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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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105/210

67年目-2 滅びの空気

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ヴァール(???)

マリアベール・フランソワ(49)

アラン・エルミード(28)

サウダーデ・風間(26)

 南アメリカ大陸はギアナ高地に突如出現し、瞬く間に地域一帯に君臨したS級モンスター、ドラゴン。

 これに対してWSOは当時を代表するS級探査者はじめ実力派の探査者を数十人規模で動員。ドラゴン退治にあたった。

 

 後の世にて半ば伝説、現代の神話とさえ言われる一大決戦だ。舞台となったギアナの地には現代にも名を残す探査者が多く終結した。

 サウダーデ・風間を筆頭にフローラ・ヴィルタネンやマルティナ・アーデルハイドに神谷美穂、グェン・サン・スーンといったS級でないにしろ実力派の面々を50人近く招集し。


 マリアベール・フランソワ、ジェイコブ・マークリー、最上和之介。そしてアラン・エルミードといったS級探査者の面々は計10人にも及び動員され。

 そして総指揮にWSO統括理事ソフィア・チェーホワが就き、まさしく万全の体制でことに臨んだのである。

 

 しかし──ギアナ高地に辿り着いた面々を待ち受けていたのはあまりにも苛烈な洗礼。

 戦う前から心をへし折られるほどの、地域そのものにかけられた凄絶な威圧が生み出す滅びの空気であった。

 

 

 

 空気が死んでいる。そう表現するしかなかった。

 ギアナ高地全域に流れる重苦しい、そしてあまりにも静かで恐ろしい雰囲気を感じ取って、探査者達の誰もがそれを実感していた。

 S級モンスター、ドラゴンが放つ威圧感。桁外れの圧力によってまさしくこの地は今、滅びを迎えようとしていたのだ。

 

「この手の空気を放つモノはさすがに、ワタシも大ダンジョン時代に入ってからは初めて出くわすな……となれば、さすがにこのまま戦闘突入はきついか。よし、一旦引き上げるぞ!」

 

 メイン戦力に加えて補助、支援、サポート役の探査者達をも含めて総勢百人近い数を率いるWSO統括理事、ソフィア・チェーホワは──その裏人格たるヴァールは大声で命じた。

 ギアナ高地に足を踏み入れた段階、遥か向こうにうっすら山のようなドラゴンの巨体が蠢いているのを見ながらの、極めて迅速な判断である。

 

 無理もないことだった。何しろ対ドラゴン戦におけるメイン戦力、S級探査者達がこの時点で揃って気圧され、どうにか立つのもやっとという有り様なのだから。

 A級以下のサポート役達などもはや立つこともできず、全身を貫く悪寒に震えてしまっている。いや、一人だけどうにか立っている者もいるが。


 その男を見て、一人平然と立つヴァールは呑気にも感心の声をあげた。

 

「さすがだ、サウダーデ。君ならばそれなりに耐えるかと思っていたが予想以上だ」

「っ……あ、りがたいお言葉、ですがこれは一体……ッ!? 身体が、竦んで、とてもでなく動けませんッ!!」

「つうか、なんでヴァールさんだけピンシャンしてんですかねえ……!?」

 

 歯を食いしばって立つ彼の名はクリストフ・カザマ・シルヴァ。通称サウダーデ・風間。マリアベールの弟子にしてこの頃のA級探査者にあってはトップクラスの、いわゆるトップランカーであった。

 もはやS級にも匹敵すると言われる彼でさえ、どうにか両足を、全身を竦ませながら己を奮い立たせて姿勢を保つのが精一杯の有り様。他の探査者達などは、歴戦のフローラやマルティナ、神谷でさえへたり込んでしまっている。

 

 そこに、押しも押されぬS級探査者マリアベールが割って入った。サウダーデよりも元気で普通に動くこともできているが、さりとてその顔は青く吐き気を堪えているかのように悪寒に震えている。

 他にもアラン・エルミードなどは荒く息を吐きつつそれでも動けているが……他のS級でさえ、ほとんど行動不能の有り様だ。

 

 マリアベールの真剣な疑問、これほどの空気の中でなぜヴァールはまったくもって平然とできているのか。

 その問いに彼女はやはり、至って平然と答えた。

 

「以前に幾度となくこの手の空気は体験してきたのでな。ソフィアのほうも問題ないぞ、この程度であれば」

「そ、そいつぁどういう……」

「はるか昔の話だ。それにお前達には今のところ、知る必要もない領域のことでもある。とにかくソフィアとワタシはそれなりに場数を踏んで慣れている。ここにいる者達も、戦闘には入る前にしばらくこの空気に馴染んでいけば大丈夫だろう。こればかりは慣れだ、実力など関係なくな」

「ヴァールさん……あ、あなたは一体、何者なんですか……!?」

 

 あまりの言葉にアランが思わず叫んだ。このようなおぞましくも恐るべき空気に、何度も触れてきたなどと常軌を逸している。

 たしかにソフィアやヴァールの来歴、特に大ダンジョン時代開始以前のそれはまったく不明のままだ。多くの者が古今東西、様々な場面でその正体を暴こうと試みてきたがすべて無駄に終わっている。

 

 誰よりも有名でありながら誰よりも謎に満ちた存在。

 そんな彼女が歩んだ道のりはいかなるものだったのか、アランは問いかけずにはいられなかった。

 

「ワタシ達のことなど気にする必要はない。たまたま、そうたまたま経験を積む機会があっただけだ。恵まれた、などと口が裂けても言いたくはないがな」

 

 そんな彼に、無表情のままヴァールはそっけなく答える。

 一切仔細を明かす気などないという、分かりやすい態度だ。普段クールながら対応自体は柔らかなだけに、そうした拒絶の態度は否応なく相手にこれ以上の追及を許さない。


 内心では同じ疑問を抱いていたマリアベールやサウダーデ、他の意識のある探査者達も……誰もが二の句が継げず絶句する中。

 口元をわずかに歪め、ヴァールはあえて明るめの声色で語った。

 

「そら、とりあえず帰るぞ。動ける者は意識のない、動けない者を背負ってやってくれ。《鎖法》、鉄鎖乱舞」

 

 スキルを発動し、右腕から緩やかな勢いで無数の鎖を放つ。殺傷力のない使用法だ。

 倒れ伏す者達に絡みつき、胴体を固定する。多少乱暴になるが引きずって帰るしかないだろう……このままここにいても意味はなく、万一ドラゴンがやってきた場合には危険ですらあるのだから。

 

 言われてマリアベールやアラン、サウダーデも介抱を手伝う。その胸にあるのはヴァールやソフィアへの疑問と、ドラゴンへの敗北感だ。

 戦う前から全滅した。そうとしか言えない状況なのだ、無理からぬことである。

 

 結局、この日は速やかに撤退したドラゴン討伐隊は、そのご一ヶ月をかけてギアナ高地の滅びの空気に慣れる訓練に費やすこととなる。

 そしてようやく威圧を克服した次には、いよいよドラゴンとの本格決戦が幕を開けるのであった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 こちらもドラゴンが出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 高地の低酸素に慣れるトレーニングも必要だっただろうから、ちょうど良かったのかも?
[良い点] これぞドラゴンという圧倒的な感じはいいですねぇ [一言] 少しは耐えてるサウダーデとマリアベールはさすがといったところですね
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