ・ヴィルタネン。12年続いた聖女の座を後継者に譲り終え、その顔は喪失の寂しさとも、達成の悦びともつかない複雑な色を帯びている。

 それでも師の夢が叶ったことを祝えば、神谷も薄く微笑みうなずいた。そのままステータスとつぶやき、己のステータスを確認する。

 

 

 名前 神谷美穂 レベル536

 称号  聖女

 スキル

 名称 杖術

 名称 気配感知

 名称 格闘術

 名称 怪力

 名称 超再生

 

 称号 聖女

 効果 任意の相手にこの称号を継承させる。継承後、元の保持者の称号が《元聖女》になる

 

 

 変わっている。たしかに、称号が《聖女》になっている。

 ダンジョン聖教の象徴的存在たる聖女の座につく絶対的条件にして、現状では世界に一つしか確認されていない伝説的な称号だ。

 初代聖女エリス・モリガナから始まり、二代目ラウラ、三代目マルティナ、四代目フローラときて……五代目たる自分に継承された。あるいはダンジョン聖教の信仰そのものとさえ言える、絶対的権威。


 この瞬間、五代目聖女神谷美穂が誕生したのだ。

 重い。あまりにも重いものを引き継いだと、神谷は静かに覚悟を決めた瞳とともにこの、継承の儀に集まった歴代聖女やマスコミ、信者達を見回した。

 世界が違って見える。司祭とは比べ物にならない重圧とともに見る光景は、夢に描いたものよりもずっと綺麗で、ずっと怖いものだ。

 

「……偉大なる先達から、連綿と繋がってきたものを今ここに背負う。フローラもマルティナも、このような重責の中で生きてきたのですね。終始外野だったこの身の浅はかさを、今になって思い知る心地です」

「先生の支え合ってことです。マルティナさんも私も、あなたがいてくださらなければきっと、もっと早い段階で心が折れて次代に聖女を譲っていたと思います」

「フローラ……あなたは、本当に立派になりましたね」

 

 不安からつい声に出た言葉を、弟子でもある先代聖女が受け取り優しく慰めてくれる。

 10年以上も前、マルティナが連れてきた少女がこうまで大成した。そのことに嬉しさを覚え、神谷は微笑んだ。

 

 ──これにてダンジョン聖教はまた一つ、世代を重ねることとなり。

 翌年には神谷への引き継ぎをすべて終えたフローラが太平洋ダンジョン客船都市へと向かい、本格的に五代目聖女による新たなダンジョン聖教の体制が始まるのであった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 五代目として聖女をやり遂げた後の神谷が登場する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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[一言] スキル欄に輝く『怪力』!ゴリラ聖女なんですか!?
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