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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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113/210

69年目-2 竜より生まれし刀

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


マリアベール・フランソワ(51)

ソフィア・チェーホワ(???)

レベッカ・ウェイン(82)

 ドラゴン戦から2年ほどが経過し、S級探査者マリアベール・フランソワも変化した己の身体と生活にそれなりに適応し、頻度は減ったものの探査者としての活動を行うようになっていた。


 かの戦いにて開眼した居合スタイルは彼女の予想通り、老化していく身体に負担をかけることない戦法として機能した……

 大概のモンスターを一瞬で仕留める超神速抜刀あってのものだが、少なくとも彼女に関しては老後の探査活動においてある程度のクオリティを維持できる程度には馴染んでくれたのだ。

 

 とはいえやはり、18歳から34歳頃までの肉体的全盛期と35歳から50歳までの心身充実しきった爛熟期に比べれば弱体化は無視できないほどであることもたしか。

 それゆえ技術や装備面でのカバーが必要になってきたのであるが、そこにWSO統括理事ソフィア・チェーホワから朗報が舞い込んできた。

 新武装の目処が立ったのだ。

 

 普段から使う武装たる刀、マリアベールも当然何十本と持っておりなんなら刀鍛冶とも専属契約を結んでいる。

 しかして今回の刀はいろいろ、格が違った……何しろあのS級モンスター、ドラゴンが落とした超希少素材をふんだんに用いた、まさしく世界にたった一つだけの名刀なのだから。

 

 大ダンジョン時代100年を迎えた現代ではマリアベールの孫娘アンジェリーナに継承された、モンスターの素材を加工して作り上げた武器。

 加工技術の開発から実際に出来上がるまでに二年を費やした、究極とも言える威力を誇る刀。

 それがこの時期、完成したのである。

 

 

 

 スイスはジュネーヴ、WSO本部施設内にあるマスコミ向けの会見室。

 統括理事ソフィア・チェーホワ並びに特別理事レベッカ・ウェイン他多数の役員とマスコミ記者も多く並んでカメラを構えている。世界中の主要テレビ局からやってきているのはやはり、世紀のシーンをそれぞれの国の人々に伝えるためなのだろう。


 その中で一人、杖をついて曲がった腰を支えるマリアベールは苦笑いしていた。ソフィアの隣に立つ姿は実年齢よりもいささか、年嵩にも見える。

 ソフィアが小声で尋ねた。 

 

「何笑ってるの? マリーちゃん」

「笑うでしょうが、そりゃあ。大袈裟過ぎますよこんなもん、なんでドス一本受け取るだけで大騒ぎになってんですかい」


 呆れたように返す。マリアベールには事実、目の前の光景すべてが大仰極まる茶番にしか見えていなかった。

 S級モンスター討伐を記念しての式典。そのメインイベントとして用意されたこの会見だが、その中身はまさしく彼女の言うように刀一つを受け取るだけの儀式である。


 しかし、その刀というのが何より重要だった。

 何せS級モンスター討伐後に残されたモノ、ドロップ素材である"竜の牙"を加工して作り上げた世界唯一にして随一の逸品なのだから。


 今、彼女らの目の前には台車があり、その上には刀が二本置かれていた。どちらも同じ長さで、なんでも素材の加工に成功した上で刀鍛冶が納得する出来栄えとなったのがこの二振りだけだと言う。

 ソフィアが肩をすくめ、苦笑いして応えた。


「仕方ないでしょう? ギアナ高地を支配していたドラゴンと、それを倒した現代のドラゴンキラー・マリアベール。二つの神話が今、ここに一つになるんですもの」

「だぁからそういうのが大袈裟なんですって。神話だなんだ、トカゲと相討ちみたいになっちまっただけでしょうがよ……」

「そんでも人々にとっちゃあ伝説で神話なんだよ、フランソワの嬢ちゃん……つってもうババアだねババア。まあ面白くもなかろうがせっかくだ、名声ごと受け取っときな」


 そもそもからしてギアナ高地に現れたリアルドラゴン、その存在がすでにファンタジーめいていたことから少なからず世界中のマスコミを通じて人々に報道され、伝説めいた扱いをされていたところはある。

