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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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119/210

70年目-3 フローラの決意、そして

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


フローラ・ヴィルタネン(29)

エリス・モリガナ(65)

ラウラ・ホルン(62)

マルティナ・アーデルハイド(45)

神谷美穂(40)

 太平洋経済圏構想が発表されて一年。フィンランドは聖都モリガニアに総本山を構えるダンジョン聖教においても、大きな変革が起きようとしていた。

 四代目聖女フローラ・ヴィルタネンがある日突然、聖女の座を辞し象徴たる称号《聖女》を次代に譲ると宣言したのである。

 

 11年もの間、すっかり世界的宗教となったダンジョン聖教を束ねてきたフローラのあまりにもいきなり過ぎる宣言。

 当然世界に衝撃的な混乱が走り、各国の政府やマスコミ、果てはWSOをはじめとする国連組織までもが騒ぎ出すこととなったのだが、それらに対して当のフローラはあっけらかんとして言い放った。

 


『太平洋経済圏構想……おそらくは数十年にも亘る超巨大プロジェクトと、それにより新たに生まれる人工都市。そこへ向かい、前人未踏の世界に我々の信仰を届けるのです』

 

 

 ──つまるところこれは、ダンジョン聖教も太平洋ダンジョンに纏わる世界的な潮流に一枚噛むのだという宣言でもあり。

 その先陣を切るにあたっては聖女たるフローラこそが最適なのだ、という彼女自身の判断と強い意志があってのものであった。

 

 

 

 聖都モリガニア内、大聖堂は聖女執務室にて。

 四代目聖女フローラ・ヴィルタネンは集まった面々、歴代聖女を前に深々と頭を下げていた。

 自らの聖女引退について……もちろん前もって話を通していたのではあるが、実際に宣言した今、改めて謝意を示しておきたかったのだ。

 

「初代様、二代目様、そしてマルティナ様。改めて四代目聖女たるこのフローラ・ヴィルタネンは来年度をもちまして聖女の座を辞します。つきましては快くご了承くださったこと心より感謝申し上げます……本当にありがとうございました」

「ハッハッハー。まあまあお疲れさまだよヴィルタネンくん、11年もよく頑張ったねえ。ラウラもそう思うでしょ?」

「ええ、もちろん……お疲れ様でした、フローラさん」

 

 頭を下げる後輩に、まず応じるは初代聖女エリス・モリガナ。妹分にして二代目聖女たるラウラ・ホルンと二人、にこやかに微笑んでいる。


 この頃エリスは65歳、ラウラは62歳。

 スキル《不老》の影響でやはり18歳の頃と変わらぬ容姿のエリスはともかく、ラウラのほうは還暦を越え、年相応以上にも老け込んでいた。


 イギリスはカーディフにあっては夫と三人の息子娘、六人の孫にも囲まれ過ごしている──幸せそのものな様子だが、数年前から著しく体調を悪化させており、モリガニアに足を運ぶのも車椅子を用いるほどに衰弱してしまっているのが現状だ。

 もはや実年齢より一回りも年老いて見える彼女の姿に、エリスはどうにもやるせなく、不安と悲壮、嘆息を禁じ得ないでいる。


 そんな最愛の姉貴分の胸中はさておき、ラウラは同じソファ、隣に座るマルティナに微笑みかけた。

 

「マルティナ、美穂。あなた方もよく頑張ってくれました。フローラさんは紛れもなく四代目として立派に務めを果たされたのです。さすがはマルティナが見出し、美穂が育てた逸材と言えましょう」

「あっははは! いやー私としても予想以上期待以上ですよ! 本当、よく頑張ってくれましたよこの子は! ねえ、美穂!」

「え、ええ……彼女は疑いようもなく自慢の弟子、誇らしき四代目様です。ところであの、なぜ私までここに? 歴代聖女様の会合の場に、私がいるのはおかしいのですが」

 

 三代目聖女マルティナ・アーデルハイド。そしてその相方にしてダンジョン聖教司祭、神谷美穂。彼女らもまたフローラを見出し、鍛え上げた者達だ。

 この時マルティナは45歳、神谷は40歳。そろそろ探査者的にも落ち着いていても良い頃合いで、マルティナに至ってはそろそろ内勤に移行してラウラ同様、ダンジョン聖教内の後進育成に取り掛かろうかとさえ考えている。

 

 歴代聖女が揃う中、しかして唯一そうでない神谷がフローラに問いかけた。その顔には場違いさを感じるがゆえの緊張が滲み出ている。

 なぜ自分までここに。たしかにフローラの師でありマルティナのパートナーのような立ち位置ではあるが、歴代聖女と肩を並べるほどではない、というのは自他ともに認める当然のことだ。

 

 不安を顔に出す神谷に、フローラは微笑みかけた。

 決して無関係ではないのだ……少なくともこれからは。

 戸惑う師へと、ゆっくり告げる。

 

「神谷先生。あなたをもお呼びしたのは他でもない、あなたが次代の聖女だからです」

「…………は?」

「私に次ぐ、五代目聖女の座。次なる《聖女》継承者をあなたに定めます、神谷美穂。これが私から発する最後の聖女号令です…………どうかお願いします。太平洋へ向かう私には、先生に託すしかないのです」

 

 あり得ない言葉の数々。まさかの神谷を次なる聖女に指名して、フローラは太平洋経済圏構想へと参加するというのだ。

 一切予想していなかった言葉に、たっぷり一分ほど固まる神谷。そんな彼女にからかうように、歴代聖女の三人も続けて笑顔で言ってきた。

 

「美穂。フローラからの最後の頼みですよ。聖女号令でもあるんだし、大事になる前に引き受けちゃいましょうって!」

「な、あ……!? マルティナ!?」

「フローラさんから最初に話を聴いた時、たしかに唖然としましたが。他ならぬ美穂ですから、何も心配はいりません」

「ハッハッハー、いやマジで誰も言ってなかったんだ? ごめんね神谷くん、この通りみんなすっかりその気になっちゃって!」

「ラウラ様! ……初代様!?」

 

 すでに根回し済みらしく、なんの動揺もなく次代聖女への任命を祝ってくる歴代達。

 敬愛する初代聖女さえ巻き込んでのこの茶番に、しかし神谷はやはり唖然として叫ぶ。どうしても信じられなかった、自分が次なる聖女などと。

 

 ──大ダンジョン時代100年を経過した現代にあっても、活動し続ける先々代聖女、神谷美穂。

 紆余曲折を経てついに聖女にまで至った、苦労人にして信仰に生きる敬虔な信者。五代目聖女。

 彼女が表舞台に立つ日が、ついにこの時に訪れていたのだ。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 五代目聖女となった後の神谷が登場する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 根回しが済んでいて外堀が埋められているんだから、受けないわけにはいかないじゃないですかー
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