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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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116/210

69年目-5 サウダーデと太平洋ダンジョン

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


サウダーデ・風間(28)

アラン・エルミード(30)

エミリア・エルミード(22)

 ドラゴン戦を終え、S級探査者マリアベール・フランソワがその名と実力を世界に知らしめたのと同時期に、また別口で大ダンジョン時代社会はにわかに大きな動きを見せようとしていた。

 30年前に発見されてそこからほぼ、手つかずだった太平洋ダンジョンに対していよいよ、本格的な取り組みが計画され始めたのである。

 

 太平洋経済圏構想──WSOの若手理事が考案した荒唐無稽な絵空事が提唱されて一年。

 大型客船を太平洋ダンジョン周辺に並べ立てて擬似的な陸地を作り経済圏を形成、ダンジョン探査の拠点とする計画について、WSOどころか世界の経済大国を巻き込んでの大論争が行われるようになっていた。


 というのも、技術や経済的には実のところ、この案はあながち絵空事でもなかったのだ。

 モンスターが時折落とす素材を研究、加工開発することによって齎された技術革新と経済規模の拡大。それらが太平洋に新たな陸地を生み出す発想に現実味を帯びさせていたのである。


 土台となる大型客船の維持と管理、多数連結するための素材。そして何よりそれらを実現するための、金。

 WSO単体であればさすが難しいハードルであったが、世界各国とも連携して共同出資の形であればそこも問題ない。


 そもそも大ダンジョン時代にあっては探査者関連の事業はそのすべてが"金のなる木"なのだ。

 ましてや新たな経済圏を、人工陸地から作って構築してしまうなどと! ……ロマンチシズムさえ孕むこの提案に、ある種バブルの熱狂に酔う各国上層部は概ね前向きに検討を開始することとなった。

 

 そして、そうなれば構想の噂は探査者達の間にも当然、出回ることとなり。

 存在だけは知っていた未知なる新天地へ、多くの者が想いを馳せることとなるのだった──

 

 

 

 フランス南西部、エルミード邸にて。

 家主たるアラン・エルミードは妻エミリア・エルミードとともに親友たるサウダーデ・風間を歓待し、楽しい一時を過ごしていた。

 マリアベール・フランソワのS級モンスター討伐記念式典を終えて後、積もる話もあるからと彼を家に招いたのだ。

 

 この頃にはサウダーデも武者修行の旅が一段落付き、ポルトガルの首都リスボンにて活動をしていた。

 それゆえ呼び出しやすかったのだ……加えてお互い、直接会って話したいこともそれぞれあった。

 サウダーデが満面の笑みを浮かべ、アランとエミリアを祝う。

 

「おめでとう、アラン。そしてエミリアさんも……見たところ臨月に近いように思うが」

「ええ。予定では来月下旬にでも生まれるんですよ、クリストフさん」

「僕もいよいよ人の親ってわけだね……ありがとうクリストフ。君に祝ってもらえるのが何より嬉しい話だよ」

 

 にこやかに答える夫妻。特にエミリアは膨らんだ腹を撫でさすり慈愛の笑みを浮かべている。

 懐妊したのだ……それも出産が近い。愛し合って結婚し、そして子を授かる意志も双方強く抱いていたのだ。当然の成り行きだろう。

 

 こんなにも素晴らしいことはないと、サウダーデは嬉しさからワインをグラスになみなみと注ぎ、一息に飲み干した。

 親友に家族ができる。祝福のうちに生まれる愛し子を授かるのだ。これほど良い知らせが他にあるだろうか? 家族を失ったからこそ誰よりもその大切さを知る彼にとって、それは我が身のことのように嬉しいニュースだった。

 仲睦まじい二人を、優しく見守りながらも語る。

 

「本当に慶事だ……今年中に生まれてくれるというのも、手前味噌な話だが個人的には都合がいい」

「え? 何かあるのかい、君にも」

「ああ。場合によっては来年か再来年にも長期間、ヨーロッパを離れるのだ。そうなってからでは、君達の子供を一目見ることもなかなか難しくなる」

「え……!?」

 

 まさかの言葉に、アランのほうは目を見開いて驚いた。数年前、それこそドラゴンとの戦いの少し前に武者修行を終えて故郷ポルトガルに腰を落ち着けたはずのサウダーデが、今またどこぞかへと旅立つというのか。

 エミリアも心配そうに彼を見る。妊婦の身を不安がらせてはいけないと、すぐさまサウダーデは真剣な表情で事情を説明した。

 

「太平洋経済圏構想。最近巷でよく聞くだろう、太平洋ダンジョンの周辺に大船を多数並べて土地を作り、そこを攻略拠点都市とする世界規模のプロジェクトだ」

「あ、ああ。ソフィアさんやマリーさんからも少しだけ聞いているよ、とんでもない発想だって。でも未だ議論の段階だと聞いているけど」

「表向きはな。実のところ内々ではすでに、太平洋に派遣させる第一陣移民団が結成されつつある──そのチェーホワ統括理事から連絡が来たのだ。俺に、太平洋ダンジョン攻略と経済圏構築の力になってくれとな」

 

 ……その連絡は、本当にある日突然のことだった。数ヶ月前、いきなりソフィアからの電話がかかってきたかと思えば打診を受けたのだ。

 大穴以外何もない太平洋に、何十年とかけて船を集め連結して土地としていく。さらにはそこに文化文明を構築していく、と。

 

 そしてその都市を拠点とする探査者の第一人者としてサウダーデにもぜひ、参加してほしいという。

 当然面食らった彼だったが、しかしすぐさまうなずき応えた。間髪入れず、いわば太平洋開拓民の第一陣となることを受け入れたのだ。

 

「俺の力が人様の役に立つのであれば、それを断る理由もない。ましてや太平洋ダンジョンなどという、前人未踏に近いエリアの先駆けを担うに足ると思ってくださっているのだ。力を尽くすのは探査者として当然のことさ」

「き、君らしい高潔な理由だけれど。そんなのに参加したら下手したら10年単位で海の上なんじゃないのか?」

「無論、時折陸には戻るだろう。そのあたりの生活スタイルさえ未確定なのだ、逆に言えば融通が利きやすいとも言える」

「に、にしても太平洋の真ん中で生活、ですかあ……」

 

 アランもエミリアも、想像だにしていなかった話に唖然とするばかりだ。そんな夫婦を面白がってサウダーデは、さらにワインを飲み続ける。

 太平洋経済圏構想。現代においては見事な都市を構築しているこのプランであるが、現場における第一功績者とも呼べる探査者の中には当然、サウダーデの名も記されている。


 すなわち彼の人生の主たる舞台は、まさしく太平洋ダンジョンと言えるのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 太平洋から来た男!なサウダーデが出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 第一陣だからこそ、自分のやりやすいように好きに住環境等をいじれるから、やりがいもありそう
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