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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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69年目-4 別れの予感

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


エリス・モリガナ(64)

ラウラ・ホルン(61)

 ソフィアやレベッカらの推薦もあり、S級探査者となったエリス・モリガナ。

 その足でイギリスはカーディフ、妹分のラウラ・ホルンを訪ねた彼女は、特になりたくもないS級になってしまったことに愚痴の一つもこぼそうとして逆に、口を噤むこととなる。

 

 この頃、還暦を迎えていた妹分の姿が一気に弱々しいものになってきていたのだ。

 白髪も目立つようになり、皺も増え、見た目だけならまるで70代後半にさえ思えるほどに老化が進行していたのである。

 

 同時に身体能力も著しく衰え、今はまだ日常生活に問題は出ていないものの。もうあと10年もすればそれも怪しいのではないかという予感が、エリスにはあった。

 すなわち愛する妹分との永遠の別れの予感を、彼女は察してしまったのだ。


 不老体質により歳を取れないエリスの、それは宿命とも呼べる事態。

 愛する者達に置いて逝かれること。今まで考えないようにしていた現実が迫りつつあった────

 

 

 

 還暦を過ぎてから、目に見えて老け込んできた。半年ぶりにラウラを見てエリスが最初に思ったのは、はっきり言えばそんなことだった。

 50歳の頃にはまだ若々しい、一回りは年下のマルティナと比較しても同世代に見えかねないほどに生気溢れていたのだが、今となっては一回り以上年上のレベッカと見比べても遜色ないほどに窶れてきている。


 老化。誰しもに訪れる絶対的な現象。

 しかしてあまりに早く進行している妹分のそれに、エリスは血の気が引く想いだった。

 イギリスはカーディフ、ホルン家を訪れてのことだ。ラウラの娘に案内されて、リビングに招かれた──最近の母はずいぶん弱ってきたのか、家の中さえ必要以上にはうろつかないと零しながらだ。

 

 そうして会ってみれば、半年前に見たより一層老いていくラウラの姿。もはや老婆と呼べてしまうほどに、彼女の姿は様変わりしていた。

 なぜ? どうして? ……分かりきっている。浮かぶ疑問と、それに対する返答が一気に頭を過ぎり、エリスは堪らず安楽椅子に座るラウラの下へ行き、膝をついて優しく抱きしめた。

 

「ラウラ、久しぶり……なんだか、たった半年でずいぶん老け込んだね……!」

「お久しぶりです、お姉様……すみません、こんなみっともない姿をお見せして。ですがどうにも、最近はめっきりと元気を失ってきた感じがしまして。ふふ、歳を取るというのは大変なのですね」

 

 変わらぬ温もり、けれど変わらない姉と変わっていく妹。

 出会った頃、あんなに快活だった少女が来るところまで来たのだ。はるかな時の流れの残酷さをエリスは、どうしても嘆かずにはいられない。

 

 ラウラだけではない。彼女の知るほとんどすべての人が同じだ。

 両親はすでに亡く、かつての仲間達……シェン・ラウエンも妹尾万三郎もシモーネ・エミールもとっくに死んだと風の便りで耳にした。


 友人のマリアベールも気付けば50歳、しかもドラゴン退治の後遺症でこちらも著しく老化が進行してしまった。

 レベッカ・ウェインや早瀬光太郎、アラン・エルミードもマルティナ・アーデルハイドも神谷美穂も、フローラ・ヴィルタネンでさえそうだ。

 誰もが当たり前のように歳を取る、当たり前のようにエリスを置いていく。

 

 唯一変わらないのはやはり、ソフィア・チェーホワとその裏人格ヴァールだけか。だが自分と彼女らとでは同じ不老体質でも、決定的に違う何かがあるのだとエリスは常々感じている。

 彼女らの不老は、どこか自然なものなのだ……この世の摂理の一部として老いることがないよう定められているかのようなナチュラルさが感じられた。


 それは意図せぬスキルという形で、後天的な不老に成り果ててしまった自分には決してないものだ。

 不自然に歳を取らない、取れない自分。永く生きる中で意識的に考えないよう目を逸らしていた問題が、頭をもたげるように噴出していく。

 換言するならばエリスはまさに、置いていかれることに怯え恐怖していたのだ。焦りのまま、妹分に語りかける。

 

「ラウラ、どうにかしてアンチエイジングしよう? きっと適切な措置を施せばまた、昔のように若々しい君に戻れる。まだ60歳と少しでお婆さんみたいになるのは早すぎるじゃないか、腕の良いお医者様を探すから、すぐに──」

「お姉様……」

「そうだ! マリーも一緒にアンチエイジングすればちょっとは元気になるだろうさ、ハッハッハー! あんな元気だったのが腰を曲げて、そんなこと駄目だもんね、うん。よーしみんなで美しく若返る努力をしてみようよ、ねえラウラ!」

 

 矢継ぎ早に、茶目っ気めかして話す言葉に込められた必死さ。あまりにも分かりやすく歳を取る周囲への怯えが混じったエリスの言動に、ラウラは涙を浮かべまいと必死に瞳を閉じた。

 こうなるだろう予感はしていた。エリスが根底では不老を疎んでいること、置いていかれることを恐れていること、そして……自分自身、そう遠くない未来にこの人を置いて逝ってしまうだろうこと。

 そのすべてを感じ取っているがゆえに。

 

「お姉様、落ち着いてくださいまし……大丈夫ですよ。ラウラは、まだ、ここにいますから」

「ま、まだって、ラウラ……そんな……」

「歳を取ることは、誰にも止められません。その素晴らしさを否定することも、きっと誰にもできないはずです。老いていく私をどうか、否定しないで?」

 

 愕然とするエリスを諭し、ただ微笑むラウラ。

 永久の別れが、近づいてきていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >歳を取ることは、誰にも止められません。その素晴らしさを否定することも、きっと誰にもできないはずです。 歳をとることは素晴らしいことだって言っているけど、これ後天的不老でそれを疎んでいるエ…
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