 そこにS級探査者最強としてマリアベール・フランソワが討伐に出向き、激闘の果てに負傷さえしつつも打ち倒したという逸話までついてはもはや、現代におけるドラゴンキラーあるいはドラゴンスレイヤーとして英雄扱いされるのは当然の理であった。


 そんな中、ソフィアとマリアベールの会話に割り込むように、82歳になってもなおWSOの特別理事として君臨しているレベッカ・ウェインも面白がってマリアベールをからかった。

 もはや引退どころか隠居していてもまったくおかしくないものを、未だに健康体そのもので精力的に動き回る姿はもはや妖怪を通り越して怪物とまで言われている。

 マリアベールにとっても先輩の一人であり、だからこそ唇を尖らせて彼女に軽く抗議した。


「レベッカの婆様まで……つうかね、あんたいつまで理事やってんだい。もう80過ぎのアンタこそババアの中のクソババアじゃないかえ」

「ガハハハハ! 50も80も変わりゃしねえやな、ガハハハハ!!」

「笑ってんじゃないよ! ったく、私が探査者になる前にはもう外勤止めてWSO職員だったクセして、いつまで居座ってやがんだか」

「まあまあ。そんなことよりほら、マリーちゃん? あなたの新たな刀よ、手にしてみて」

 

 ぼやくマリアベールを宥めて促すソフィア。マスコミもいて世界中に生放送でここの様子は拡散されているのだ、迂闊に喧嘩でもされては堪らない。

 そこはマリアベールも分かっており、渋々ながら前に出た。台車の前に立ち、刀を一本手に取る。


 瞬間、よく手に吸い付くような自然の手触りを覚え、マリアベールはニヤリと笑った。

 腰に提げてみて、何度か鯉口を鳴らしてみる。良い具合だ。

 

「……良いね。手に馴染む感覚はさすがいつも通りの仕事で見事だが、重量もちょうど良い、私の背丈に合わせてくれてるよ」

「藁人形を用意するから、ちょっと一撃だけ切れ味を試してくれるかしら? 一応パフォーマンスは必要なの、ごめんね?」

「見世物じゃねえんですが……ま、仕方ねえさな。ファハハ」

 

 やはり受け取って終わりというわけにはいかなかったかと、運ばれてくる藁人形に苦笑する。この分だとインタビューだのなんだのでもう少し、時間も掛りそうだ。

 まあ良いと、マリアベールは杖をしまって人形に向き直った。腰は曲がっているがそれはもはや関係ない。納刀状態のまま、放つは一撃のみなのだから。

 

 世界中の視聴者の、度肝を抜いてやろう。目にものを見よ、これがマリアベールの大断刀!

 一切構えのないところから、瞬きほどの時間もかけずにいきなりのトップスピード。最適化された動きで鯉口を切り手を柄にかけ、全身をフル回転させて解き放つ!

 

「《居合》──大断刀・ビッグベン」

 

 ……その一撃は後に、マリアベール伝説におけるもっとも有名な映像として永く語られることとなる。

 わずかにぶれた身体。直後に真っ二つに割れる藁人形。超スローモーションで解析してもなお早すぎて目にも追いつけられないまさしく超神速での斬撃が、放たれていたのだ。

 

 これにはソフィアも、レベッカも、その場にいた誰もが息を呑んだ。負傷して弱体化したと聞き、多少は目で追えるだろうと思っていた予想を完全に裏切られた形になる。

 マリアベール・フランソワ未だ健在なり。彼女はわずか一撃のもとに、世界中にそのことを示したのである。

 

「ふん? 切れ味も良いね……あのトカゲの素材がどこまでのもんか、そこは今後の探査で試していこうかねえ。ファハハッ!!」

 

 高らかに笑い、新たなる愛刀の切れ味に一定の評価をつける。

 老境を迎え、弱体化してもなお。マリアベールは現役最強クラスの探査者だった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 目にも止まらぬ居合はこちらでも健在の「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 高レベルで動体視力が高い探査者が超スローモーションで見ても、目で追えなかったってこと?凄……
[一言] そう言えば魔天を切ったのは仕込み刀でしたっけ。 弘法筆を選ばずを地で行けるまでここから更に鍛えたんですねマリーさん。
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