66年目-5 天才、家庭を持つ
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
アラン・エルミード(27)
エミリア・エルミード(19)
ソフィア・チェーホワ(???)
マリアベール・フランソワ(48)
サウダーデ・風間(25)
フローラ・ヴィルタネン(25)
第六次モンスターハザード直後の来日と湯治の旅、そして無二の親友との再会を経てアラン・エルミードはフランス南西部へと帰還した。
無論、弟子にして最愛の女性エミリア・ハーケンも一緒だ。想いを通わせ晴れて恋人同士となった後でも、それはそれとして探査者としてはアランはエミリアの師匠であり、そしてエミリアはアランの弟子なのだ。
とはいえそんな体面上の師弟関係も、帰還して半年が経つ頃にはよいよ崩れ去ることとなった。
アランが早々にエミリアにプロポーズをし、それを受け二人の関係はより深く緊密なもの、すなわち夫婦関係へと移行したのである。
付き合い出すまでが長かったのに付き合いだしてからが早い!
……と、アランの師匠ユリアン・デューンも彼の謎のマイペースさには唖然とし、孫弟子にあたるエミリアに大丈夫かと思わず尋ねたほどだ。
もっとも当のエミリア自身は幸せいっぱいに微笑んでいるため、双方が納得ずくならと彼女も納得し。
かくして師弟関係から始まったこの二人は紆余曲折を経て、家庭を築くことになったのであった。
プロポーズからあっという間に手続きをしての結婚式も終わり、今は知り合いばかりを呼んでホテルの大ホールにて宴を開いている。
フランス南西部には新郎新婦それぞれの友人知人が集い、特に新郎たるアランのそれは実力ある探査者達がずらりと勢揃いしていたのだ。
WSO統括理事ソフィア・チェーホワやS級探査者マリアベール・フランソワにその弟子サウダーデ・風間。
さらにはダンジョン聖教四代目聖女のフローラ・ヴィルタネンや三代目マルティナ・アーデルハイドなどもおり、他にも地元の探査者達や親類家族までもちろんいる。
当然ながらその誰しもがアランの結婚を祝しにフランスまで駆けつけたのだ。
彼自身が若き天才探査者としての呼び声高いことも含め、場はさながら英雄達の会合の場めいたものにさえ、見る人が見れば思える光景だろう。
新婦、エミリア・エルミードが微笑んで隣に座る夫へと話しかけた。
「たくさんの人達が来てくれたね、アラン」
「そうだね、エミリー。みんなすごく忙しいのに、それでも僕達の結婚を祝いに来てくれたんだ……本当に嬉しいよ。こんなに幸せなことはない」
見ればアランの目は少し赤い。忙しい中それでもやってきてくれた友人達に、ついさっきまで感動の涙を禁じ得ないでいたのだ。
もっと言うと本日この場にいない者達からも、先んじて電話やメール、果てはレターなどで祝辞を述べられたりもしている。
誰もがそれぞれ自分自身の用事もあるだろうに、それでも合間を縫って喜んでくれているのだ。
それがひどく嬉しく、ありがたく。アランは心からの感謝と幸福感を胸に、エミリアに微笑む。
「君のおかげだよエミリー。君に出会えなければ、そして君が僕を好いてくれなければこんな日を迎えることはきっと、できなかった」
「こっちの台詞よ、アラン……あなたが私の想いに応えてくれたからこそ、こうして一緒になれたの。愛してるわ」
「僕も。この世のどんなものよりも、君を愛している」
夫婦となった以上、もはや師弟関係としての上下はどこにもない。あるのは対等にお互いを想いあい、尊重しあい尊敬しあう比翼連理の関係性だけだ。
見つめ合い、愛を語らう。新婚ということもあり燃え盛る愛の炎は、周囲の生温い視線やからかいの言葉さえも薪としてさらに烈しくなるばかり。
そんな両人を見て、マリアベールは苦笑いして酒を呷った。
隣に弟子のサウダーデと統括理事ソフィア、聖女フローラが並び、ともにアランとエミリアを語る。
「ったく熱々だねえ。見てて面白いから酒のあてにはなるが、にしてもアランのやつが弟子とくっつくとは予想外だったよ。変なところでのんびりした坊やだったのが、やる時ゃやるじゃないか、ハハハ!」
「微笑ましいわねえ……そういえばマリーちゃんは、ヘンリーくんと結婚した時は別にああいう感じでもなかったわね。変わらずずーっとお酒を飲んでいたけど」
「いやーいくらなんでもああまで熱烈にゃなりませんよ、お互い。そのくらいには気心知れた同士なもんで」
そもそもからして、アランが弟子に手を出した形になったことに驚きながらも笑うマリアベール。
実際のところそれだけエミリアのアプローチが苛烈なものであり、女性への免疫というものに乏しかったアランが一方的に押し負けた末の両想いなのだが、そんなことなど知る由もない以上はある種の背徳性を感じ取っても仕方のないことだろう。
一方で第六次モンスターハザードにおいて新郎新婦とパーティを組んでいたソフィアとしてはそのへんはよく分かっているため、想い叶ったエミリアをひたすら微笑ましく思うばかりだ。
なんならマリアベールの新婚時代を引き合いに出すくらいで、そうなると今度はマリアベールのほうが微妙に反応に困ると複雑な笑みを浮かべる始末だ。
誰であれ、新婚時代というのは浮かれるものということなのだろう。
「良いものだ、家族を持つというものは……俺もいつかは、あのように想い想われての中で幸せな家庭を築きたいものだな」
「あの様子でしたらお子さんとか、じきにこさえるんでしょうねえ……幸福のうちに産まれ出づる命。良いですねえ」
一方でサウダーデとフローラの、アランと比較的同年代の二人はひたすら優しい瞳で新たに夫婦となった親友達を見守っている。
家族を失ったサウダーデに、家族から金儲けの道具としてしか見られなかったフローラ。ともにベクトルは違えど家庭というものに憧れを抱く二人だからこそ、今、幸せの只中にいるアラン達を心から祝福したいと思えるのだ。
この日、祝福に囲まれて晴れて成立したエルミード夫妻。
アランとエミリアの行く末は、どこまでも明るい未来の中にあった。
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