66年目-6 S級探査者アラン・エルミード
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
アラン・エルミード(27)
ソフィア・チェーホワ(???)
マリアベール・フランソワ(48)
サウダーデ・風間(25)
マルティナ・アーデルハイド(41)
神谷美穂(36)
フローラ・ヴィルタネン(25)
めでたくも祝福の中で最愛の女性と家庭を持つことになったアラン・エルミードだが、直後にもう一つ素晴らしい慶事に恵まれることとなった。
第五次モンスターハザードから第六次モンスターハザードまでの功績や実績、探査者としての実力が公に大きく評価されることとなったのだ。
それすなわちS級探査者への昇級……世界屈指の探査者であると、ついに認められたのである。
27歳での認定。実力的にはとっくに世界最強クラスにも数えられるだろう天才が、ついに公的にもその存在、その名を広く知らしめた形となった。
結婚式を終えた数日後。未だにフランス南西部に滞在しては毎日毎夜、どんちゃん騒ぎを繰り広げる友人知人達に囲まれての新婚生活をスタートさせたアランは、とりも直さずWSO統括理事ソフィア・チェーホワからの通達に目を丸くして唖然とすることとなった。
彼と新妻エミリアの愛の巣、エルミード家にマリアベールやサウダーデ、フローラ、マルティナや神谷など特に親しい面々がやってきては楽しくゲームなどして過ごす中での報せである。
「僕がS級探査者に? ……いやいやそんなそんなまさかまさか御冗談をソフィアさん」
「冗談でこんなこと言わないわ、私も。というか遅すぎたくらいだもの。少なくとも第六次モンスターハザードに参加する頃にはもう、あなたの実力はS級たるにふさわしいものだったじゃない」
「…………えええぇ?」
何をいきなりおかしなジョークをと一笑に付すアランだったが、微笑みながらも至って真面目な様子で告げるソフィアに本気を感じ取り、いよいよ戸惑いの声をあげた。
脈絡がなさすぎる。実力を過分に褒められているが、たしかにA級探査者の中では上澄みにいるいわゆるトップランカーである自覚はあるもののS級とまではいくまいと彼自身、思っているのだ。
急に過大評価をされたようでおそろしく座りが悪いと、助けを求めるべく周囲の仲間達を見る。
……エルミード家に置いてあるテレビゲームで交代交代にプレイしていた友人知人達までもが、納得しきりにうなずきソフィアの言葉を肯定していた。
「いやホントに遅すぎでしょうよソフィアさん。アランでS級になれてないのになんでこいつがS級なんだ? ってなるようなことが結構あったんですよこっちは。WSOの目は節穴なのかっていい加減言いたくなってたくらいさね、ハハハ!」
「第五次の時はともかく第六次の頃にはもう、パーティの誰より強かったですしね……マルティナさんやヴァールさんより強いってなるともう、S級クラスだなって思ってはいました、私も」
ゲームを眺めつつ酒を呑んでいた当代最強のS級、マリアベールが真っ先に本音をぶちまけた。
アランがこれまでS級でなかったことに加えて、最近S級認定を受けた何人かの探査者への疑問やWSOへの不満さえ口にしている。当の統括理事本人に向かってだ。
それに隣で冷や汗をかきつつも、四代目聖女としてフローラ・ヴィルタネンも私見を述べる。
彼女もA級探査者として腕の立つ身であったがアランはまさしく別格だった。規模にしろ威力にしろ、明らかに次元の違う領域にいたのだ。
なんなら彼女の目から見て、先代聖女のマルティナ・アーデルハイドや師匠の神谷美穂でさえ彼には及ばないと思えるほどだ。
そのマルティナが、コントローラーを操りレースゲームをしながら愉快げに高笑いをして答える。
「あっはははは! ぶっちゃけ第五次の最終局面あたりでもう私なんか抜かれちゃってましたけどね! それを思うとホント、仕事遅いですねえWSOはー! 才ある若手はさっさと重用しないと、その才ゆえに勝手に大成して逆に見限られる羽目になりかねないって分かんないですかねー!」
「マルティナ、口が過ぎますよ!」
「いえ、こればかりは言われても仕方のないことね美穂ちゃん。マリーちゃんの言う他のS級への言動には同意できないけれど、アランくんのS級認定は本来もっと、早期に行いたかったのが本音よ」
ヴァールほどでないにしろ苦手なソフィア相手にマウントを取れる、またとない好機ににこやかに笑いながら毒を吐くマルティナ。神谷が慌てて叱りつけたものの彼女は改めるつもりもないと高らかに笑う。
なぜならそれは、真実その通りでもあったからだ……10年ほど前に起きた第五次モンスターハザード。その最終盤に至る頃にはアランはもう、少なくとも戦闘力においてマルティナを超えていたのだ。
多くの先達、ベテランに囲まれての激闘の日々が彼を急速に鍛え上げたのは言うまでもないが、だったらそれはそれで第五次直後に速やかに認めて正しく評価すべきだったのだ。
でなければ彼ほどの才能ある探査者の可能性を、無造作に捨て置くことになりかねなかった。組織としての判断の遅さをソフィアも認め、肩をすくめる。
「けれど実際のところ、彼は若すぎたということもあるから。あまり早くにS級になるのも問題があるから、タイミングを見計らっていたところはあるのよ」
「ふむ……S級とはある種の権威。であれば若くしてその座につくのは本人のためにも良くなければ、周囲の反応も心配だったと?」
「まあ、そういうことですね、サウダーデくん。特にWSOの役員達からはそうした懸念の声が多く、それもここまで判断を先延ばしにした理由の一つですね。アランくんが探査者としてある程度成熟するまでS級認定は保留にする、という形です」
統括理事として絶大な権力や権威を誇るソフィアだが、だからといって決して独裁的に振る舞えるわけでもない。
役員達による懸念からくる反対意見を受けて彼女は、それゆえにアランが探査者として成熟するまで見守ることとしたのである。
そして今、その成熟は成されたと役員一同の判断が下された。理由は言わずもがな、彼の第六次モンスターハザードでの活躍とその後、結婚して家庭を持つに至ったことだった。
探査者の中でも最強格の強さを誇り、人として護るべき最愛を見つけた彼であるならばと、ようやくS級への道が開かれたのである。
そのような話を聞かされて、アランはどうにも渋面を浮かべてつぶやいた。
理解はするものの、納得はいきかねるという表情だ。
「なんていうか……若すぎるだの成熟だのって言われても反応に困りますね、正直。S級にしてくれだなんて誰も頼んでないのに」
「何様なのかって話さね、他人事ながら。若い頃の私にこんな話を直接持ちかけられてたら、いくらソフィアさんでも噛みついてたかもしれないねえ。WSOだか理事だか知らねえが、人のこと上から目線で見てんじゃねーぞってさ」
「え、えぇ……?」
「せ、先生。それはさすがに……」
あまりに知らないところで勝手に動いていた話に、思うところがなかったわけでもないアランだが……
続くマリアベールのあまりに血の気が多い言葉に、完全にそちらにドン引きしてしまっていた。彼女の弟子であり敬愛する友サウダーデ・風間も顔をひきつらせている。
実のところマリアベールもこの発言は、あえて過激にしたところはある。
無論本音は本音だが、ことさらに牙を剥き出しにすることでアランの溜飲を下げ、ソフィアやWSOへの不信感を和らげようとしたのだ。
これは永年世話になったソフィアへのある種のフォロー。
50歳を目前に控えたマリアベールの、人生経験を積んだ者ならではの話の誤魔化し方だった。
そしてそんな彼女の意図をしっかりと読み取り、感謝とともにソフィアはアランへと謝罪した。
「そうね。私自身、これはあまりに傲慢な理屈だと思うわ……それでも現在の社会制度上、仕方ないところはあるとご理解いただくしかありません。不快にさせてごめんなさいアランくん、マリーちゃん」
「え、ああいえ! あの、僕は別に、本当に戸惑ってるだけですし!」
「私だって若い頃ならって話ですよ。年食ってちったぁ分別もついた、今ならソフィアさんも大変なんだなって分かりますさね」
自分に代わって不快感を露にしてくれた先達と、それを受けて真摯に謝罪してくれた統括理事。そこまでされては人の良いアランとしては理解を示すことに躊躇いはなく、ものの見事にいつもの調子に戻る。
マリアベールの作戦勝ちだ。これをもってアランはWSOやソフィアへの隔意を抱くことなく、S級探査者認定を受理することとなる。
余談だが今回の件を受けてソフィアはすぐさまS級探査者認定制度の一部を変更した。
WSOが独断で決めるのではなく、各国政府や全探組が本人の意志を尊重した上で推薦し、それを判断する方式に変更したのだ。それも年齢制限などもつけず、ただその人品骨柄と実力のみの審査と本人への打診をもってである。
今のままではいずれ、本当にS級探査者にもなれる逸材を敵に回す組織になってしまう……
それでは使命が果たせないと強い危機感を抱いた彼女による、珍しいほどに強権を用いての変更であった。
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